031-真の試練07
家の外、案山子の前に移動した。
そういえばあちらのチュートリアルも案山子から始まっていたね。"今回も"始まりは案山子から、悪くない気分だよ。
さて、さっそく<<召喚>>を……ではなくてステータスなどの確認が先だよね。嬉しい出来事に気分が高揚して、うっかりしていたよ。
ステータスといえば、別未来のステータス15とこちらのステータス15ではどうやら能力に違いがあるようだ。同じ15でもこちらの方が実際の能力が低く感じる。もしかしたら途中でステータスの"表示値"に関する調整があるかもしれないね。
そんなことを考えながらメニューからステータスを開く。
◇ステータス
名称:ユウ 種族:ヒューマン Lv1
筋力:6(3) 生命力:6(3) 器用さ:12(6) 素早さ:6(3) 魔力:20(5) 精神力:20(10)
状態:封印(全ステータス半減、魔力低下)
加護:
称号:
メインスキル:従魔魔法Lv1
サブスキル :鑑定Lv1、識別Lv1
EXスキル :???LvXX(封印中)、歌LvXX、魔力体外放出LvXX、魔力感知LvXX
残SP :0
ステータスの隠された2つの項目は加護と称号だったのか。なぜ見えるようになったかは少し気になるけど、もしかしたら僕が称号を引き継ぐことを拒否していたから、かな。あれは別未来で得た称号であり、今の僕が取得した称号ではないからね。
EXスキルについては引き継いだのではなく、僕自身ができるから表示されているだけかな。歌に関しては昨日少し使ったから別未来の時と同じくシステムに認識されたのだろうし、魔力体外放出と魔力感知に関しては先ほど試したから認識されたのだろう。
別未来で歌が普通のスキルとして存在していたことを考えると、EXスキルにはスキルとしては存在しているがシステムの補助なしでも行えるものが表示されているだけかな。
歌に関しては現実でも同じことができるし、魔力系2種に関しては別未来の最後のイベントで得たスキルだったのだけど、どうやら方法さえ知っていればスキルを得ていなくても使えるタイプのものみたいだからね。
そして重要な従魔魔法。詳細を確認してみたところ、召喚可能数が1、キャパシティが4となっていた。
別未来と同じであれば、魔物カード側に設定されているコストの合計がキャパシティを超えないように召喚しなければいけないので、現状で召喚できないカードが1枚だけ存在している。
召喚可能数に関しては別未来では存在していなかった項目だが、おそらく従魔の魂カードを召喚可能状態にできる数と考えておけばいいだろう。別未来では従魔魔法がレベル1の状態では従魔の魂カードは1枚しか存在していなかったからね。
そうなると、問題は誰を召喚可能状態にするかだ。
まず別未来で最初に召喚可能になったイナバだが、別未来では召喚できる魔物カードが1枚だけに制限されていた。その魔物カードは強力だがコスト15であり、現状では召喚できない。従魔魔法のレベルが1になったことにより従魔の魂カードも元のレベルとステータスに戻っている可能性もある。仮に元に戻っておらず、イナバは召喚可能になったがコストの関係で召喚はできない上に、他の2人は召喚可能状態にできないような状況になってしまう可能性を考えると、最初に召喚可能状態にするのはリスクが高過ぎるのでやめておこう。
次に別未来で2番目に召喚可能になったルビーと最後に召喚可能になったログレス。ルビーはどの魔物カードで召喚しても平均以上の実力を発揮してくれる万能型であり、ログレスは得意な魔物カードに関してはルビー以上に実力を発揮してくれる特化型。黒いカードとして僕が引き継げたのならば2人が記憶や能力を引き継いでいないとしても、その傾向は変わらないだろう。そして僕と同じく別未来の自分の記憶を知ることも可能だと予想しているが、今は置いておこう。
今の僕はあまり戦力にならない。それでも多くのことに対応できるようにと考えると、まずはルビーを召喚可能状態にしようと思う。試練がどこまで続くか、その後はどうなるか分からない現状ではルビーは陸、海、空と対応でき、1人で行動してもらう可能性も考えると性格的に一番適している。さらにログレスが得意な魔物カードのうち3枚は召喚後に素材が必要なのだ。さらに別の1枚も大量の水がいる可能性があるため、それらも考慮してルビーが最適だと判断した。
イナバ、ログレス、今回は待っていてね。必ず召喚可能状態にするから。
一度目を瞑り、深呼吸して口を開く。
「<<召喚>>、ルビー、アクセラレーションホーク・ウィンド」
その言葉を唱え終えた瞬間、口が勝手に動き呪文を呟き始める。<<従魔の書>>には詠唱がいらないが、他の技能には詠唱が必要なのだ。
そして詠唱が終わり、光りに包まれた何かが目の前に出現した。その光はすぐに消え、中から現れたのは紅い目と綺麗な白い身体をもつ鷹。僕と似た色合いのその魔物はその名の通り、加速と風のスキルと持った空中での切り札。
やはりルビーにはアクセラレーションホーク・ウィンドが一番似合う気がするよ。
「ルビー」
名前を呼ぶとルビーは静かに擦り寄ってきた。その頭を撫でると、ルビーは気持ちよさそうに目を瞑る。
覚えているよ。この行動は最初に君を召喚した時と同じ行動。つまり、記憶は引き継いでいないのだね。
そう思ったのだが、あの時とは違ったようだ。ルビーはすぐにその目を開き、僕を見つめ始めた。僕をまっすぐ見つめながらも首を傾げるその姿を見て、とても嬉しく思った。
きっと、僕を見て、僕の行動を感じて、既に知っているような違和感を覚えているのだろう。そうなれば、僕が取るべき行動は1つしかないだろう。
「お待たせ、ルビー。再び、ともに歩もう」
そう言いルビーを抱きしめる。
ルビー、君ならきっと"思い出す"ことができる。それが今でなくても君なら、いつか。
心地よさそうな様子で首を傾げるルビーを腕から開放する。
「さて、ルビー。各スキルの確認と、空を飛ぶことにも慣れておこう。そして、夜が明けたらともに戦おうか」
疑問を抱いていた様子のルビーだったが僕の言葉を聞き、すぐに頷いてくれた。
「ありがとう、ルビー。それではまず飛ぶことに慣れようか」
再び頷いたルビーは空へと飛び上がる。
そしてルビーが空を飛んでいる様子を眺めながら、僕は<<従魔の書>>を使用してカードの確認を行う。
まずは最後のページを開き、そこに収まる3枚の黒いカードの中から真ん中の1枚を取り出して裏面を見る。
◇ステータス
名称:ルビー
情報:女性型、Lv1
筋力:0 生命力:0 器用さ:0 素早さ:0 魔力:0 精神力:0 適応:1
予想通りレベルは1だが、それよりも適応のステータスが気になる。僕のステータスには存在していなかったし、別未来ではあの位置は知力となっていたはずだ。名称が違うだけで同じ内容、その可能性は高そうだけど今は様子見かな。
そして、あちらには存在していた加護の項目もないが、これに関しては加護を受けていないからだろう。加護を受けることができれば項目も追加されるはずだ。
ルビーのカードを戻して他2枚のカードも取り出そうとしてみるが、予想通り取り出すことはできない。やはり召喚可能状態にしなければ取り出すこともできないようだ。
次に1ページ目を開き、そこに収まる8枚の黒いカードの中から上段の右端に収まるカードを取り出して裏面を見る。
種族名:アクセラレーションホーク・ウィンド
コスト:4 登録者:ユウ
スキル:遠見、加速、風、カマイタチ、風切羽、嘴、鉤爪、MP強化、筋力強化、魔力強化、素早さ強化
EXスキル:
おや、別未来の従魔魔法レベル1の時点ではここまで情報が見えていなかったと思うけど、いろいろと変わっていたりするのだろうか。あるいは従魔の書に収まっているカードの種類や数が条件だったのだろうか。
まあ、アクセラレーションホーク・ウィンドのスキルやコストが変わっていないことを確認できてよかった。
アクセラレーションホーク・ウィンドのカードを戻して、他7枚のカードヲ取り出そうとしてみるが、こちらも取り出すことはできない。こちらはおそらく、1度召喚することが条件だろう。
確認を終えて空を飛び回るルビーを見てみると、既に自由に飛べているように見える。これならばスキルの確認に移っても問題ないだろう。
「ルビー、いったん降りてきてくれるかな」
僕の言葉を聞き、ルビーが空高くから目の前の地面へと降りてきた。
「ルビー、もう空を飛ぶことには慣れたみたいだね。さすがルビーだよ」
そう言い頭を撫でると、ルビーは嬉しそうに目を瞑っている。
「それではスキルを確認していこうか」
ルビーに強化系以外のスキルを順次試していってもらった結果、すべてのスキルが別未来と同じと考えて良さそうだ。もしかしたら少し変化があるのかもしれないが、それは僕の知る範囲では分からない。
まず加速。飛行速度を徐々に上げていくスキルなのだが、やはり別未来よりも最高速度などが落ちていた。ルビーのレベルが1であり、さらにまだ使い慣れていないので、これは仕方のないことだろう。
次にカマイタチ。広範囲を風の刃で攻撃するスキルであり範囲調整も可能だが、必ず溜めが必要で溜め中は一部のスキルを使用できず、動きも鈍くなる。威力に関しては溜めしだいでレベル1のラビットやウルフならば一撃で倒せる程度には高いことが確認できたが、パペット相手に一撃は難しいだろう。
次に風切羽。一定速度以上で飛行中に使用できるスキルであり、羽の先に見えない風の刃を発生させる。その威力はとても高く扱いやすいが、一定速度が加速スキル必須の速度なので狭い場所では使用できない欠点もある。しかし、草原などの広い場所であれば攻撃の主力となるスキルだろう。
次に風。これは名称そのままで周囲に風を起こすスキルであり、それなりの強風まで起こせるが、僕ですら吹き飛ばない程度だ。しかし空を飛んでいる相手の体勢を崩したりと、いろいろと役に立ちそうなスキルではある。
次に遠見。遠見はより遠くを見えるようになるスキルなのだが、どこまで効果があるのかは分からない。警戒や探索をお願いした際に活躍しているようだが、限界距離は分かっていない。天候や体調などによっても変わるみたいなので、単純に視力を強化するスキルだと考えている。
最後に鉤爪と嘴。おそらく得意な通常攻撃を示しているのだと思うが、もしかしたらプレイヤーの刀や弓などの武器系統と同じくシステム補助がある系統のスキルなのかもしれない。別未来でもよく分かっていなかったので、今は得意な攻撃を示していると考えておく。試しにラビットとウルフ相手に鉤爪と嘴だけで戦ってもらったが、どちらの攻撃方法でも高速飛行からの一撃で倒していた。そう、風切羽でいいのだ。そのため、使う機会は多くないだろう。
スキルの確認が終わったところで従魔魔法の確認を行う。
「ルビー、従魔魔法の確認のためにいったん送還するね」
「<<送還>>、ルビー」
ルビーが頷いたのを確認し、<<送還>>を使用する。口から紡がれる詠唱が終わると、目の前にいたルビーが光の粒子のようになって空気中へと溶けこむように消えていった。
「<<召喚>>、ログレス、パペット」
次にログレスの召喚を試みるが詠唱は開始されない。
この状態でのイナバの召喚、ルビーをウルフで召喚した状態でのログレス、イナバの召喚も試してみたが詠唱は開始されない。イナバの場合は僕側のキャパシティ不足だが、その他のパターンに関してはキャパシティは問題ないので、やはり現在召喚できる従魔は1人で間違いないようだ。
確認も終わったので、あとは朝まで休憩することにした。僕も、おそらくルビーもMPを消費してしまったのでダンジョンへ挑戦するまでに全回復させておかなければならない。それにいろいろと試してもらったルビーには休憩をとってもらいたい。
「ルビー、朝までゆっくりとしていようか」
ウルフで召喚しているルビーの傍に座り、頭を撫でる。
それにしても、今までは前世的なものかと考えていたけど、まさか別未来とはね。あの3人が影響を受けていたことから思い出せることは予想できていたけど、僕が試した方法から考えると他のプレイヤーもきっと"思い出す"ことができる。
このゲームについて僕が"知った"のと同じ別未来について思い出すのは別に構わない。それこそ"プレイヤーの皆"には思い出してほしいと思っている。
しかし、あの2人にその一歩先を思い出してほしくはない。
鍵は複数あるけど、現状から考えるとあの人に出逢うことで思い出してしまう可能性が一番高そうだ。別未来の様子から別人の可能性が高いと考えていたのだけど、今回の様子を見る限りはおそらく同一人物だろう。
同一人物である事実は嬉しく思うけど、鍵となる人物であることを考えると微妙なところだよ。




