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030-真の試練06

 ログイン2日目の夜。徐々にあの時の感覚を思い出せており、順調といってもいいだろう。この調子であれば、約束の4日目にはどうにか間に合いそうだ。あの時のことを思い出すのは少し辛いが、あの少女の望みを最高の形で叶えるためならば、乗り越えないとね。それにここで知り得なければ、おそらくは辛い結末が待っているだろう。僕はできれば失いたくないし、あの少女が悲しむ姿も見たくない。

 

 

 

「ユウ君、本当に体調は大丈夫なんだよね?」

 

 3日目の夕食時、心配そうな表情をしたアオさんに問いかけられた。

 

「大丈夫だよ。もしかして結構酷い顔をしているかな?」

 

「……その言葉は信じていいの?」

 

 どうやら、僕は予想以上に堪えているようだ。表情には出していないつもりだったのだけど、行動の方で少しバレてしまったのかもしれない。やはりアオさんの内面を見る能力はとても高いようだ。

 

「問題ない、とは言わないけど大丈夫だよ。それにあと1日だから」

 

「分かった、私は目を瞑っておく。頑張ってね」

 

 そう言って微笑むアオさん。

 もしかしたら僕の今の状態がリンカさんよりも酷く見えているのかもしれない。それでも、たとえ止められようともやめるつもりはないけどね。

 

「アオさんもね」

 

 

 

 3日目の深夜。2日も眠っていない悪い子がいるので、少しお仕置きをしようかな。きっと起きたあとで落ち込むだろうけど、このまま眠らなければ思考能力が鈍って考えが進まないからね。

 それにしても、隣の部屋の音が筒抜けで良かったのか悪かったのか。仮の拠点だから仕方ないとは思っていたけど、もしかしてこれもワザとだったのかな。

 

 

 

 4日目の深夜。

 これは面白い。まさか未来から過去に繋がっているとは思わなかったよ。そして過去となった未来に、今とは別の未来に僕達はこのゲーム、ベアリアスワールド・オンラインをプレイしていたんだ。

 最初は1日4時間の体感速度2倍からプレイを初めて、途中で通常時は体感速度3倍に。開始から過去に繋がるまでの期間が1ヶ月半ほどだから、まだ開始されてすぐだったんだね。

 そして最後となるイベント、体感速度720倍で2時間の予定で始まったそれは数日で終わりを迎える。アリサさんと戦った最後の日、その日は終わらずに約1ヶ月前に繋がっている。

 別未来を知ったことにより知識と経験で少し有利になってしまったけど、ゲームの流れ自体が大幅に変わっているし、固定位置に弱点がないパペットなんて存在していなかったのであまり気にしなくてもいいかな。

 まあ、そんなことはどうでもいい。大切なのは別の部分だ。

 救いきれなかった少女のことも、皆と過ごした短い期間の出来事も、従魔達の名前も、魔物カードの名称も、すべて知ることができた。

 まず姉さんの友達、リンカさんとアオさんを含む5名と僕は知り合っていたんだね。あちらはたった数度で2日にも満たいない時間しか会っていなかったというのにあれほど仲良くなれるとは、やはり姉さんの弟である優位点は相当に強かったようだ。しかし、それはそれだけ姉さんが信頼されている証。とても嬉しいよ。

 次にアリサさんだが、あちらでは相当に無理をしてくれていたようだね。リンカさんが再び歩けるようになることを望んでいた事実は今と変わらないけど、アリサさんの場合は方法が過激すぎた。あの方法ではリンカさんの精神が先に折れてしまう。だからこそ、それに介入してその方法が間違いだと納得させた。あの時のアリサさんが見ていたリンカさんは"違う"リンカさんだったから、目の前のリンカさんを見るべきだと、そう伝えた。

 そして今、アリサさんはあの時に言っていた通り今の、目の前のリンカさんを見ている。現実で知り合い、リンカさんをよく知った上でいろいろと画策している。それを考えるとアリサさんはきっと、別未来の記憶をすべてもっているのだろうね。まあ、このゲームの首謀者らしき人物と知り合いだったのだから不思議はない。

 今回の一件、アリサさんは僕を信頼してくれているのか、あるいはこちらの世界で満足して無意識に現実で歩くことを諦めようとしているリンカさんをこのゲーム世界から外したかったのか。どちらにしてもリンカさんを思っての行動には変わりないのだけどね。

 次にサポちゃん。あちらでもチュートリアルを担当してくれて、最後のイベントでも僕をサポートしてくれていた。そして僕はあちらでもサポちゃんに名前を尋ねたが、返答はまったく同じ。

 そしてイベントで最後に会った時の別れの言葉。

『はい! お待ちしております』

 おそらく、イベントのどこかで僕専属のサポート妖精となるようなイベントがあるだろうと予想していたのだけど、イベントもまた、唐突に終わりを迎えてしまった。

 今回のサポちゃんの様子から、記憶を引き継いではいないだろう。それでも、彼女は変わらず彼女であった。サポートAIなのだから同じ開始点であって、違う個体かも知れない。それでも、現時点では同じだと判断できる。それに別未来の同一人物は、結局は別の道を歩んだ他人でしかないのだ。サポちゃんも、僕も、姉さんも。

 だから、たとえ記憶を引き継いてなかろうと、別人であろうと、僕は君を迎えに行くよ。きっとこの運営ならば、そのためのイベントをいつか用意してくれるはずだから。その機会まで、もう少し待っててね。その時はきっと、用意していた名前を提案させてもらうよ。

 最後に従魔魔法に関して。僕は別未来のこのゲームで従魔魔法メインでプレイしていた。ゲーム内では多くの時間を3人の従魔達とともに過ごしていた。従魔達は時には悩み、時には喜び、時にはともに負けて、次の勝利を目指した。

 僕がこの考えに至れなかったせいで随分と待たせてしまったね。

 今再び、ともに歩もうか。

 ふらつく身体で立ち上がり、家の外へと向かう。

20150519:

誤字を修正しました。

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