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平成23年3月12日(土)



 午前4時過ぎ、艦内の号令マイクにて「作業艇 ((注1))降ろし方用意」の命令が聞こえ目が覚める。

 自艦Wと会合したのかと思ったが、誰も呼びにこないので違うものと判断。すぐに「上げ方用意」もかかった。理由は不明。

 親しい友人から「きばってこい」との励ましメールをもらう。何度も読み直した後、再度就寝。


 午前6時総員起こし、洗面後食事。

 情報収集用のテレビで放送されていたニュースを見て、地震被害の甚大さを改めて知る。


 8時過ぎ頃、1030に自艦Wと会合できる旨を知らされる。

 借りた部屋を掃除。


 0925に艦内の甲板にてW乗員集合。

 N艦長への退艦挨拶の要領確認。ここで、僚艦Nは被災者救助用の引き上げカゴを制作しているのを確認。普段は作業場として使われる広い空間に救援用物資(毛布・消毒薬など)を集積していた。

 0930、N艦長へ退艦の挨拶。


 食堂にてしばらく待機の後、1015頃、W搭載の作業艇が迎えに来てくれた。

 海には至る所で、漁港から津波で運ばれてきたとおぼしき袋入りの発泡スチロールが浮いていたことを視認。W帰艦後、艦長から「厳しい行動になるががんばってほしい」との指達を受け別れる。

 その後、機関長と機関士に挨拶し、作業服に着替える。


 若干の休憩の後、自分の役割である燃料係 ((注2))の仕事に取りかかった。

 自艦Wのこれからの行動可能期間を燃料タンク総量をもとに算出。Wは元々、出港が直近だったため、燃料はほぼ満載状態。任務を終えた帰港後の燃料搭載のスケジュールまで立てておいてある。

 だがその後、機関士から帰港後の燃料搭載が困難な状況にあることを知らされる。


 こういう状況だから仕方ないと思ったが、よくよく話を聞くと、機関士が4室LSC ((注3))に肝心の後方支援依頼の書類を入れず、封筒だけ送付していたことによる混乱が元であると判明。必死に釈明を試みる機関士を前に、内心、(この役立たず)と舌打ちする。


 所属群から在庫を知らせるよう連絡がきたので、機関士に伝えた後、食事。

 その後、機関長へあらためて、行動可能期間が約3週間程度であることを伝える。


 ワッチは2100以降に入ればいいとのことだったので、1600頃まで自分のベットで昼寝をした。

 起きた後、食堂に行くと、福島第1原発の爆発のニュースが。

 ちょうどWは福島県沖を航行中だった。気になりつつも、忙しくなると思い入浴。


 定時の燃料在庫量を計算した後、夕食。

 在庫量の報告を艦橋と電信室へ伝えて、テレビで情報収集。

 放射能漏れのおそれがあるとのことでWも全速力で海域離脱していた。


 甲板掃除が終わった後、艦内唯一の自販機に補給作業。

 自販機の在庫管理は、本来、別の人間が担当しているのだが、その人物が今回は乗艦していなかった。東北出身と言うことで、身内の安否確認などのために横須賀基地へ残ったのだ。


 自称お人好しの僕は、普段から補給作業をこまめに手伝っていたため、周囲からの「お前が代わりに管理しろよ」との圧力に屈してしまった。ジュース係心得の拝命である。


 乗員約100名に対し24時間フル稼働、自衛官は何かと缶ジュースが好きなため、あっという間にコインケースがいっぱいになってしまう。そのため、取手士長、西士長、旭士長などに協力を仰ぎ、会計作業。鏑木3曹が手伝いにきて少々うざいと感じる。


 その後、報道に一喜一憂しつつ、また、テレビ出演の専門家が()()()()()()()()()()()ことなどに皆でつっこみを入れてみたりした後、解散。

 艦内唯一のプライベート空間であるベットに潜り込む。

 この日記を記入する為だ。


 あらかた書き終えた後、お茶でも飲もうかと科員食堂に行ったら、テレビでまた「大きな余震が福島で起きた」と報じていた。今回は震度5弱とのこと。

 この国は大丈夫だろうか。

 今回の行動中は操縦員 ((注4))の配置なので、機関要務で申し継ぎ事項を確認しておく。


 明日以降、つらい仕事が待っているのだろうか。

 災害派遣に対する不安は少なく、むしろ、早く救助に向かいたいとはやる気持ちもある。とにかく、持ち場を守ろう。やることをやろうと思う。




(注1)

補助艦艇などに搭載される、大きめのディーゼルエンジン付きボートのこと。正式には11メートル搭載艇と呼ばれる。


(注2)

機関科の様々な物品を保守管理する倉庫長の元、特に艦に搭載される燃料等(軽油、潤滑油、油脂類)の管理を任されている係。艦の規模に応じ、機関科2曹~士長の中から任命される。


(注3)

横須賀地方総監部の中にある後方支援を統括する部署のこと。艦に燃料や真水などを搭載する際の連絡調整を担っている。


(注4)

艦の心臓とも言うべきエンジンの監視を行い、艦橋からの指示に応じて速力などを調整する役割のこと。クソ熱い機械室ではなく、快適な冷暖房が効いた機関操縦室で勤務できることが魅力。

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