032-真の試練08
途中から広間に移動して待っていたところ、アオさんがやって来た。
「ユウ君、その子は従魔魔法で?」
アオさんの視線の先にはウルフで再召喚したルビーがいる。
「うん、ルビーは従魔魔法で召喚した僕の仲間。ギリギリまで信じて待ってくれてありがとう、アオさん」
ルビーを撫でつつ、そう伝える。
「おめでとう、ユウ君。よろしくね、ルビーちゃん」
そう言い、ルビーに微笑みかけるアオさん。それに一鳴きして答えるルビー。迷いなくルビー"ちゃん"とは、アオさんが普段から犬など相手には"ちゃん"をつけて呼んでいるからだとは思うが、ここでも別未来の記憶に引かれているのかもしれない。
「それでは、私も成果を伝える」
アオさんの成果、ダンジョンの情報はとても有用なものだった。
まずあのダンジョンのウッドパペットには体内に弱点が存在していない。これは同一の魔物に対し、複数の箇所を破壊する方法を何度も行って確認した。
次にある程度、奥へ踏み込まなければパペット達は襲ってこない。さらにダンジョンへ入るたびに襲ってくる線引の位置が変化している。
次に魔物に関して。ウッドパペットはレベル1から5の範囲内で出現し、武器はすべて木製で剣、刀、斧、槍、弓と1つ目のダンジョンと同じ。メタルパペットはレベル16だけが出現し、武器はすべて金属製でランス、槍、魔法銃。そして必ず2体目以降に出現する。武器の材質に関しては見た目から判断しているだけで本当に木製と金属製なのかは不明だが、木製には矢が刺さり、金属製には矢が弾かれることは確認している。
そして最後にパペットの行動範囲。1体で出現している場合は脱出用の魔法陣までは近づいてこない。しかし2体以上が近くに出現している場合は脱出用の魔法陣まで近づいてくる。ウッドであろうと、メタルであろうと、武器がどの種類であろうと近接型ならば近づいてくる。
「これですべて。どう、かな?」
「さすがアオさんだよ。やはりお願いして良かった」
まさかダンジョン突入直後からボスと相対していたとは思わなかった。ある意味で強敵、ある意味でラビットにも劣るこのボスは、気づいてしまえば僕のステータスでさえも余裕で倒すことができる。別未来では見たことがなかった魔物だが、おそらくゴーレムの成長先なのだと予想できる。
「期待に応えられたようで嬉しい。ユウ君はこの情報からどう考える?」
嬉しそうに微笑んだアオさんは、そのまま僕へと問いかけてきた。
僕の答えはおそらく正解だろう。しかし、これは別未来の知識を使用してしまっている。それに可能ならばアオさんが正解に辿り着いてほしい。
「そうだね……アオさんはどうして、あのダンジョンのパペットには弱点が存在していないと思う?」
「……あれが本体ではない?」
この答えは1つ目のダンジョンボス、メタルゴーレム2型の情報から辿りついたのだろう。僕も同じ考えだ。
「ダンジョン1のボスと同じタイプ、そういうことかな?」
「うん。核のような本体が存在していて、核の周囲とは別に複数の身体を作成している?」
僕もその可能性については考えているが、そうだとすれば強力なメタルパペットの内部に存在している可能性が高い。そうなるとパーティのうち2人が物理型であり、さらに唯一の魔法型である僕も満足に魔法銃を撃てない状況でメタルパペットに勝利することは難しいだろう。何せ、メタルパペットにはゴーレムのようにMP消費による稼働時間制限などないのだから。
もちろん、これは僕が従魔魔法を使えない状況を想定した場合の話であり、ルビーをアクセラレーションホーク・ウィンドで召喚できる現状ではメタルパペットも十分に倒すことが可能だが、さすがに僕が知り得ることを想定して今回の試練を出しているとは考え難い。あの人どころか白い人や姉さんですら僕が別未来を知り得る能力を持っていたことは知らないのだから。おそらく、従魔魔法に関してはいずれ"思い出す"可能性を考えてあの形にしていたのだろう。さらに僕以外の従魔魔法を選択したプレイヤー、少ないとは思うが存在しているその人達は僕のように知ることはできないだろう。
そこまで考えると、今回の試練はスキルがなくても勝てるようになっていると予想できる。1つ目のダンジョンボス、ゴーレム2型に関しても、それを実行できるかは別として避け続ければスキルがなくとも倒すことが可能だった。つまり不可能な試練は用意されていないのだ。
突破できてこその試練。突破できない試練などあの人が与えるとは思えない。
さらに、これではパペットが1体しか出現していない場合に魔法陣まで近づいてこない理由が解決されていない。
「それでは核を内包したパペットを探し出し、内部の核を破壊する?」
「……違う?」
「それではメタルパペットを倒す方法について考えてみようか」
ルビーの風切羽で倒せると知っているのだが、それでは考えてもらっている意味がない。
「……ダンジョン1のボスと同じで避け続けるではダメ?」
「約2時間、僕もアオさんも避け続けられないと思うよ。それにルビーはまだレベル1だから避け続けるのは難しいだろうね」
アクセラレーションホーク・ウィンドならば一度攻撃を当て、空中へ逃げれば避け続けることも可能だとは思うが、それならば風切羽で倒せばいい。
「確かに。少し考えてみる」
「ちょうどいいから朝食を準備しつつ考えようか」
「うん」
20150512:
一部修正をしました。(物語には関係ありません)




