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028-真の試練04

 転移した先は木々生い茂る森の中。手を離して周囲を見渡してみると、すぐ後ろには帰還用と思われる魔法陣が存在しており、近くには魔物の存在を確認できない。

 

「ユウ君、あっちに進もう」

 

「うん、そうだね」

 

 アオさんが示した方向は魔法陣とは反対側。1つ目のダンジョンと同じであればそちらにボスが存在しているはずだ。

 さて、今回はいつもより集中して警戒しよう。ボス前に集中し過ぎてボスで集中できない可能性を考えると微妙な行為だが、リンカさんがいない現状では不意打ちも僕が対処しなければならない。

 目を瞑り、1度深呼吸してから森の奥へと向けて歩き出す。

 

 

 

 突然真横から飛んできた矢をしゃがんで避ける。

 どうやら今回は前回と違い、弓人形も奇襲をしかけてくるようだ。

 

「アオさん」

 

「うん」

 

 弓人形の場所をアオさんに示し、すぐに弓人形へと移動を開始する。

 それにしても、この森が静かでよかった。ここまで集中していれば木人形が動き、草を揺らす音をどうにか聞き取ることができる。そして、これでその場に突然出現するような奇襲以外は対応できる。

 

 <魔物>ウッドパペット Lv3

 

 移動を開始してすぐ木人形へと識別を使用したところ、どうやらウッドパペットという名称だったようだ。レベルについては比較対象がないため、レベル3がどれ程の強さなのか分からない。

 そして、魔物の残りHPを大まかに知ることができた。数値ではないので詳細は分からないが、魔物にどれ程のダメージを与えたか分かるようになったのは嬉しい。

 

 

 

 パペットの第2射、3射を避け、4射目を番えているところでようやく接近することができた。そして魔法銃を両手で構え、弓を持つその手へ撃つ。

 武器を落とさせる方法は弓パペット相手にしか使用できないだろう。他の近接系武器持ちの場合は1発では落とすことができず、さらに攻撃の合間に魔法銃を当てることすら難しい。

 アオさんの位置からパペットを狙えるように注意しつつ以前と同じように弓をアオさん側へ蹴り、それを追いかけ始めたパペットへと体当たりをしかける。しかし、その体当たりに威力はなく、パペットを転ばすどころか体勢を崩すことにも至っていない。

 弓へ辿り着き拾おうとしたパペットの腹部から音が響く。おそらく矢が腹部に突き刺さったのだとは思うが、パペットはそのまま弓を拾い、今度はアオさんへと弓を向けて矢を番え始めた。弓を拾うことを継続した時点でその可能性は予想していたので、すぐに接近してパペットの弓を持つ手を撃つ。そして弓を取り落としたところで弓を蹴って時間を稼ぐと同時にパペットに対して再び識別を使用する。

 識別により確認したパペットのHPは3割ほどしか減っていない。そして先ほど見たパペットの腹部は破壊されていたが、その中に弱点となる宝石は存在していなかった。これは弱点の場所が変わったのか、それとも弱点自体がなくなったのか。どちらにしても確認はするべきだろう。

 

「アオさん、腹部に弱点がない!」

 

「次を狙う!」

 

 アオさんはすぐに理解してくれたようなので、僕は弱点が判明するか倒せるまでこのパペットの妨害を続けるだけだ。

 そう考えていたが、後ろから別の何かが動く音が聞こえたので弓パペットを間に挟むように移動しつつ、そちらを振り向く。

 森の奥からこちらへ歩いてきているのは目の前にいるパペットと同じ形をしたパペット。しかし、その体は金属光沢を放つ鉛色をしており、その手には体と同じく金属光沢を放つ鉛色のランスを持っている。

 すぐに識別を使用したが情報は分からない。距離の問題か、レベル差か、あるいは識別の効果がないタイプの魔物か。

 そして、その魔物は僕を捉えたようにこちらを向き、走りだした。弓パペットの妨害をしつつ、近づいてくる魔物を見ていたところ、その移動速度は以前のダンジョンで見た槍パペットよりも速い。

 そして少し近づいてきたところで識別を再び使用する。

 

 <魔物>メタルパペット Lv16

 

 金属であることに加えてレベルもかなり高い。目の前の弓パペットがレベル3であることを考えると1段階どころか2段階は上の魔物と考えておくべきだろう。

 目前まで迫ってきたメタルパペットはその手に持つランスを突き出してきた。そのランスは僕とメタルパペットの間に存在していた弓パペットの胸を貫通して僕へと迫ってきたが、僅かに横に移動することでそれを避ける。

 予想はしていたが、この行動には違和感を覚えてしまう。しかし、今はそのことについて考えている暇はない。

 

「アオさん、逃げて!」

 

 後退しつつ、アオさんへと撤退を伝える。

 ランスを弓人形から抜いたメタルパペットは再び僕へと迫り、ランスで攻撃をしてきた。その攻撃はウッドパペットの槍攻撃よりも鋭く、3撃目にして腕を掠ってしまった。

 それだけで視界に映るHPバーは2割程度減っているが、この程度ならば問題ない。

 幾度となく繰り返される攻撃を何とか回避できているが、反撃する隙はない。それどころか魔法陣へと移動することすら叶わない。もう攻撃に当たることはないだろうが、逃げることもできない状況だ。

 攻撃を回避し続けていたところで、アオさんが魔法陣へと到着しているのが確認できた。しかし、魔法陣の上に乗っているはずのアオさんは転移していない。

 これは……もしかしてパーティ全員が乗らなければ転移できないのだろうか。転移自体ができない可能性もあるが、あの光輝く魔法陣を見て転移できないとは考え難い。そうなると、何とか僕があちらに戻る必要があるのか。

 そこまで考えたところで、槍を持ったウッドパペットがアオさんの方へと走って移動しているのが見えた。

 前回のログインまでの動きから考えると、今のアオさんでは槍パペットの攻撃を避け続けることはできないだろう。しかし今から僕が全力で魔法陣を目指しても、それまでアオさんが避け続けることは難しいだろう。それに僕の体力では避け続けるのが難しくなってきた。

 そうなると取るべき選択肢は1つしか思いつかない。

 再び突き出されようとしている槍の攻撃先を読み、そこへ自らの胸を移動させる。次の瞬間、胸に激痛が走るとともに視界が黒く染まった。

 

 

 

 目を開けると見慣れた天井が見える。起き上がり周囲を見渡すと、そこは拠点となっている家の自室であった。初めて復活したのだが、どうやら復活地点は自室だったようだ。

 まずメニューを開き、ステータスとスキルを確認する。

 

 ◇ステータス

 名称:ユウ 種族:ヒューマン Lv1

 筋力:6(1) 生命力:6(1) 器用さ:12(3) 素早さ:6(1) 魔力:20(2) 精神力:20(5)

 状態:封印(全ステータス半減、魔力低下)、ペナルティ(全ステータス半減)

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 メインスキル:従魔魔法LvXX

 サブスキル :鑑定Lv1、識別Lv1

 EXスキル  :???LvXX(封印中)

 残SP    :0

 

 どうやらペナルティがあるのはステータスだけで、スキル側にはないようだ。そしてステータスのペナルティが全ステータス半減。これはペナルティがなくなるまで戦闘をするのは避けたほうがいいだろう。

 筋力1がどれ程のステータスなのか気になりベットの上でマジックポーチから魔法銃を取り出してみるが、魔法銃を持ち上げることすらできない。次にリンゴを取り出してみるが、こちらは少し重く感じる程度で持っていることはできる。おそらくステータス最低値の0あるいは1でも最低限の能力が保証されているのだろう。

 それにしても、死に戻りした時に手に持っていた魔法銃がなぜマジックポーチの中に入っていたのだろうか。復活した際に周囲に魔法銃が落ちておらず、消失したかあの場所に落ちているものだと考えていたのだけどね。

 死んでしまった際に持っていたアイテムはすべてマジックポーチに移動するのか、試練の間だけは消失しても新しい魔法銃が支給されるのか。あるいは前者に加えて一定確率で消滅するが、今回はたまたま消失しなかったか。

 

「ユウ君!」

 

 そんなことを考えていると部屋の外、おそらく家の玄関から僕を呼ぶアオさんの叫び声が聞こえてきた。この場所からあの場所までは少し距離があるので、どうやら復活の際に時間が経過するようだ。

 走る足音が聞こえ、部屋のドアが勢いよく開けられる。そして部屋へ入ってきたアオさんは僕を見て、すぐに駆け寄ってきた。

 

「ユウ君!」

 

 次の瞬間、力強く、暖かく体が包まれた。

 仲間が殺される、この歳の少女がその光景を目にしてしまったのだ。いくらゲームとはいえ辛かっただろう。僕もそんな光景はゲーム内であり、復活できるとしても見たくはない。

 

「アオさん、無事に戻れた?」

 

「うん」

 

 予想通り転移するにはエリア内に存在しているパーティメンバーが全員、魔法陣に乗っている必要があったようだ。

 

「それは良かった」

 

 僕を抱きしめていた手は解かれ、アオさんが僕の前へと立つ。その目には僅かに涙のあとが見える。

 ……君は相変わらず優しいね。

 

「ユウ君、1つ聞いていい?」

 

「うん」

 

「何で、自分から攻撃を受けたの……。そんなに私が信じられなかった? 私はそんなに弱く見られていたの?」

 

 先ほどの心配して泣きそうな声とはうってかわり、悲しみから泣きそうな声でアオさんは問いかけてきた。

 

「違うよ。アオさんは僕の言葉を信じて逃げてくれた。次のために自分の気持ちを抑えて逃げる、それは強い人にしかできないことだよ」

 

 どちらかといえば逃げたのは僕だろう。いくら理由があったとはいえ、アオさんが槍で傷つく場面を見たくなかった。

 

「それなら、なんで!」

 

「簡単な理由だよ。僕自身があの状態からでは魔法陣まで辿り着けないと判断した。僕の生命力と素早さは3しかないんだ」

 

「え……3?」

 

「そう、3。低い素早さと残り少ない体力から逃げ切ることはできないと考え、それならばアオさんだけでも無事に戻り、次の挑戦に備えたほうがいいと判断した。辛い役目をさせてしまってごめんね」

 

 あの状況で2人が生還する可能性がなかったわけではない。それでも、この判断が一時的にアオさんを悲しませるとは分かっていても、アオさんが先へ進むためにこちらを選択すべきだと僕は判断した。

 

「……問題ない。ユウ君の判断は間違っていない。私はその分、次に頑張る」

 

「うん、ありがとう」

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