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平成23年3月26日(土)



 本日は0700頃、石巻沖にて補給艦Tと会合し、洋上補給 ((注1))を行った。

 作業艇で物を受け取りに行っただけの話なのだが、生糧品3日分というのはありがたいものだ。

 てっきり、自艦Wの乗員数を基準とした3日分だと思っていたのだが、予想外にたくさん届いたのでびっくりした。牛乳だけでも、3日間毎食飲めるぐらいの数が来たのではないだろうか。そのほか野菜なども豊富に取りそろえてあった。


 段ボールを見ると、呉造補所 ((注2))の文字が。恐らく関東では物流が麻痺しているので、中国地方で調達されたものなのだろう。そのほかにもタバコも届き、煙に飢えていた人にとっては朗報となったようだ。

 そのため、昼も夜も野菜をふんだんに使ったメニューだった。

 昼食はトンカツ、久しぶりに付け合わせのキャベツを山盛りにして食べた。レモンもありがたい。夜は焼き魚とニンニク茎・タマネギ・ウィンナーの炒め物。やはり船において食事は重要だ。


 どうやら明日には入港になるようなので、この行動中書き続けてきた日記も、今日で締めくくりにしたいと思う。明日は家に帰って息子と遊んだり、妻とお酒とか飲んじゃうだろうから。

 で、この16日間の航海について総括すると、充実した部分もあり、嫌なこともあり、楽しかったこともあり、自身の見聞を十分深められたんじゃないかなと思う。不謹慎だけど、被災地の中心に立って考える機会もあったし。


 日記を書く前にゴーストハント ((注3))をDVDプレーヤーで鑑賞したのだが、その中のクリスマス編を見ていて、ふと、遺体だけでも家族の元へ返してあげることの意味について考えてみた。

 たぶん、すごく大切なことなのかなぁと。

 ニュースでは、今回の津波で大切な人を流されて、せめてその体だけでも見つけてやりたいと話している人がいた。痛ましい姿になり果てていたとしても、やはりその方がいいのかなと。そう思うことで、僕たちのしていることにも意義が見いだせるんじゃないかなと、まあ、何となく結論を出してみる。


 今日も一応、捜索救難が名目だったけど、司令部の厚情か、茨城県常陸那珂沖を捜索エリアに指定された。今夜、分離命令が2群から出れば、Wは明日には横須賀へ入港だ。


 つぎの行動では、たぶんまた遺体捜索がメインになってくるんじゃないかと思うけど、「つらい仕事」もやれるだけやってみようと思う。もしかしたら衝撃的な光景に直面するかもしれないけど、それすらも人生の糧にできれば本望だ。できればの話だけど、頑張ろう。




(注1)

 基地や港ではなく、洋上にて他艦(主に補給艦)から補給を受けること。搭載艇による物資輸送の他、併走状態にて艦艇同士で索を渡して物資を受け取るハイラインという方法もある。


(注2)

 広島県の呉地方総監部に所在する組織。主に呉を母港とする艦艇への補給や修理を受け持つ。


(注3)

小説「悪霊シリーズ」を原作とし、2006年に放映されたアニメーション作品。FILE5「サイレントクリスマス編」では行方不明になってしまった少年の遺体にまつわる物語が描かれる。



 大津波の映像や原発事故の問題をこぞってメディアが取り上げる時期になると、いつも読み返すノートがある。夏休みの宿題でも日記を三日以上続けることが出来なかった自分が、唯一、二週間以上書き続けることの出来た日記帳だ。


 あの頃の自分が、何を考え、どんな気持ちを抱いたか。

 狭い艦内の三段ベットで、枕元の小さな蛍光灯を頼りに書き連ねた日々。感動のヒューマンドラマとはほど遠い、人間同士の軋轢や、愚痴や、小さな出会い、他愛もない会話。起承転結などはなく、淡々と紙に並ぶ文字たち。アニメは楽しい、食事はまずい、うまい、そして、つらい仕事。


 決して誰かのために書いたわけではない。毎年、3月に読み返すたびに思う。

 だが当時「僕」は確かにいて、あの場所にいて、書いた通りのことを考えて行動した。過去は思い返せば思い返すほど、強烈に生き残ろうとあがく。1年後には平成が終わろうとするこの時に、この日記を公開しようと考えたのは偶然ではないのかもしれない。


「僕」はこの日記が終わった後、「つらい仕事」に携わることは二度となかった。数年後にはそもそも奉職生活とも別れを告げた。艦艇勤務を思い出させてくれるのは、この日記帳と何枚かの写真と、数枚の退職関連書類だけだ。


 今も艦は往く。

 その中には様々な人の思いが詰まっていることを、どうか、貴方に。



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