平成23年3月13日(日)
0245起床。
3直操縦員として配置につく。自艦Wでは、機関科員を4つのグループに分けて、24時間4交代で機関操縦室と機械室に詰めている。僕はその3直員というわけだ。
初めての本格的?操縦員なので落ち着かない。なんども操縦盤や計器盤、データロガ などを見てしまう。
機関科3直の責任者、つまり機関科副直士官はまさかの機関士。
何というか、早口というか急ぎすぎというか、もう少し落ち着いて話せばいいのにと思う。物事はよく知っているのだが。
0400過ぎに2号補助ボイラ の燃料圧力計の導管袋ナットから漏油。
機関士の許可を得て、1号補助ボイラに切り替え修理を実施。コマではなく拡管式だったので、亀裂部をパイプカッターで切り落として拡管器にて押し広げて再度取り付け。
久しぶりの拡管器取り扱いにドキドキ。
再起動し異常なしを確認。1号補助ボイラを通常停止させる。(ブローさせるかどうかで迷ったが、結局ボイラ水がもったいないから通常停止とした)
その後、ワッチ終了。
次直の先輩2曹にドキドキしながら申し継ぎ終了、朝食をとる。
ニュースでは津波のリアルな映像が流れ、目が釘付けに。
その後、福島第1原発3号機が緊急事態を通報し、通算6機が緊急事態にあることを知る。
大丈夫かこの国。
その後、0716頃、艦底から突き上げるような振動を何度か感じる。
すぐにニュース速報が流れ、福島県にて震度3程度の余震があったことを知る。
福島県沖浅深度にてマグニチュード6.0の地震があったことをテレビで確認したところで、英気を養うため就寝。
1045頃目覚める。
食事をした後、年間の行動予定を元に燃料の消費量を算出する作業、及びジュースの在庫調査、万が一のジュース注文に備えて数量別の注文表を作成。
その後、1345から3直員として再び配置につく。
交代直後にいきなり細かい変速指示やバウスラスター電源準備 等重なったため、たちまちパニック。やばいやばい。何とか慣れたものの、なかなかパッとできるようになるには時間がかかると思った。
機関士の良いところは、大らかなところ。
おかげで大慌てをしなくてすんだ。
昨日から行われている放射線量計による計測は、今のところ異常なし。
応急員長の話では、3~4隻の船が漂流しており、そのうち1隻は転覆していたのを艦橋で目撃したそうな。
Wは、漂流するそれらを発見しては近付き、生存者の有無を確認しているらしい。
ワッチ終了後、外にでてみると、確かに船の舳先らしきものが海面に浮かんでいた。
しかし、だんだん近づいてくるそれは、船ではなく家の屋根だった。露出した屋根の梁に布のようなものが掛かっていて、少々ドキッとしてしまった。
携帯電話は全く通じず。
電源を入り切りすると三本立ったりするのだが、すぐに圏外になりメールの問い合わせも不能。まあ、まだ家族が恋しいとかそういうのはない。
しかしニュースで、被災した女性が呆然とした様子で幼児にヨーグルトを与えている姿を見て、少し悲しさを覚えた。
もしあれが、あるいは津波に飲み込まれたのが自分の息子だとしたら、と考えてしまう。
もし遺体揚収などで子供を引き上げる場面などに居合わせたら、泣いてしまうかもしれない。
ないかもしれないが、そういう作業に携わることになったら、どんな変わり果てた姿になっていたとしても、精一杯手を合わせてあげようと思う。
甲板掃除終了後、ワッチに入っている甲板海曹 から火の元点検の代行を頼まれ、ぎこちなさ全開で艦内を回る。
その後、先輩の2曹二人と共に潤滑油清浄機 の安全継ぎ手交換修理を実施。
清浄機を止める際に循環弁を閉鎖してしまったため、軸に負荷がかかって安全弁継ぎ手が自ら折損したものだった。30分程度で修理作業は終了し異常なし。
その後、洗濯しつつ息子の録りためておいた映像をPSPにて鑑賞。やはり我が子愛しや。
そして就寝に至る。
今日も暗いニュースばかりだった。
宮城県では1万人以上の死者が出る見込みだそうな。
福島でも大勢の人が行方不明になっていると思われる。
つらい仕事が待っていそうだ。
(注1)
機関操縦室には、主機や発電機などの運転中の状態数値を表示して記録する装置が備わっている。表示内容は温度や圧力、回転数、角度など様々。
(注2)
艦内での調理や給湯、暖房などの目的に供される蒸気を生み出す為の装置として、補助ボイラが艦艇には搭載されている。蒸気タービン推進の護衛艦などでは、所謂メインエンジンを主ボイラと呼んでおり、そうではない補助的なボイラという意味で名付けられた名称。
(注3)
海上自衛隊の艦艇では、任務に応じて、艦首喫水線下にバウスラスタという装置を備えている。右舷・左舷どちらにも水流を送り出せるプロペラ機構であり、これにより艦位の定点保持や単独での出入港が可能となる。大きな電力を消費するため、機関科員は複数の発電機を起動したりでてんてこ舞いとなるのだ。
(注4)
艦内に編制される各分隊から一名ずつ、甲板海曹という係が選ばれる。艦内の美化清掃を主たる任務としており、甲板掃除終了後の見回りなども重要な勤め。大体、無役の海曹で持ち回りされる。
(注5)
運転中の主機内部を循環する潤滑油は、常に燃料の煤や水分、汚れなどが混入する。その不純物を取り除くために潤滑油清浄機という装置が備わっている。