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014-選択02

 **********

 

 

 

 小柄で可愛らしい少女が椅子に座り、笑顔で私に話しかけてくれている。その少女――楓は私の友達であり、親友と言ってもいいほどに親しい。しかし、今は私の足が動かなくなったことにより、親友と呼んでいいかどうか迷っている。

 信号が赤を示す横断歩道を渡ろうとしていた小学生に、迫る自動車。それを見た瞬間、この体はその小学生を救いに駆けた。その結果として小学生は無事助けられたのだが、代わりに私が大怪我を負うという失態を演じてしまった。その時から楓は足の動かない私を助け続けてくれているが、私は何も返せていない。楓は気にすることはないと言ってくれてはいるが、しだいに私は楓を親友と呼ぶことを躊躇し始めてしまった。

 医学的には完治しているはずのこの足は、いくら呼びかけようとも動いてくれない。いくらリハビリを行っても、一歩すら、ただの一歩すら動いてくれない。

 あの時、助けたことは後悔していない。しかし、楓に迷惑をかけ続けているこの状況に"もういい"と、そう言えない自分の不甲斐なさ。楓に迷惑をかけてでも離れてほしくないと感じている自分に関しては悔いているのかもしれない。

 そんな思いを隠しつつ楓と会話していると、不意にドアをノックする音が聞こえてきた。

 この施設で楓以外に私を訪ねてくるとすれば、おそらく楓と同じくらい仲良くしている翠だろう。翠は私の心情を察してか、楓ほど私に世話を焼かない。それでも、困っている時はすぐに助けてくれるし、いつも遊びに来てくれる。

 

「どうぞ」

 

「失礼しますね、凛。ちょうど良かったので遊びに来ましたよ」

 

 入って来たのは金髪碧眼でスタイルの良い大人の女性――アリサさん。数か月前、リハビリを行っていたところに見知らぬ金髪碧眼の女性が声をかけてきた時は驚いたが、彼女が言うには私の必死な姿につい声をかけてしまったらしい。そして、そのまま話しているうちに仲良くなれ、今ではたまに遊びに来てくれるほどに仲良くなっている。今日ここを訪れた理由も数週間前に私がこのイベントに参加すると言った時、時間があればその時に尋ねると言っていたので今がそうなのだろう。

 

「お久しぶりです、アリサさん」

 

「凛、このイベントは楽しめているかしら?」

 

「少し大変そうですが、十分に楽しいですよ」

 

「それは良かった」

 

 ログアウト後、係員の女性――伊予さんから世界を賭けたゲームが事実であると説明を受けたが、無関係であるアリサさんにそのことを伝えるわけにはいかない。それに、それをふまえても楽しいのは事実だ。

 

「凛、今日はゲストを連れてきました。知人の知人なのだけど、あなたと同じでこのイベントに参加している子供よ」

 

「このイベントに参加している子供ですか? それはぜひとも話してみたいですね」

 

 あの5日間について話してみるのもいいし、この状況をどう考えているか聞いてみるのもいいかもしれない。もちろん、その場合はアリサさんに聞こえないようにだけどね。

 

「それは良かった。それでは入ってきてください」

 

 アリサさんの言葉に応えて部屋へと入って来たのは1人の少女。

 

 雪のように真っ白な髪。ルビーのように赤い瞳。色白で小柄な体。そして何よりも、楓にそっくりなその少女。直前までゲーム内でパーティを組み、5日間をともに過ごしたその少女。

 ゲーム内と変わらぬその姿に、まるでゲームから飛び出してきたようなその姿に、思わず手を伸ばしていた。

 

「きゃ」

 

 次の瞬間、私は少女を下敷きにして倒れていた。

 胸の下から聞こえた悲鳴にすぐ退けようとするが、焦っているのか手をうまく動かすことができず退けることができない。私は、今の私はこの程度のことすら、うまく行えないのか……。

 

「凛ちゃん、大丈夫!?」

 

 そこに楓がいつものように、助けの手を差し伸べてくれた。楓の補助を受けつつ、白い少女――ユウさんの上から退けてベットの上へと座る。

 

「ユウさん、突然申し訳なかった」

 

 立ち上がってこちらを見ていたユウさんへと頭を下げて謝る。

 

「気にしないで。女の子1人すら支えられなかった僕が悪いのだから」

 

 優しい微笑みを浮かべながらユウさんはそう言ってくれた。

 少し気になる言い回しだが、小柄な少女が自分よりも大きな私を支えられなくても仕方がないと思う。それに倒れていった私が悪いことに変わりはない。

 

「いや、倒れていった私の方が悪い。本当に申し訳ない」

 

「本当に気にしないで。理由は言えないけど、今のは僕も悪いと思っているんだ。それよりも、姉さんと凛さんが仲良くしている姿が見られて嬉しいよ。いつも姉さんと仲良くしてくれてありがとう」

 

「いや、仲良くして――」

 

「私と凛ちゃんは親友だからね。だから、ユウちゃんも巻き込んでしまおう。これで今日からユウちゃんと凛ちゃんは友達だよ」

 

 もらっているのは私の方だよ。その言葉を遮って楓が言葉を紡いだ。

 ユウさんと私が友達。その言葉を聞いて、目の前の少女は嬉しそうに笑顔を浮かべている。私も楓の妹であり、同じパーティを組んでいる少女と仲良くなれたその事実が嬉しい。

 

「それは嬉しいな。、凛さん、あらためてよろしくね」

 

「こちらこそよろしく、ユウさん」

 

 差し出された手を握り、握手を交わす。

 

「それにしても、2人が知り合いだったなんてね驚きだよ。どこで知り合ったの?」

 

「ゲーム内でアオとともに同じパーティなんだ。まさか本当に同じイベント施設だとは思わなかったから驚いたよ」

 

「ふふ。僕は途中から確信していたのだけどね」

 

「そうなのかい?」

 

 そういえばログアウト直前、ユウさんはこう言っていた。『いつも姉さんと仲良くしてくれてありがとう』、と。この言葉は私とアオが楓と仲が良いと知っていなければ出ない言葉だ。つまり、ユウさんは途中から私達の関係を確信していたのか。それとも、ログアウト直前だからこそ確信できたのだろうか。

 

「凛ちゃん、気を付けた方がいいよ~。ユウちゃんは私よりも性格が良いからね」

 

「今の姉さんがそれはないと思うよ」

 

「そうですね。楓、それはないと思います」

 

「ええ~。2人とも酷いな~」

 

 アリサさんまで納得するほど今の楓は性格がイイと言える状態らしい。知り合った時から楓はいろいろと"イイ性格"をしていたが、今もきっと何か企んでいるのだろう。

 

「おっと、そろそろお昼時ですね。ユウ、さん。食堂で一緒にお昼でもどうですか?」

 

「構いませんが、あなたも良い性格をしていますね」

 

「ユウさんほどではないでしょう。それでは凛、今日は失礼しますね。また明日、時間ができたら来ます」

 

「はい。いつもありがとうございます。ユウさんも来てくれてありがとう」

 

「こちらこそありがとう、友達になれて嬉しかったよ。それではまたね」

◇20150504:

誤字を修正しました。

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