009-曇りのち晴れのチュートリアル08
太陽が沈む頃、ちょうど家に辿り着くことができた。アオさんが指摘してくれたタイミングはまさに完璧だったといえるだろう。
「無事帰ってこれたな。2人とも、このあとは自由時間で構わないかな?」
「私は問題ない」
「僕も問題ないよ」
「それでは部屋は最初に決めた通りでいいとして……夕食はどうする?」
家の内部を確認した際に決めた部屋だが、人数分の部屋があり部屋の大きさも家具も同じであったため、適当に決めることができた。仮に部屋が2部屋以下だった場合は、おそらく真実を告げていただろう。そう考えてみると僕は伝えるきっかけがほしいだけなのかもしれないが、それは起こらなかった話であり、今は夕食についてだ。
「それは時間についてかな? それとも調理についてかな?」
「両方だよ。すまないが私は調理ができない」
一応確認してみたが、やはり調理も含めてのようだ。これについては、おそらくアオさんが調理できるはずなので僕が申し出る必要はないだろう。
「私が調理する。一般的な料理ならば問題ない」
「ありがとう、アオさん。そうなると僕はリンゴを兎型に剥いてデザートの用意をしようかな」
リンカさんが、しまったという表情でこちらを見ているが気にしないでおこう。おそらく、それならば自分でもできたのにと考えているのだろうけど、早い者勝ちだ。
「……私はその間にお風呂の準備でもしておくよ。入る必要はないかもしれないが、入れるならば入っておきたい」
「うん、ありがとうリンカさん。そうなると夕食の時間はどうする?」
「昼ご飯を食べていないから、今からでも問題ないと思うが、どうだろうか?」
太陽も沈む時間であり、リンカさんの言う通り昼ご飯も食べていないので今からでも問題ないだろう。探索の途中で昼ご飯を食べるかの相談はしたのだが、安全かどうかわからない食料を食べて動けなくなっては危険ということで、食べる時はまだ安全だろう家で食べると決めた。そして安全であることが確認できれば探索の途中でも食べることになっている。
「問題ない」
「僕もそれに賛成かな。確かにお腹が空いてきたよ」
「それでは今から準備開始としよう」
テーブルの上に並ぶのは野菜炒めにポテトサラダ、野菜のスープ、そして兎型のリンゴだ。何体かリアル型になっているのは時間が余ったからに他ならない。
「2人とも凄いな。料理も美味しそうだがリンゴも凄い。私だけであれば確実に洗ったリンゴをかじるだけになっていたと思うよ」
「ありがとう。それとユウさん、絶対料理上手いよね?」
「リンゴは暇な時に練習したらできてしまっただけで料理の腕とは関係ないよ。それよりもアオさんの料理は美味しそうだ。冷めないうちに食べよう」
そう、折角の美味しそうな料理が冷めてしまってはもったいない。それにしても、材料がもっとあればさらに美味しい料理を作ってもらえそうだ。明日も食料集めを頑張らないとね。
「確かにその通りだ。さっそくだが、食べてもいいかな?」
「うん」
「それでは、いただきます」
「いただきます」「いただきます」
美味しかった。アオさんは良いお嫁さんになれるね。
食後は順番に風呂に入って各自部屋で就寝となった。そして深夜、ベットから抜け出して音を立てないように家の外に出る。今日1日の結果から、おそらく深夜の強襲はないだろうとは思いながらも、つい確認しておきたくなってしまった。睡眠ペナルティーがあるかもしれないのに、それでも出てきてしまった。
僕はきっと、このゲームを少しでも長く続けていたいのだろう。強襲で死んでしまっても、おそらくどこかで復活する。そう思っていても結局は死んでしまったら終わる可能性を優先してしまった。まるで育てるような段階を踏んでいるこのゲームではその可能性の方が低いと考えているのに。まあ、たまには月を眺めて草の音を聞く夜も悪くないのかな。
それにしても僕はなぜ、あそこまで従魔魔法に惹かれたのだろうか。まあ、明日になれば分かるかもしれない。明日のチュートリアルで従魔魔法の使い方を教えてもらい、使ってみれば何か、きっと。
結局その夜は太陽が顔を覗かせるまで家の外で空を見上げ、そのあとは部屋へと戻って布団にもぐりなおした。
20150421:
誤字を修正しました。