004-曇りのち晴れのチュートリアル03
「2人とも、とりあえず今の内容に関して話し合わないか? 5日間ともに過ごすのならばいろいろと知り合っておいた方いいと私は思うんだが」
「私は構いませんよ」
この提案は2人、というよりかは僕に対しての確認だろう。僕も話し合うことを提案しようと考えていたので断る理由はない。
「私も構いませんよ。ちょうどこちらからお願いしようと思っていたところです」
「それは良かった。それではとりあえず、スキルと武器について教え合っておかないか? 武器があるということは当然使う機会が来るだろう。その時にそなえてお互いの武器を知っておいた方がいい」
剣と魔法のファンタジーを銘打っているだけあって当然、敵は出てくるだろう。対人戦メインの可能性も考えられなくはないが強制的にパーティを組まされた以上、この中で敵対する可能性は低いと考えても問題ないだろう。仮に対人戦だったとしてもこの2人と敵対しようとは思えない。
「まずは言いだしっぺの私から。スキルは刀、武器も刀だ。現実で扱ったことはないがどうしてもこれ以外を選ぶ気がしなかった。いや、これを選ぶべきだと思ってしまってね」
どうやらリンカさんは僕と同じく特定のスキルに惹かれたらしい。
「ユウさん、やはり子供っぽい考え方だと思うかい?」
どうやらあまりにも当然だと考えてしまい表情に出ていたのかもしれない。今の僕はきっと、微笑んでいるのだろう。あの2人が選んだのはきっと、杖と槌。早く並んでいる姿を見てみたいな。
「考え方がおかしくて笑ったのではありませんよ。あなたにはそれが一番似合う、あまりにもそう思ってしまいまして。気に障ってしまったのならば申し訳ありません」
「それは嬉しいね。私自身も刀に憧れるなんて子供っぽいとは思っているんだけどね」
「それは本当に憧れなのでしょうか? 私は出会うべきして出会った、そんな気がしますよ」
「そうであれば私も嬉しいね」
きっとこの機会がなくてもリンカさんは刀を持っていたと思う。まるで運命のように、しかし当然の如く。
「次は私が。私のスキルは従魔魔法、武器は魔法銃です。私もリンカさんと同じでこのスキルに惹かれ、これを選ぶべきだと感じました。これ以外を選べばきっと後悔すると」
「そうだろうね」「ユウ君にはそれが似合っている」
「え?」
それらの言葉は自然と、まるでそれが当然であるかのように発せられた。そして言葉を発した直後2人は驚愕の表情を浮かべている。
2人が納得していることも気になるがアオさんが僕のことをユウ君と、君付けで呼んだことはそれ以上に気になる。なぜ僕はその呼ばれ方に違和感を感じなかったんだろうか。僕の性別を考えると君付けに違和感がないといえば確かにその通りだ。しかし直前までさん付けで呼ばれていた相手に君付けで呼ばれた、そこに違和感を感じてもいいはずだが君付けであるこちらの方が違和感がない。スキルの件といい、1か月ほど前から感じる違和感といい、最近は気になることが多い。
「私は何を言っているのだろうね。それにアオ、君は今ユウ君と言わなかったかい?」
「私にも分かりませんが口から自然と言葉が漏れていました。ユウさん、もしかしてお会いしたことがありましたか?」
アオさんの言葉に考えてみるが、やはり会ったことはないはずだ。そしてあちらから聞いてくるということは、あちらが僕を見ていた可能性もないのだろう。
「いえ、会ったことはないはずです。きっと無意識に似ていた誰かと勘違いされたのでしょう」
「そうですよね。間違えてしまい、さらには女性相手に君付けで呼ぶなど失礼が過ぎました。申し訳ありません」
「いえいえ、問題ありませんので気にしないでください。それに私もアオさんのことを似ている方と間違えていましたから、これでおあいこですね」
そう、君付けで呼ぶことには何の問題もない。それにきっと、途中から君付けで呼ばれることになるだろう。
「ありがとうございます。それでは私の番ですね。スキルは弓、武器も弓です。私もリンカさんと同じで現実では弓を使ったことがないのですが、お2人と同じくこのスキルに惹かれてしまいまして、これを選ぶべきだと思いました。もしかするとこれが適正なのかもしれませんね」
「きっとそうですよ」
「私もそう思うよ」
3人全員が特定のスキルに惹かれる。確かにこれが適正なのかもしれない。そうなると他の2つのスキルは適性スキルが3つ未満である場合の埋めスキルと考えれば1つのスキルだけ特に惹かれた理由に説明がつく。なぜ適性スキルだと惹かれるかに関しては分からないが、それは使用していくうちに少しは判明するだろう。
「さて、そうなると武器だけを使った戦闘では私が前衛、2人は後衛と考えて問題ないかな。スキルに関しては実際に使ってみてから判断でどうだろうか?」
「そうですね」
「私もその考えで問題ありません」
魔法銃での攻撃に必要な動作が普通の銃と同じであれば矢を番えて引く動作が必要な弓と比べて不利な要素があるはずなので、実際に使ってみてから判断が変わるかもしれない。しかし遠距離であることに変わりはなく、もし射程が短ければアオさんよりも近い位置から攻撃を行うことになるだけだ。
「それでは次に移ろう。次はマジックポーチに関してだが、とりあえずマジックポーチから武器を出してみないか? 武器を選択したあとでマジックポーチに転送されたと表示されたから、どこに入っているかは分からないが取り出すことはできるはずだ」
「そうですね、取り出してみましょう。各自好きな方法を試す、で構いませんか?」
「私は構いません」
「私も構わないよ」
「それでは、各自試してみましょう」
最初に手に取ったマジックポーチを再び手に取り内部を確認してみると、そこには黒い空間が存在していた。これは予想通り不思議な収納力をもつゲーム主人公が持っているような鞄と考えてもいいだろう。
少し危ないとは思いながらも黒い空間へ手を入れるとマジックポーチの上にウィンドウが表示された。そこには銅の魔法銃とだけ表示されている。これは先ほどの武器やスキルと同じように選択してみればいいのだろうかと考えるが、それ以外に方法を思いつかない以上は試してみる他ない。
表示されている銅の魔法銃を黒い空間に入れている手とは逆に手で選択すると黒い空間に入れていた手が何かに触れたので、それを掴み取り出してみる。
取り出したそれはやや赤に近い茶色をした銃。大きさは片手で持てる程度で持ち手の部分には布が巻いてあり、金属であるためか少し重く感じる。この重さを考えると布は滑り止めなのかもしれない。
「手を入れて出現したウィンドウから取り出したいものを選択すると、鞄内部にそのアイテムが出現するみたいですね」
「……よく躊躇なく手を入れたね」
「それ以外に方法を思いつきませんでしたので。それに私が失敗しても、それが間違いだと気づけるのであれば問題はありません」
「……君は私の知っている人物と似ているな。あの子もきっと同じことを言ったと思うよ」
そう言ったリンカさんは嬉しそうに微笑んでいる。
きっと知っている人物とは僕の姉だろう。確かに姉さんであればそれしか選択肢がなく、それに危険を感じたならばリンカさんよりも先に試すはずだ。そして、その対象があの人や僕であっても同じだろう。
「きっと似た思いから言っているのでしょうね」
「……君はもしかして……いや、何でもない」
リンカさんはそろそろ気づいたのかもしれない。姉さんから僕のことに関して聞いていたとは思えないので、きっと姉さんの親戚あたりを予想しているのだろう。
「取り出せました」
アオさんがマジックポーチから取り出した弓は弓道などで使う物と同等程度の大きさに見える。アオさんの体格を考えれば扱い難い気もするが、弓の選択肢は1つしかなかったので仕方ないことだろう。いや、遠距離からの狙撃限定と考えれば取り回しも問題ないのかも知れない。
それにしてもマジックポーチの内部は不思議空間でいいとして、どうやって入り口部分を通ったのか気になる。もしかして入り口部分も含めて不思議空間なのだろうか。
「私も取り出せたよ」
リンカさんがマジックポーチから取り出した刀は鞘に収まっており、大きさはよく見る日本刀と同等程度に見える。
そして2人が取り出した自分の武器を見つめている間に次の確認を行う。まず魔法銃を再びマジックポーチに入れ、一度マジックポーチから手を離す。次にマジックポーチへ再び手を入れ、出現したウィンドウを確認したみてが問題なく銅の魔法銃と表示されている。最後に銅の魔法銃を選択して取り出してみるが先ほどと変わらず取り出すことができ、これで武器の出し入れが自由だと確認できた。
次に立ち上がり、椅子をマジックポーチに入れようと試みるが入らない。マジックポーチの入り口部分で椅子の足が止まり進まないのだ。
次にベルトを取り外してマジックポーチに入れようと試みると、こちらは問題なく入れることができた。魔法銃も入れて先ほどと同様の手順で取り出しを試みると、表示されたウィンドウには銅の魔法銃、布のベルトと一覧形式で表示されており、両方とも問題なく取り出すことができた。そして両方を同時に入れることはできたが、同時に取り出すことはできなかった。
この結果から、マジックポーチに入れることができるものには一定の基準があり、ゲームでよくあるアイテム扱いのものしか入れることはできないと考えるべきだろう。そして同時に取り出せる数は1個であり、同時に入れられる数は2個以上で上限は不明。まあ、同時とはいっても僕にできる程度の同時でしかない。
20150422:
誤字を修正しました。