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平成23年3月17日(木)



 本日は0900頃に宮城県の牡鹿半島大原湾に投錨をした。

 目的は、港湾内の避難生活者に対するニーズの把握。

 午前中と午後の2回に分けて調査を行う予定だったが、午前中は降雪による視界不良のため取りやめとなった。


 外に出たら甲板の隅などに雪がうっすら積もっていて驚かされた。

 いや本当に、東北の寒さの厳しさを思い知らされた。

 なにせ春なのに気温が氷点下なのだから。


 しかしエンジンを止める機会が生まれたことは、機関科としては幸いなこと? で、浮遊物の多い海域にいたことから冷却海水用フィルターの総点検などを行った。

 造水装置 ((注1))も2次フィルターの目詰まりが限界値を越えたため交換。主機の潤滑油補給なども行い、午前中は久しぶりに機関科らしい仕事に没頭することになった。


 午後は調査隊を作業艇に乗せて岸壁に向かうことになった。

 隙あらばまた参加しようと、機械員長に申し出たが、多くの人間に体験をさせたいとの意向から却下された。

 機械員長は「行けるなら俺が行きたい。20年くすぶってだらだらと過ごしてきたが、本来の仕事を思い出したよ」と熱っぽく語っていた。


 確かに、機械員長という責任ある立場ともなると、そうそう船を離れるわけにも行かない。

 僕は2度も作業艇や内火艇で作業をする機会を与えられて、まだ幸せな方なのだろう。

 これが護衛艦やその他の大型艦艇の乗り組みだったら、当然、上から指定された者しかこういう場を経験する機会を与えられなかっただろう。かといって、小型艦艇だと燃料等の補給の問題があるから行動日数が少なくて持続的な活躍もできなかったことだろう。

 2000トン級補助艦艇にこの時期に乗り組めたことは、なかなかの僥倖だったのかもしれない。


 さて、そろそろジュースが残り少なくなってきた。

 機械員長が、横須賀に残った自艦乗員に電話をしたら、在庫不足でジュースの手配もままならない状況だという。

 横須賀地方総監部の嗜好品購入支援 ((注2))もあまり役立った感がしないし、補給のため横須賀に帰投しても上陸できない可能性が高いことを考慮すると、今後は身の回りの品不足に悩むことになりそうだ。

 愛飲のお茶とか、洗口液とか、マスクとか、持病の薬とか・・大丈夫かしら。


 ちょっと心配。

 横須賀に戻ったら1時間でいいから家に帰らせてくれないかなと思う。

 そういえば今日の昼飯は缶飯だった。調理員を休ませるためか、それとも、そろそろ生糧品 ((注3))が残り僅かなのか、どっちなんだろう・・。


 本日はテレビのニュースで頻りに「自衛隊」という言葉が飛び交っていた。

 原発を冷却するため決死の活動を行うヘリコプターであったり、お年寄りを背負う隊員であったり、統合幕僚長であったり、内容は様々だが、少し前までは考えられなかったような気がする。

 それだけ今回の災害は深刻なものなのだろう。映るのは陸自ばかりだけど、自分も自衛官の端くれなので頑張ろうと思う。

 さて、投錨とはいえ即時待機 ((注4))で直押し体制なので、深夜ワッチに備えてもう寝よう。




(注1)

 艦艇の乗組員にとって、真水はとても貴重なもの。海水中から塩分を取り除いて、飲用可能な真水を作り出してくれるのが造水装置である。機関科の管理している機械で、海水を蒸発させて塩分を取り除く方式と、中空繊維を用いたフィルター式の2通りがあるが、Wは後者を採用している。


(注2)

 何の用意もないまま出動した艦艇が多かったため、隊員達の日用生活品購入支援を総監部で行った。とはいえ通常の補給もままならない状況だったので、結局頼んだ物が届いたのは、災害派遣終了の間際であった(僕の乗っていた艦の場合だが)


(注3)

 所謂、生鮮食品のこと。米や缶詰など長期保存可能な物は貯糧品と呼ばれ区別される。


(注4)

 いつでも錨を上げて出港できるよう、航海中と同じように各部署に乗員を配置し待機すること。

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