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029-真の試練05

 広間に移動し、このあとの行動について話し合うことになった。

 

「とりあえずペナルティに関してなんだけど、全ステータス半減だったよ。だから僕はペナルティがなくなるまでの間、従魔魔法についていろいろと試してみようと思う」

 

「うん、それがいい。私は……」

 

 その先の言葉はアオさんの口から出てこない。おそらく、先ほどの出来事が原因で言い出せないのだろう。

 

「アオさんはあのエリアの魔物について調べてもらえないかな? 弓持ちのパペット何だけど、腹部にも胸部にも弱点の宝石が存在していなかったんだ。もしかしたら弱点自体がない可能性がある」

 

「……任せてくれるの?」

 

「先ほど次を頑張ると言ってくれたからね。それに、あの時アオさんは逃げてくれた。だからこそ危険な真似はしないと信じられる」

 

 あそこで僕を助けるために近づいてきたり、その場で攻撃したりしていれば任せてはいなかっただろう。そんな行動をするようならば、1人では危険だと判断せざるえないからね。

 

「うん、頑張る。任せておいて」

 

「うん、お願いするよ。期待しているね」

 

 このあとの行動が決まったところで少し早目の昼食となった。その際にアオさんがリンカさんの部屋に昼食を届けに行ったのだが、部屋には入れてもらえなかったようだ。

 時に好意は心に刺さる針となる。アオさんには悪いと思ったが、リンカさんには必要だと判断したので止めなかった。

 僕はリンカさんにその一歩を進めてほしいのだから。

 昼食後、アオさんは案山子相手に弓の練習を行ってから、ダンジョンへ行くと告げて家の外へ向かった。そんなアオさんを見送り、僕は自室へと足を進める。

 アオさんとリンカさんが先に進むのだ。僕も一歩先へ進まなければね。

 

 

 

 自室のベットに座り、まず従魔魔法について考えを進める。

 これまでの2回のログイン期間中、従魔魔法についてはいろいろと試してみたが結果は良くない。相変わらず召喚は選択しても次に進まず、送還は召喚ができない以上、使用できない。

 充填と登録に関しては空白のカードがないため確認できない。

 解放に関しては黒いカードの存在から使用できそうではあるが、できたところで消えてしまうので意味はないだろう。もしかしたら1枚でも開放することが条件の可能性もあるが、それは最終手段だ。

 従魔の書に関しては最初と変わらず使用できるが収まっているカードはすべて黒いたまま。

 そして解放以外の技能は一度はメニューから選択して実行できるか確認はしている。

 その他にもカードを外してみたり、他の場所にいれかえてみたり、ドロップしたアイテムを近づけてみたりといろいろと試したが状況は変わらず。

 しかし、1つだけ気になることが残っている。技能の<<召喚>>を使用する際に従魔の魂カードと魔物カードを選択する必要があるとサポちゃんは言っていた。そして技能は技能名を単独で発声するか、メニューから選択することで使用することが可能とも。

 そうなると<<召喚>>を発声によって使用した場合はどうやってカードを指定するかだが、おそらくカードの名称で指定するのだろう。同名称のカードが2枚以上あった場合は分からないが、ここはいったん何か選択する方法があると考えておく。

 つまり知らないはずのカード名称を言い当てる必要があるわけだが、ヒントがないわけではない。

 ヒントは最近感じていた違和感やリンカさんとアオさんの反応、そして僕の経験。普通は気づけるはずのない、思いついてもあり得ないと考えるべき前提条件。

 簡単なことだったんだよ。僕は、いや、おそらくリンカさんやアオさんもこのゲームを一度プレイしたことがあった、それだけだったのだ。ただ、それを"知らない"だけ。

 そして僕は今からそれを"知る"。思い出すのではなく、"知る"。

 あちらの記憶は僕には存在していなかったのだけど、おそらく今回の記憶は存在しているはず。何せ、今回は僕も影響を受けているのだから。

 初めて戦ったはずの魔物相手に、まるで慣れているかのように戦えた。性別を勘違いしていたはずのアオさんが僕のことを男性と認識して君付けで呼んだ。アリサさんが僕のことについて、まるで出逢ったことがあるかのように知っていた。

 そして何よりも、僕が従魔魔法に惹かれて選んだと告げた際、リンカさんとアオさんは無意識にそれが当然であるかのような雰囲気で納得していた。

 きっと、僕はその知らない記憶の中でこのゲームをプレイし、従魔魔法をメインとしてプレイしていたのだろう。他の人には納得できなくても、僕にはこの内容で納得できるだけの経験がある。

 さて、そうなるとあとはどうやって知るかだが……どうしようか。ここは現実ではなくゲーム内。以前と同じ方法は使えないだろうし、仮に使えたとしても使うつもりはない。

 しかし、それを知ることが前提となっている従魔魔法が存在しているのならば、知る方法はあるはずなのだ。

 やはりそれを探っていくのが一番であり、そうなるとあの時の感覚を参考に現在の状態で再現するのが最適かな。

 制限時間はボスを倒す時間を最低でも1日と考えると、あと3日。相当難しい時間だが、必ずやり遂げよう。

 僕はあの3人が並んで戦う姿も見てみたいし、何より僕のために化け物となってくれた少女が秘める、無意識の望みを最高の形で叶えたい。

 おそらく辛い思いをするだろうが、必要なので仕方ない。頑張ろうか。

 

 

 

 その日の夕方、テーブルにはアオさんが作ってくれた料理が並んでいる。

 

「ユウ君、体調は問題ない?」

 

「うん、"体調は"問題ないよ。心配してくれてありがとう」

 

 復活した時点で痛みは残っていなかったからね。

 

「それは良かった」

 

 僕の言葉を聞いたアオさんの表情は心配そうなものから安心したような微笑みへと変わった。

 さて、一歩を進めるためにも相談しないとね。

 

「アオさん、少し相談があるのだけどいいかな?」

 

「何?」

 

「今の僕がダンジョンへ挑むよりは、従魔魔法を使えるように全力を尽くした方がダンジョンを攻略できる可能性は高いと考えているんだ」

 

「うん、私もそう思う」

 

「だから、最後の1日まで従魔魔法を使えるように全力を尽くしたい。その間、アオさんにダンジョンの情報収集をすべてお願いしたい」

 

 アオさんの瞳を見つめ、そう告げる。

 

「……」

 

 アオさんの海のように蒼い瞳が不安に揺れているのが分かる。きっと、自分で問題ないのかと、自分1人でできるのかと悩んでいるのだろう。

 

「ユウ君は――」

 

「信じているよ。信じているからこそ、お願いした」

 

 それを私ができると信じてくれるの。そう続けたかったのだろうが問いかけられる前に答えてこそ、この言葉はアオさんに対してより良い効果を発揮する。アオさんが求めていることを知っているからこそ、それが分かる。

 

「……うん、任せて」

 

 その声は静かだが、力強い。そして、アオさんの瞳からは不安が消え、やる気に満ちたものへと変わった。アオさんが求めているもの、それは信頼されること。信用ではなく、信頼。達成できると信じ、頼られることを望んでいる。

 さて、アオさんに期待を背負わせてしまったのだから僕も背負わないとね。

 

「ありがとう。僕も最善を尽くすから、期待しててね」

 

「うん、期待してる」

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