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043-遥か遠い一歩05

 視界が変わると、そこは石造りの大きな部屋だった。中央に魔法陣がある以外、他に何もない。出口すらない。

 ルビーちゃんの上に乗ったまま、周囲を見渡すとすぐ隣にはユウ君と碧がいる。出口がなく、怪しげな魔法陣が中央にあるだけの部屋……まさか、すぐにボスが出現したりするのだろうか。

 

『冒険者たちよ、ここは試練の狭間。望むならば入り口へ、望むのならば出口へ。超えるべき初めの試練は容易にして困難』

 

 突然と頭のなかに響いた女性の声。それはダンジョン1のボスを倒した時に聞こえたものと同じであり、おそらくイベント進行用の音声アナウンスに使用される声なのだろう。

 入り口、とはあの魔法陣のことだろうか。そうなると出口が存在していないように思えるが、もしかすると出口が魔法陣であり、入り口を探してみせよと言っているのだろうか。

 

『容易なるものはどちらへも進まずその場に、困難なるものは魔法陣へと乗りなさい。前者には安らぎの場を、後者には修練の間を与えましょう』

 

 全く分からない私は魔法陣へと乗り、修練の場を望むべきだろう。

 

「修練の場、ですね?」

 

『然り。与えられるのは絶望の間でも試練の間でもなく、修練の間』

 

「ありがとうございます」

 

 イベントアナウンスに対して質問したユウ君だが、女性の声はしっかりと答えてくれた。

 想定内の質問であり、事前に設定されていたのだろうか。それとも、たまたま聞いていた運営側が個別に答えてくれたのだろうか。

 

「ユウ君?」

 

「ちょっと気になることがあってね。さて、2人は魔法陣に乗る?」

 

 ユウ君の気になったことも少し気になるが、今は魔法陣だ。

 なぜ、ユウ君は私達に魔法陣へ乗るかと聞いてきたのだろうか。それ以外に選択肢はないと思うのだが。

 

「乗る」

 

「私も乗るよ」

 

「うん、それではすぐに修練を始めようか。15日もあるとはいえ、油断してはいけないからね」

 

「ああ、始めようか」

 

「うん、任せて」

 

 嬉しそうに微笑んで答えた碧が少し気になったが、確かにユウ君の言う通りだ。

 前回の5日と比べれば15日は長いが、その分ダンジョンの難易度が上がっていると考えておくべきだろう。そして前回が期間ギリギリだったことを考えると、私という足手まといのいる今回はさらに困難になる。

 ルビーちゃんに運んでもらい魔法陣の上へと移動すると、最後のユウ君が乗ったところで魔法陣が輝き始めた。

 

『見事、超えて見せなさい』

 

 まずは1つ目の試練、乗り越えてみせる。

 

 

 

 転移した先、そこは見渡すかぎりの草原だった。そして手足には草と地面の感触。周囲を見渡してみるとユウ君も、碧も、私を乗せてくれていたルビーちゃんもいない。

 どうやら修練は1人で行うようだ。今の私ならば、この方が良かったのかもしれない。これで私が危機に陥ることで助けようとした2人が危機に陥る可能性がなくなったのだから。

 さて、修練とは何をするのだろうか。迫り来る多くの魔物と戦うのだろうか。それとも強力な魔物と戦うのだろうか。あるいはアイテムを集めるのだろうか。

 

 

 

 かなりの時間を待っているが、何も起こらない。魔物も襲ってこなければ、頭に響く声も聞こえない。

 そこでどれ程の時間が経過したのかとメニューを開こうとしたが、数度唱えても仮想ウィンドウすら出現しない。どうやらこのエリアではメニューを使用できないらしい。

 いったい修練とは何なのだろうか……分からない。

 とりあえず、食料を調達しよう。もしかしたら、ここで数日間生き抜くことが修練なのかもしれないし、数日間生き抜けて始めて修練が開始されるのかもしれない。15日という長い期間を考えればその可能性は十分にあるはずだ。

 ……大丈夫、這ってでも集めてみせるさ。私が修練を完了するのを、ユウ君と碧が、そしてその先では楓と翠が待っているのだから。

 そうと決まれば時間を無駄にはできない。さっそく、行動開始だ。

 

 

 

 地面の上を、どちらかといえば草の上を這ってかなりの時間移動したが、周囲は見渡す限り草原のまま。食料どころか水さえもない。

 ……いったん、休憩しようか。焦っても仕方がないし、無理をして余計に動けない時間が長くなっては元も子もない。

 草をベットに身体を広げて寝転がる。

 身体を撫でる風が気持ち良い。草が奏でる音が心地よい。

『今のリンカさんにとっても的確な言葉だよ』

 そんな中で思い出したのはユウ君の一言。確かにあの時の私には的確な言葉だったとは思う。それでも、なぜか引っかかる。

 思えば不思議な少年だ。

 私達のことを知っていたのにそれを明かさず、最終日に明かした。初日に楓の弟だと明かしていればもっと簡単にとけこめただろうに。

 現実で私と会った時もワザと少女の振りをしていた。ゲーム内ではそんな様子はなかったが、あの時は間違いなくしていた。私が悪かったのだが、あの"きゃ"は可愛すぎるだろう。ユウ君には悪いと思うが、普通の少女よりも遥かに女の子だと思ってしまった。

 次のログインでは後衛しかできないのかと思えば、平然と斧を持って戦っていた。もしかしたら楓と同じく、運動も得意なのかもしれない。しかし、3回目のログイン時に死に戻りしたことを考えると、楓ほどではないのだろう。

 楓と翠から聞いた話では、出現していた魔物は木の人形のような魔物であるパペットのレベル1から5。稀に金属の人形であるメタルパペットのレベル16が出現していたようだが、楓は現実世界と同じ能力でも余裕で複数体相手をできていたらしい。

 たしかユウ君は追いかけてくる一体と攻撃目標の一体しか相手をしていなかったし、現実では咄嗟とはいえ、倒れる私を受け止められなかった。それも考慮すると、現実と同じ能力ではとても弱いのではないのだろうか。

 ……ユウ君と碧は、それでも頑張ってクリアしてくれた。今はルビーちゃんがいるから戦力的には問題ないかもしれないが、最初はいなかったのだ。そんな中で2人は頑張ってくれた。

 うん、食料調達の続きを頑張ろうか。次休憩を取るまでには、食料を見つけたいな。

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