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平成23年3月14日(月)



 今日は、自艦Wの災害派遣として初めての本格的な仕事が待っていた。

 金華山島 ((注1))で孤立している島民の安否確認を行うというものだ。

 とはいえ自分の出番は無し。


 金華山島派遣隊の機関科作業員には西士長と機関科電機員の明日田3曹、作業艇機関長 ((注2))には取手士長が割り当てられた。

 当初は10時頃に島の近くに到着し、派遣隊を作業艇で送る予定だったのだが、送り出してしばらく経った頃に、再び津波が発生したとの連絡があった。

 そのため島の2000メートル手前で作業艇を引き返させ、揚収後一目散に島の海域を離脱した。


 この判断には、皆少々苛立った。

 テレビでは警察や消防、陸上自衛隊が余震・津波・放射能の危険性を認識しながらも救助活動に励んでいたからだ。

 逃げ出す途中では、福島第1原発の3号機が爆発(後に建て屋のみの水素爆発と判明)のニュースも入り、このまま島に戻らずに引き上げるのではないか、という可能性も頭にあった。

 正直、(だから海上自衛隊は・・・)と思ってしまう。しかし、1時間ほど航行したところで引き返すことになり、再び派遣隊の準備が始まった。


 1430頃、再び派遣隊を島に送り出し、後は島民の状況確認待ちと言うことになった。

 島の周囲には、午前中は多数のゴミや漁船などが漂っていたのだが、午後になるときれいになくなっていた。

 潮流の関係かと思われる。

 午前中の津波の話は、どこかの市の職員が潮の満ち引きを津波の予兆と勘違いしたものだと判明。

 肩すかしを食らったりもしたが、こういうことは混乱時には往々にしてあるものだろうと思った。それにしても情報の出所が海自ではなくてよかった。


 しばらくして島民その他全員の安否が確認され、そのうち十数名が石巻の避難所への移送を希望していることがわかり、内火艇 ((注3))で電池やホッカイロなどの救援物資を送り出した後、艦内に収容した。

 どうやらほとんどが、島の神社や公園などの関係者だったらしい。


 ただ、その内の2人は親子で、島外の人間とのことで、そのまま作業艇にて間近の陸地へ送った。

 がれきの山になった岸壁を、よじ登るように上がった親子。中学生ぐらいの娘は何も言える状態ではなく、父親だけが何度も頭を下げていたという。


 島に残った3名は、神社の関係者で、一人は老婆だったとのこと。

 「お宮を守る」と話していたという。


 西士長と取手士長が初めて見た、震災の光景だった。

 正直に羨ましいと感じている自分がいた。



(注1)

 金華山島とは、宮城県牡鹿半島の石巻市沖合に浮かぶ島である。島内全域が神社となっている。


(注2)

 作業艇を運行する際、搭載エンジンの起動停止や保守管理のため機関科から一名を派出する。


(注3)

 Wは作業艇の他に、もう一回り小さい搭載艇も積んでいる。内火艇と呼ばれ、主に人員・小荷物移送や連絡に使用される。

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