一章 星々の欠片 前
〜ミザリーグレイン 郊外〜
「ここがミザリーグレインか〜」
人々が多く、商店街のようになっている大通りを金髪でショートカットの少女──リーナ•イレアダストはリュックを背負って歩く。
通りに沿って並ぶ建物は全てに赤レンガによって作られている。この街のものは全てがというわけではないが、赤や黄色を基調とした色合いを見せている。
他には色々な店先やステージで琴が奏でられていて、どこでもその音色が耳に入ってくるのも特徴の1つだろう。
「アポロンの街なんだよね。たしか」
この街の中心にはアポロンを信仰神とするギルド──太陽の弓矢がある。アポロンは太陽神とも言われまた、竪琴を手に執る音楽と詩歌文芸の神ともされている。
街のテーマが赤だったり、琴が弾かれているのはそのためだ。
「今日は別にお祭りってわけじゃないのに、賑やかでいい街かも。確かアポロンは牧畜の神でもあるんだよね。だからどこも屋台をだしてんだ」
ギルドとは、主神とする神を信仰する者達による組織のようなもので、この街のようにギルドを中心に街が出来ることが多い。
まさにこの街─ミザリーグレインも太陽の弓矢を中心に発展した街である。
「見えてきた!」
街の中心まで歩いてきたリーナは、一際大きい赤レンガの建物を見つけ、少し小走り気味にそれを目指す。
「これがギルド••••••」
取り付けられている看板には太陽の弓矢とシンボルである太陽と弓矢を重ねたマーク書かれている。
見た感じだと4、5階建てほどの高さで、ちょっとした城のようだ。今まで見てきた商店街の建物とは次元が違う。
見た目の迫力に圧倒され、リーナは息を呑む。
「こんなところで怖じ気づいてちゃダメだよね!」
リーナはパチンと自分の頬叩いて覚悟を決める。ゆっくりと足を前に出して、開かれたままのドアをくぐる。
「うわぁ」
中に入ると一階はホールのようになっていて、男女年齢問わず色々な人がお酒を呑んだり、絵を描いたり、琴を演奏したり、自由に過ごしていた。
ホールの右半分ほどはオープンカフェ式の酒場のようになっていて、左半分にはクエストボードが置かれ、アイテムショップなどクエスト用の店が開かれている。
「新人さん?」
不意に後ろから声をかけられて振り返る。するとそこには綺麗な茶色の長髪でエプロンドレスを着た女性が果物の入った籠を持って立っていた。
「まだ入ってはいないんですけど、お話を聞けたらなって」
「そういうことね。私が説明してあげる。おいで」
エプロンドレスの女性に連れられて酒場の方へと歩いて行く。
「シエルおかえり〜」
酒場の机に何本もの酒瓶を並べながら呑む20代中盤ほどの女性がエプロンドレスの女性をシエルと呼んで話しかける。
「ただいま。フィリアは呑んでばっかりいないで早くいい仕事見つけて働きなさい」
「うっ。どうせお酒飲むお金がなくなったら仕事行くからいいのよ」
「そんなんだから男が寄り付かないのよ?」
「うるさい‼︎」
「おや?シエルちゃん買い出しは終わったのかい?」
今度はタバコを咥えて紳士服を着た30代ほどの男性がシエルに声をかけた。
「こんにちは、ダバルさん。もう終わりましたよ」
「言ってくれれば手伝ってあげたのに」
「今日はそんなに買うものはなかったので大丈夫ですよ」
「手伝って欲しい時はいつでも頼ってくれたまえ」
「もちろんです」
その後も何度か他の人に話しかけられては、一言二言交わして離れる。
他のギルドの様子は知らないが、ここの人達はみんな気さくで、悪い人達はいなさそうだ。
「どうぞ。ここに座って」
カウンターまで辿り着いたリーナはシエルに言われた席に座る。
シエルはカウンターの内側に入り、手に持っていた籠を他のエプロンドレスを着た女の子によろしくね、と言って渡してこちらに戻ってきた。
「ええっと、ギルドの話を聞きたかったのよね?」
「はい!」
「そもそもギルドってなんだか知ってる?」
「同じ神を信仰する信仰者が集まった組織ですよね?」
「正解よ。それじゃあ信仰者って呼ばれる条件は?」
「その神に認められた証拠である紋章が体にあること」
「正解!」
信仰者とは、決してその人が信仰してますというだけでなれるものではない。神と契約を交わして、体に紋章を得ることで初めて信仰者と呼ばれるようになる。
シエルやこのギルドにいる人達は、体の見える場所に紋章がある。見えない場所にある人は服や帽子などにマークを付けている。
「紋章持ちや信仰者は神と契約する代わりにあるものが使えるようになる。それが」
「魔法」
「ええ。そうね。魔法が使えるようになるの」
「それってみんな等しくなんですか?」
「使うって限って言えばみんな同じね。でも強さは違うわ。信仰するって言っても人それぞれでしょ?」
「たしかに」
「陶酔するくらいその神様が好きな人もいれば、なんとなく気に入ってるくらいの人もいるから。やっぱり信仰心が強いほど魔法は強くなるからね」
「なるほど••••••」
リーナは顎に手を当てて、う〜んと唸り声をあげながら悩む。確かに、自分はどうしてもこのギルドに入りたくて来たわけではない。もしかしたら、この先どうしても入りたいと思えるギルドがあるかもしれない。
「別に急ぐことはないんじゃないかしら?色々なギルドを回って気に入ったところに入ったら」
「それもそうですよね」
「ギルドが拠点を変えるなんてそうそうないからね。あ、でも1つだけ拠点がないギルドがあったっけ」
「そんなのあるんですか?」
ギルドは基本的に大人数なため、拠点を変えることはない。ギルドには拠点となる建物やクエストも扱っているため、容易に動くことが出来ないからだ。
「ええ、ギルドの名前は『星々の欠片(エトワル•フラグメント)』メンバーはたった3人だけど、その強さから正式なギルドとして認められているわ」
「3人のギルド••••••」
「噂をすれば、ほら」
シエルはギルドの入り口の方を指差した。