第1話 俺の日常
「くだらない…つまらない…あきた。」
そう呟いて俺はベットに横になった。
ここ最近いつもこうしている。この世界は平和だ。ゆえに何も起きない。非日常を求める俺にとってこの平和な世界は苦にしかならない。平和を手にするのにどれほどの歳月がかかりどれほどの人が死にどれほどの苦労があったろうか?否、そんなものは関係ない。今の俺にとっては只、非日常を過ごしたいのだ。
例えば?そうだな、学校で退屈な授業を受けていたらテロリストがやってきて占拠される。とかどこかの会社が秘密裏に開発していた生物兵器が漏出してパンデミックが起こったりとか突然タイムスリップして過去又は未来に飛ぶとか…そう。非日常を求める人間なら一度は想像し、憧れたアニメのような世界。そんな世界を俺は求めていた。
しかし、この世界はあいにくそのようなことは起きない。平和で平穏でつまらない、そんな世界だった。
そんなことを考えていた俺を現実に戻したのは12時の鐘だった。
「昼か…腹減ったな…飯食うか。」
そう言って自分の部屋から出てキッチンに向かう。今日は家族全員出かけている。この家に今は俺一人だ。
キッチンについた俺は辺りを見回してから冷蔵庫を開けた。
「作り置きはなんもねえしなんか作るのも面倒くせえな…コンビニ行くか」
そう言って自分の部屋に財布と家の鍵を取りに行くと家を出た。
家から5分のところにコンビニはある。
コンビニに向かう途中、俺は何を食おうかなどと考えながら携帯をいじりながら歩いていた。
そしてコンビニに着いた。
俺は適当にパンと飲み物、ポテチを持ってレジに並ぼうとした、その時だった。
一人の男がレジに向かおうとした俺を突き飛ばしてレジに向かった。
俺は文句を言おうとした、だがそれは叶わなかった。何故かって?それは今目の前の光景が信じられなかったからなのだ。
俺を突き飛ばした男は…そう、強盗だった。
レジに居た店員に向けて黒光りするものを向けていた。そう…それは誰が見てもわかる…銃だ。
「おい、お前ら!!そこを動くなよ?バックにいる店員もすぐにここに呼べ!!!!通報するなよ?そしたらすぐにぶっ放すぞ!!!!」
強盗は血相を変え唾を飛ばしながら叫んだ。
そして銃を店員たちに向けた。
俺は突き飛ばされた格好のままその男を見ていた。
いや、その男の持っている銃を見ていた。
茶色のグリップ、黒いボディ、グリップの後ろ側にあるハンドセーフティ、そして大きい本体。あれは銃を好きなやつなら誰でも知っているM1911ガバメントだ。弾は45ACP弾という45口径の弾を使う。ハンドガンは基本9mmパラペラム弾を使うのだが一撃の威力をあげ一発で相手を怯ませたいという要望で作られた銃だ。
名前の通りこの銃は1911年に作られ最近米軍ではM9に変わるまでは正式採用されていた銃だ。
それを何故この男が持っている?
しかし、そんな疑問はすぐに消えた。
男がこちらに銃を向けてきたのだ。
「金を出せ!ある金全てだ!!早くしろ!!!!さもないとこいつを撃つぞ!!!!」
俺は震えていた。なぜ?これは俺が望んでいた、求めていた非日常だ。それなのになぜ?
答えは簡単だ。怖いのだ。想像ではここで俺がこの男に飛びかかり銃を抑え、奪い、男を無力化する。しかし今はどうだ?怖くて動けないのだ。
あれほど求めていた非日常が目の絵で起こっている…しかし心は歓喜しているはずが体が動かないのだ…。
しかし人間は窮地に立った時、自分では思ってもないことをしてしまうものだ。
俺もそうだった。気がついたらさっきまでの俺とは違い強盗の男に飛びかかっていたのだ。身長は男の方が大きい、しかし俺はジャンプして男の顎に膝蹴りを食らわせそのまま一緒に倒れこんだ。
倒れた衝撃で強盗は後頭部を床に強く打ち「うつ!?」と呻いた後気絶した。俺はその隙に強盗の手からガバメントを奪った。
俺は…何をしたんだ…?
我に返って自分の行動を振り返り伸びている強盗を見た。
普通ならこんなにうまく大の大人を伸ばさるだろうか?無理だ。相手がビビって座り込んでいるのを見て油断していたのだろう。だから対処が遅れてたのだ、そう。全ては偶然。偶然と偶然が重なり起きた偶然なのだ。
俺は勝利の余韻に浸りつつ自分が持っているガバメントを見た。
重い…これが…本物…
俺はミリタリー好きだからサバゲーなどによく行く。電動ガンやガスガンなども持っている、がそれとは比べ物にならない。実際の重さは多少近くともそれが本物の武器、人を殺せるものだという重み、威圧感がひしひしと伝わってきた。
そして俺は店員に無事を伝えようと歩き出した瞬間「パァン!!」という音がした。
ん?今のは…火薬の破裂する音…火薬…銃!?
とっさに自分の持ってるガバメントを確認しようとした俺の視界には…真っ赤に染まる俺の胸が見えた。
え…なんだ…これ…俺…撃たれ…た?
後ろを振り返ると知らない男がこっち向けて銃を向けていた。そう、強盗は2人いたのだ。俺は1人倒したからといって他にも敵がいると考えもせず余韻に酔い、初めて手にした銃に感動していた。よって気づかなかったのだ。
「俺は…死ぬ…死んだ…はは…ざまあねえな…。」
そう言いながら俺は血の溜まった床に倒れた。