021-硬き身体と折れぬ刀05
「ようやくだよ。待たせたね、ユウ君」
「ありがとう、リンカさん。それでは任せるね」
「ああ、任された!」
魔物に背を向けないように少し離れ、魔物の攻撃範囲から完全に逃れたあたりで周囲を確認する。そしてこちらを見ているアオさんを見つけ、そちらへと移動する。
「アオさん、大丈夫?」
「……ユウ君、私はやっぱり何もできないの? ここでも守ってもらうだけなの?」
アオさんのこの言葉はきっとお姉さんの、ミドリさんの影響だろうね。どちらの気持ちもわかる僕としては微妙なところだけど、それでも僕が応援したいのはアオさんだ。
まあ、応援するしないは別としてアオさんはこの状況で最善の行動をしていると僕は思っている。まずはそれを伝えて落ち着いてもらおう。
「何を言っているの? アオさんは今の状況で最善の行動をしていると僕は思っているよ。それとも、何でも自分1人で解決することを望んでいるの?」
「……ごめんなさい、落ち着いた」
その表情や声からも落ち着いた様子が窺える。これでこの戦闘中はもう大丈夫だろう。
そうなると次の問題だ。先ほどアオさんが何もできていないと言っていたが、それは僕も同じ。この状況であの魔物へ攻撃してしまえば、目標は再びこちらへと移ってしまうだろう。そうなっては意味がないが、このまま何もせずに待っているわけにも行かない。アオさんの<<溜め>>攻撃1発と僕魔法銃数発のダメージを与えるためにリンカさんはそれなりの時間、斬り続ける必要があった。あの魔物の体力が相当低いならばこのままでも倒せるだろうが、そうでなければリンカさんの刀が先に折れてしまう可能性もある。
今まで武器が破損したことはないが、正直あの硬そうな魔物を斬り続けていて刀に影響がないとは考え難い。それに今はまだ避けながら斬り続けられているが、いつまでも行動できるわけではない。
ゲーム内とはいえスタミナの限界はあるし、集中力の限界もある。いくらリンカさんとはいえ、いずれは限界がくるだろう。
「私が今すべきはあの魔物の倒し方を考えること。そして新たな魔物が出現したら対処することだよね」
「うん、それで問題ないと思うよ」
「そうなると……ユウ君、森の人形みたいに核を探してみる?」
「やはりそれだよね。問題はどうやって探すかだけど――」
視線の先で魔物と戦っているリンカさんへ足元に生い茂っている草むらの中から木の槍が突き出されたが、リンカさんはそれをとうぜんのように避ける。
そして次の瞬間、ボス魔物周囲の草むらから多くの木人形が生えてきた。いや、これは匍匐前進をしていて槍人形の攻撃を機に本格的に攻撃を開始したと見るべきだろう。
木人形の種類は槍、弓、剣、刀、斧と先ほどまでの森で見た種類と一致するので問題なく戦えるだろうが、問題はその数だ。最低20体はおり、そのすべてがリンカさんへと目標を定めている。これはもしかしたら、ボス魔物と同じ目標を狙うのかもしれない。
「アオさん」
「うん、確実に一撃で倒し――」
アオさんの言葉の途中で一番近い木人形へ向かって走り始める。アオさんがとるであろう行動は予測できていたので、あそこまで聞ければ十分だ。
木人形に攻撃を行った場合にその相手に狙いを変更してくる可能性があるが、一撃で倒してしまえば問題ない。1体に攻撃した瞬間に全体がその相手に狙いを変更する可能性もあるがそれを考慮してしまうと攻撃ができなくなってしまうので、そうなった場合は仕方ない。
移動中にリンカさんの様子を見てみるが、ボス魔物の攻撃を避けながら迫る刀、槍、剣を捌きつつ、飛んでくる矢を避けるか刀で落としているという凄まじい状況を演じている。
あの凄まじい動き、おそらくほとんどが無意識だろう。体が自然に動いていると考えてもいい。きっと"今の"リンカさんが意識的に行動してもあそこまでの動きはできないのだから。
そしてあそこまでの動きができるのならば、僕もアオさんと同じく1体ずつ対処していくとしよう。
目前まで迫った木人形の弓を持つ手へ至近距離から魔法銃を撃つ。そして取り落とした弓を蹴り飛ばし、追いかけようとした木人形を転ばして起き上がれないように踏みつけた上で、腹部へ魔法銃を連射する。そして露出した弱点へと2発撃ち、マジックポーチから剥ぎ取りナイフを取り出して消滅させておく。
手間をかけてまで消滅させた理由は、可能性はとても低いとは思うが途中で回復して動き出す可能性を考えてのことだ。憂いとなるのならば一手間かけて解決しておいたほうがいい。リンカさんのおかげで現状でもそれだけの余裕はある。
一旦アオさんの方を確認し、狙っている木人形を確認してから邪魔にならないように次の木人形へと向かう。
さて、問題はここから。僕の場合はMPの関係上、MPが尽きてしまえば時間経過によるMP回復を待つ間は魔法銃では1体すら倒すことができない。そうなれば他の方法で倒すしかなく、素手で倒すのは難しいだろうし、仮に倒せたとしても時間がかかるだろう。そこで別の武器を入手しようと思う。
ちょうどリンカさんから少し離れている槍人形へ近づき、至近距離から魔法銃で撃つ。そして弾を受けた槍人形が振り向くのを確認してから、そのまま後ろへと移動を開始する。どうやらあの槍人形はリンカさんからダメージを受けていなかったようで、すぐに僕へと狙いを変更してくれた。
少し離れたところで立ち止まり、槍人形を待ち受ける。そして近づいてきた槍人形が突き出す槍を避け、至近距離から槍を持つその手へ魔法銃を連射する。弾は問題なく動く槍人形の手へとすべて当たり、槍人形はその手から槍を取り落とした。
すぐにその槍を蹴り飛ばし、拾おうと動き始めた槍人形を後ろから体当たりで転ばしてから、飛んでいった槍へと近づいてその槍を拾う。取り落とした時点で拾っても良かったのだが、近接型の槍人形が既に知っている弓人形よりも動きが早く、腕を掴まれたりした場合に危険だと考えてこちらの方法を選択した。
拾った槍を軽く振ってみるが木製なのか軽く扱いやすい。金属製よりも攻撃力は落ちるだろうが、槍を扱うのは初めてなので扱いやすい方がありがたい。まあ、僕の場合は普通の初めて扱うとは違うのだけどね。
それにしても、たとえ木製だったとしても自分の体よりも長い槍をここまで軽く扱えるとは、この体の身体能力は凄いな。おそらく現実世界の体では振り回すどころか持ち上げることすら難しいだろう。
槍を取り返しに迫り来る木人形を視界に収め、槍を両手で構える。そして深呼吸を一度だけ行い、集中して木人形の頭へ狙いを定め、突く。
目前の木人形は頭だけが吹き飛び、後方へ飛んでいく。そして頭が外れた体は後ろ向きに倒れた。
腕から伝わってきた感覚に、体が感じたその感覚に、僕の未熟さから貫通できなかったことは明らかだ。しかし、頭が吹き飛んでこちらへの衝撃が少なかっただけ良かったとしておこう。
そしてこれ以上はやめておこう。こんな事態に陥ってしまったので1度は試しておいたが、やはり今は使うべきではないし慣れるべきでもない。槍スキルを手に入れるかして段階を踏み、僕がこれを使えてもおかしくないと思えるような状況でこそ、使いはじめるべきだろう。あの人が関与している以上は運営側にバレることは構わないのだけど、他のプレイヤーに見られてしまうのは避けたい。特に姉さんの知り合いには。しかし、こちらで慣れたという実績さえあれば他のプレイヤーに見られてしまったも構わないとは思っている。ゲーム内で訓練し、使えるようになったと思われるのならば問題ないのだから。
頭が吹き飛んだ木人形の体へ剥ぎ取りナイフを使用すると、体は空気に溶けこむように消滅した。
次に頭が飛んでいった場所へ移動して頭を探してみたところ、こちらは消えずに残っていた。こちらにも剥ぎ取りナイフの使用を試みるが、消滅しないどころか刺さりすらしない。やはり、核となる部分から離れた場合は消滅させることができるがそれでは核は消滅しないようだ。武器だけを剥ぎ取れた時にこの可能性は考えていたが、試す機会がなかった。
リンカさんは初回以降は宝石の部分を両断しており、僕が魔法銃で分割するには多くのMPが必要だろう。今の状況で木人形相手の戦闘に慣れ始めたリンカさんにお願いするのは避けたかったし、攻撃方法が魔法銃である僕が必要か分からないことにMPを割きたくはなかった。
確認を終えて、先ほどの攻撃で破壊され僅かに宝石が見えていた箇所を数度槍で突き刺すと宝石が割れたので剥ぎ取りナイフを突き刺す。そして頭が消滅すると同時に手に持っていた槍が消滅したことを確認して次の木人形へと移動する。
次はリンカさんの近くにいる斧人形を魔法銃で誘き寄せ、槍人形の時と同じく武器を奪った。そして体当たりで転ばせたあとに頭へと斧を振り下ろしたところ見事に中の宝石ごと破壊でき、確認のため剥ぎ取りナイフを突き刺したが問題なく斧と同時に消滅した。
斧であれば振り下ろすだけで弱点部位を破壊できるだろうと考えての行動だが、予想は見事的中。もちろん適当に振り下ろしたわけではないが槍ほどおかしなことはしていない。仮にリンカさんが斧を扱ったことがないとしても僕が振り下ろした以上にうまく振り下ろせるだろう。その程度の振り下ろしでしかない。
さて、斧であれば余裕で弱点を破壊できることがわかったので、次は斧を消滅させないように奪った相手は倒さずに他の木人形の相手をしていこう。
それにしても、僕がこうして木人形を余裕で倒せるのも1体ずつ相手をしているからであり、多数が同時に襲ってきた場合は難しかった。槍で行ったあれはかなりの集中が必要であり、斧に関しては木人形を転ばせていないと一撃では倒せないだろう。仮に僕があれを使っていたとしても、リンカさんの実力あってこそ戦えている状況に変わりはない。




