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7 神聖なる朝の儀式




 「 スーちゃー・・・。 朝ですよー・・・。 ふぁーっ・・・ 」


 「 んん・・。 おはよ・・ ひゃんっ?! 」



 飛び上がり辺りを見回す。下着姿のミーちゃんが寝袋の上に座ったまま眠そうな目を擦っている。私の方は寝袋から1m程離れた場所にいるみたいだ。んん?



 「 どうしたんですか?! スーちゃ・・・? 」


 「 な、何でもないの!! おはよう!! ミーちゃん♪ 」



 昨日の夜、私達は『空間』を森の上空に待機させたまま眠りに就いた。なので目が覚めた時に体が宙に浮いていたので思わず変な声が出てしまったのだ。このまま空の上にいると更に大変な事になってしまいそうだったので慌てて敷物の上へ移動した。



 「 怖い夢でも見たんですかー? 明け方少しうなされていたみたいですけれど。 」



 うなされていた?昨日はミーちゃんに抱き付いたまま心地よい眠りに就いたはずなのに?温かくって、柔らかくって、いい香りがして、思わず食べてしまいたくなる様な・・・ん?ああ、なんか見たかも。何かに食べられそうになってたような気がする。思い出せないけれど。夢の中までは出て来ないで欲しい。本当に。背中が汗で少し気持ち悪い。床で寝てしまったせいか体もあちこち痛い。



 「 だ、大丈夫。 ちょっと寝ぼけちゃってたみたい。 あははっ♪ 」



 座ったまま寝袋の上で大きく伸びをして、そのまま右の手首を掴み左へ倒す。反対側も同じく倒して脇の下を伸ばす。次は水平方向で肩の裏側を。指を組んでそのまま天井へ向けて大きく左右へ倒す。今度は背中の後ろで組んで下から上の方へ伸ばす。頭の後ろで指を組んでそのまま体を左右に捻る。足を伸ばして前屈。左右の足の裏を合わせて身体の方へ寄せる。足首を掴んでそのまま前屈。おしり振り体操は・・・人前でやるのは止めておこう。うん。最後に胸の位置で手の平を合わせてそのまま力を入れる。入れる。入れる。



 ( 大きくなぁーれ!! 大きくなぁーれ!! )



 よし!!



 今日も一日頑張ろう!!




 朝の支度をする為に『空間』を移動させて開けた場所を探す。小さな川が流れてる辺りへ下りる事にした。そのまま外へ出ようとするミーちゃんの為に私は『入口』を作らない。



 「 服を着ろ。 」



 ミーちゃんがやっと服を着てくれたので私も準備を始める。時間はあまり残されていないからだ。



 スコップと鉈。ロープと敷物。それに数本の細長い棒と折り畳み式の特注の椅子。テーブルを並べる予定の場所から少し離れた辺りに平になっている場所を見つけた。鉈で下草を刈る。穴を掘る。掘る。掘った土は一か所に積んでおく。周りを確認してロープを渡す。小さな穴を開けて棒を立てて踏み固める。渡したロープに敷物を掛けて穴の周りを覆い隠す。最後に特注品の椅子をセットして完成だ。この間3分。



 フフフ・・・。



 完璧だ。



 我ながらなかなかの手際だと思う。完成度も高い。ウィルさんに作ってもらった『U字型特殊椅子』があればこその出来上がりだ。何とか間に合ったようだ。私はそのまま神聖な朝の儀式を行う事にした。




 ( あー。 あーあー。 てすてす。 スーちゃ聞こえますかー。 )


 ( ・・・いから。 )


 ( んん? だいじょーぶですかー? どうぞー。 )


 ( あり得ないから!! )





 神聖な儀式を始める。



 私は体の一部を生まれたままの姿にして神へと至る玉座に腰を下ろした。



 儀式は滞りなく執り行われて神からの啓示が与えられようとした正にその時に・・・。




 ( 神は何故、私をお見捨てになった!! )




 何かが私の空間認識内へ走り込んで来た。



 10m程の距離だ。



 私は即座に反応し迎撃の準備をして迎い討つ。



 討てる訳ないじゃない。



 最中だったんだもの。




 あー。無理よ無理?動ける訳ないじゃない。来るのが分かっていたって。昨日と同じ轍は踏まないように空間認識だってちゃんと張っていたし集中もしていた。でも何?それがどうしたっていうの?理不尽な暴力の前には全ての知恵も努力も踏みにじられてしまうって事なの?ねえ?どうして?どうしてなの?いいわ。もういい。分かりました。分かりましたとも。言い訳はしない。事故。そう、これは事故なのだから。私は悪くない。恥じる事なんて何一つ無い。そうだ。そうと決まれば対策を考えよう。私に出来る事を、だ。結界。そう、結界だ。それしか無い。ああ、でも足元には張れないわね。どうしよう?取り敢えず数秒、10秒位は時間が欲しいわね。まだまだ止まりそうにないから。何がって?汗よ。汗。それに近すぎるのも嫌ね。齧られるのは嫌だし。距離を空けて結界を重ねて張ろう。2枚位?うん。大丈夫だと思う。そろそろ1秒位たったのかしら。集中力が切れてきたみたい。高速思考にも、もう少し慣れておかないと駄目ね。寝る前に練習しよう。あ。景色が動き始めたみたいね。そろそろ限界みたい。結界発動。よし。準備完了。私は勝つ!!10秒間耐えてみせる!!




 結果から言うと作戦は失敗した。



 2枚の結界は一瞬で弾き飛ばされた。



 その瞬間私自身の前にも2枚の結界を張ったのだが結界ごと後方へ押し込まれしまった。



 体を押し込まれながらも残りの結界を前後に展開して辛うじて巨体を受け止める。



 鼻息を荒げ獲物を押しつぶさんとする巨大な猪と、足を開き膝を曲げ両手を前へ突き出し突進に耐える少女の姿がそこにはあった。



 ステラ・リーノット。



 私じゃなければいいのに。





 ( いやー。 スーちゃは欲張りさんですねー♪ )


 ( そういうのは、もういい。 いらない。 )


 ( おや? そうですかー? )


 ( うん。 今のは私悪くないもの。 )


 ( あー。 かもですねー。 そいつらの突進力って、ちょっと洒落になっていないですからねー。)


 ( うん。 結界2枚が瞬殺されたもの。 )


 ( そいつら突進してくる時に、魔力込めてたりするんですよねー。 あれはきついです。 )


 ( 猪なの? これ。 2m以上あるみたいだけれど。 )


 ( そうです。 猪です。 肉が美味しいと評判ですね。 狩の対象としては人気がありますね♪ )


 ( 何枚なの? )


 ( えーっと、金貨1枚位ですかね? その大きさだと。 )


 ( 倒して。 )


 ( んん? )


 ( ミーちゃんが倒して。 )


 ( ミシャが倒してしまうと、練習になりませんよ? スーちゃ。 )


 ( この状態で動くのは嫌なの。 これ以上 ・・・汚したくないの。 )


 ( あー。 まあ、そうですよねー。 )


 ( 昨日みたいに、取り乱したりはしていないでしょ? 私。 )


 ( そう言えばそうですねー。 今日はなんだか余裕が有りますね♪。 )


 ( これは事故なの。 そう、悲しい事故なの。 )


 ( んー。 でも本当に良いんですか? ミシャが殺っちゃても? )


 ( いい。 熊だと怒られるかもしれないけれど、猪は問題ないと思うの。 )


 ( それに、スーちゃでも瞬殺出来るんじゃないですか? )


 ( 出来る、と思う。 けど嫌。 嫌なの。 )


 ( どうしてですか? )


 ( ミーちゃん。 私、女の子なのよ? こんな格好で戦うのはもう嫌なの!! )


 ( あはは♪ 仕方ないですねー。 分かりました!! そこまで言うのならやりましょう!! )


 ( お願い!! ミーちゃん!! 私の為に戦って!! )





 ズドン!!



 鈍い音と共に猪の腰の辺りが1m程横へずれた。


 後ろ脚2本がゆっくりと膝を付く。


 それでも残る前足で地面を掻き体を捩り新たに現れた敵の方へ向き合おうとする。



 ズドン!!



 向き合った反対側の脇辺りに衝撃が走り今度は体ごと真横にずらされてしまう。



 「 いやー♪ 本当に丈夫ですねー♪ 流石です♪ 」



 ズドン!!



 目と目の間に拳がめり込み猪はそのまま動かなくなった。




 小川に入り体を洗う。朝から水浴びなんてちょっと贅沢な気分だ。女子力が高すぎるんじゃないかしら?私。そんな事を考えていたらミーちゃんが『U字型特殊椅子』を運んできてくれた。壊れてはいないみたい。良かった。流石はウィルさん謹製。ミーちゃんから椅子を受け取り川の中でそれも洗う。自分で汚した物を洗って貰うのは、流石に気が引けたからだ。あ、でもミーちゃんのだったら私は洗えるかも。うん。全然嫌じゃない。『手』で着替えを持ってきて、それを身に着けて再び洗濯を続ける。なんだかいつもの光景になりつあるのは気のせいだろう。お気に入りだったのに汚してしまったのが少し悲しい。



 小川から上がるとミーちゃんが猪の血抜きをしていた。



 「 これは食用なんでちゃんと血を抜かないとダメなんですよー。 買取り額が下がってしまいますからねー。」


 「 金貨1枚っていうのは、血抜きをした金額なの? 」


 「 いやいや。 そうじゃないんですよ。 ギルドの依頼には討伐料の他に買取りというのがあるんですよ。 猪だと討伐料は一律銀貨2枚。 狼も銀貨2枚。 差が付くのは買取りの方なんですよ。」


 「 ふむふむ。 」


 「 狼だと肉が取れないですからね。 毛皮の値段で銀貨2枚。 だから狼は銀貨4枚になるですよ。 」


 「 なるほどー。 」


 「 もちろん毛皮の状態が悪いと買取り額も下がります。 逆にこの猪みたいにちゃんと処理をしてから持ち込むと買取り額も上がるんですよ♪ 猪の肉と毛皮で銀貨8枚です!! 」


 「 おおおー。 猪っておいしいのねー。 」


 「 おいしいです!! もちろん食べても美味しいです!! 」



 ミーちゃんは血抜きをしつつ祭壇の方も直してくれたみたいだ。私が汚してしまった所もあるのでちょっと申訳ない。ごめんなさいミーちゃん。そして、ありがとう。血抜きにはもう少し時間が掛かりそうだったので私は朝食の準備をしてしまおう。昨日の夜ミーちゃんの『収納ボックス』でみつけた腸詰を出して貰い小さめの鍋で茹でる。今朝はそれにパンとコーヒーで済ませる。食事をしながら改めて今日の予定を話し合う事にする。



 「 沼までは、あとどれ位なの? 」


 「 そーですねー。 昨日の夜も結構進みましたからねー。 今日を入れて丸2日? くらいじゃないですかねー。 」


 「 ふむふむ。 じゃあ今日も昨日みたいに『空間』のまま移動する感じでいいのかな? 」



 ミーちゃんは少し考えている様だった。私はコーヒーのお替りを入れながら話の続きを待つ。コーヒーはウィルさんに形を伝えて作って貰った『特製エスプレッサー』で淹れている。ウィルさん大好き!!金属で出来ているティーポットみたいな形で底が丸い。その部分がねじ込み式になっていて外せる。そこへ水を入れて小さな穴の開いた漏斗?みたいなもをセット。挽いたコーヒー豆を摺り切り一杯まで入れて上の部分を戻して締め込む。火にかけて上の部分にコーヒーが上がってきたらそのままコップに注いで完成。エスプレッサーなので出来上がりはかなり濃い。なのでお水を飲みながらだったり、ミルクとお砂糖を沢山入れて飲むのがおすすめだ。因みにミーちゃんは猫なのに猫舌ではない。何故だ?



 「 進むのはいいと思うんですけれどもねー。 このまま進んでしまうとあれですよね? 」


 「 あれとは? 」


 「 空を進むだけだと、獲物が狩れないじゃないですかー。 スーちゃの『空間』は外から襲われないですしおすし。 」


 「 あ、本当に気に入っているんだ? それ。 」


 「 あはははっ♪ もちろんです♪ で、それだとスーちゃんの練習とお小遣いが足りなくなってしまうんじゃないかなーって思いまして。 」


 「 うむ。 一理ある。 それは困る。 」


 「 なので、こんなのはどうですか? 」


 「 どんなの? 」


 「 移動は『空間』で森の上を進みます。 で、魔獣を発見したらこっそりと近づいて行って倒す。 」


 「 ふむふむ。 」


 「 倒し方は魔獣に合わせて。 外で倒して中に運ぶのも良し。 中に誘い込んで中で倒すのも良し。 どうですか? 」



 私は少し考える。森へ来る前は狩りなんて絶対に無理だと思っていたけれど、実際に何度か戦ってみると私でもやり方次第では何とかなりそうだ。さっきの猪だって事前に準備を整えてあれば、しっかり対応出来たのではないかと思う。『空間』のまま近づいていって『入口』さえ開けてしまえばいいのだ。首の周りに。血抜き等は休憩の時にするか、『空間』の中でやってしまってもいい。血は嫌だけれども、お掃除は出来る。



 森へ入ってから私達が稼いだお金は、おおよそ金貨2枚と銀貨2枚。2人で分けても既に私の2年分のお小遣い程にはなっている。怖いのも汚れるのも嫌だけれど仕方がない。私にはお金が必要だ。欲しい物があるのだ。『魅惑の胸鰭亭』の3軒隣にある衣料品店『寂しい深海魚』。その店先に飾ってあるあの可愛いドレスを私は着たいのだ!!



 「 その作戦、採用しよう!! 」



 血抜きを終えた所で私達は出発の準備を始めた。猪を『空間』へ運び、狼から少し離れた場所へ置き仕切りの壁で密閉する。準備完了だ。私は『空間』を上空へ移動させる。中央に椅子を置きそこに腰かけてから大きく声を上げた。



 「 発進!! 」



 行こう!!



 猪が私を待っている!!



 

更新不定期です。

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