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013-選択01

「体に異常はありませんか?」

 

 男性の声が迎えてくれた中、目を開けると白い天井が見えた。

 

「はい、異常はありません」

 

「それではヘルメットを外し、カプセルからいったん出てください」

 

 係員の男性――枝幸さんの指示通り、頭にかぶっていたヘルメットを外し、カプセル内のベットから起き上がってカプセルから出る。そして近くに用意してあった椅子へと座る。

 

「えっとですね……」

 

「大丈夫です、枝幸さん。世界を賭けたゲームについて説明をお願いできますね?」

 

「お、落ち着いていますね。それでは説明をいたします。まず、結論を言いますとあの話は本当です。ゲームの演出ではなく、実際に世界を賭けたゲームであると国から報告が来ています」

 

 あの人が関与していた以上、あの話が事実であるのは分かっていた。そして姉さんはあの人が関与していることを知らない。施設内で姉さんと別れたあとに出会ったため、仕方のないことだ。

 

「信じていただくのは難しいかもしれません。私自身もあまり信じられない話だと思っているのですが、実際に国からの認証済み文書を見せられてしまうと信じざるえないのです」

 

「認証済み文書は私達にも確認させてもらえるのですか?」

 

「はい、もちろんです。それに文書にも参加者全員に確認してもらうよう記載があります。最初に確認を――」

 

「申し訳ありません、確認は少しだけ待ってください」

 

「は、はい」

 

 椅子から立ち上がり、部屋の入り口ドアの前へと移動する。そして僅かに時間が経過した時、ドアが開き、そこから僕によく似た少女が飛び込んできた。

 

「優君!」「姉さん」

 

 飛び込んできた少女――姉さんを優しく抱きしめる。

 ゲームの演出だと思っていた姉さんがこの話を聞いた瞬間、僕の部屋に来ることは分かっていた。リンカさんでもなく、あの人でもなく、僕の部屋へ。これは僕が一番心配されているからだと理解している。他の2人のことも心配しているのは知っているが、無意識に僕の場所を選択する理由を僕は知っている。

 

「……ゴメンね、落ち着いた。問題ないのね」

 

「うん、あとで話すよ。今は一緒に説明を聞こう」

 

「うん」

 

「お待たせしました。一緒に説明を聞いても構いませんか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。そちらは楓さんですね。あなたの部屋には私から連絡しておきますのでご安心ください」

 

「ありがとうございます」

 

 お辞儀をする姉さんと、端末を操作し始めた枝幸さん。

 それにしても弟を心配した姉が急いでやって来たと認識しているのは理解しているが、すぐに対処を考えて実行できるのは凄いと思う。これは良い担当の人にあたったかもしれない。

 端末を操作し終えた枝幸さんは自分の椅子を姉さんへと譲ってくれ、立ったまま説明を開始した。

 内容としては世界を賭けたゲームは本当であり、日本政府も実際にそれを認めている。ゲームへの参加は自由であるが、参加を決めたあとは終了までの間こちらの施設で過ごしてもらう。その間の生活や学校などの問題はすべて国が保証する。参加しても途中でやめることはできるが、その場合はゲーム最初の説明でもあったようにログイン権を失う。特別な場合を除き、指定時間にログインしなかった場合もログイン権を失う。そして最後に国の認証済み文書を確認させてもらったが、その内容すべてが記載されていた。

 

「次回のログインは今から約6時間後の午後4時となりますので、それまでに参加するかどうかを決めてほしいと思います。急なのは分かっていますが、相手の指定ですので理解していただければと思います。あなた達のような幼い子供達にこのような責任を背負わせることになってしまい、申し訳ありません。私も参加できればしたいのですが、参加者は相手側が決めているので参加できないのですよ……」

 

 枝幸さんの悲痛そうな表情から悔しそうな声で、そう告げて頭を下げた。その表情が、声が、そして行動が枝幸さんの心情を正確に伝えてくる。この人は本当に、心から僕達子供にこの様な責任を背負わせてしまった事実を悔いている。できるなら変わってあげたいと、心から思っている。やはり担当がこの人であったことは幸運だったと思う。あるいは全員の担当がこの人と同じく優しい人なのかもしれない。

 

「気にしないでください。あなたが僕達の代わりに参加したいと思っていただいていることは伝わってきています。見知らぬ僕達のためにそこまで考えていただき、ありがとうございます」

 

「そうですよ。私達は気にしていませんので頭を上げてください」

 

「ありがとうございます。私の方が慰められていてはいけませんね。もし、参加を決められたのならば全力でサポートいたします。その時はよろしくお願いします」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 僕達2人の参加はもう決まっている。リンカさんが参加する以上、姉さんとあの人は参加するだろう。そして姉さんが参加する以上、僕も参加する。それ以前に、このような危険な状況を何もせずに放置する選択肢は、僕達2人にはない。

 

「それではこの端末をお持ちください。楓さんの方は申し訳ありませんが部屋まで取りに行っていただく必要があります」

 

 テーブルの上にあった端末を枝幸さんが手渡してきたので、それを受け取る。それは手のひらサイズでフレームが黒いものだ。

 

「その端末は国からの提供品となっていますが、機能から考えて明らかに現代技術以上のものが使われていますので、相手側が準備したものを提供しているものと思われます。一応私も確認しましたが、危険ではないと判断いたしました。用途としては端末同士の連絡、緊急連絡、国からのサポート全般の補助など、その他にもいろいろなことに必要となっていますので紛失しないようにお願いします」

 

 あのVRMMOを作成できた技術力があるのだから、現代技術よりは明らかに上なのは間違いないだろう。現代でも他にVRMMOは発売されているが、あそこまでの技術力はないはずだ。少し調べただけの知識なので正確な比較はできないが、少なくとも五感すべてを実装し、体感速度を数百倍にまで伸ばしているあのVRMMOには遠く及んでいない様子だった。

 

「最後にその端末で認証をお願いします。認証時にこの件について世間に広めないように同意が必要となりますが、この同意に関しては参加しても、参加しなくても施設の外に出る際には必要となりますのでご容赦ください」

 

「分かりました」

 

 指示に従い端末を起動したところ同意文が表示されたので、よく確認をして同意した。

 

「それで認証は完了となります。どうやって本人を認証しているかは分かりませんが、他の人ではどうやっても起動すらできませんでしたので認証機能があることは間違いありません。ちなみに私が確認した端末は施設職員用に配布された端末となりますが、機能自体は同じものだと聞いています」

 

 不思議認証システム。いったいどんな方法で認証しているのか少し気になるが、きっと国すらも把握していないのだろう。相手側が用意したとなると、把握できてしまっては細工も可能になるので都合が悪いだろうからね。

 

「それでは参加されるようでしたら、午後4時までにこの部屋へ来てください。また、不参加と決定されましたら近くの職員に言っていただければ対処いたします。それと昼食に関してはこの施設内の食堂で無料で提供いたしますので、ぜひご利用ください。最後に私は職員室にいますので何かありましたらいつでも来てくださいね。それでは失礼します」

 

 枝幸さんは軽くお辞儀をして部屋から出て行った。

 まずは姉さんへの説明、そしてそのあとであの人のところへ行くとしよう。

 

「姉さん。姉さんと別れたあとで白の人に会ったんだ。あの人は『あなたの5日後にまた会いましょう』、そう言っていた」

 

「うん、確かにそれなら問題ないわね。少なくとも、このゲームが世界を賭けたゲームであることは間違いない。ところで優君、誰とパーティを組んだの?」

 

 安心した表情からいつもの笑顔に戻った姉さんを見て、僕も安心した。

 

「リンカさんとアオさんだよ」

 

「リンちゃんとアオイちゃんか~。私がミドリちゃんと組んだから、やっぱりこの施設内でパーティを組んでいるみたいね」

 

 どうやら2人の本名はリンさんとアオイさんと言うらしい。

 

「少し心配だったけど、優君と組んだのなら安心かな。それじゃあ優君、少し遊んでくるね。またあとで~」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 2人のうち1人、ミドリさんとはゲーム内でパーティを組んでいたことを考えると、リンさんのところへ行くのだろう。おそらくミドリさんは妹であるアオイさんの所へ行っていると思うので、しばらくの間は姉さんとリンさんの2人きりで話すのかな。

 姉さんが部屋から出るのを見送り、僕も移動を開始する。

 

 

 

 「事前にヒントをいただき、ありがとうございました」

 

 目の前には白いローブで全身を包み、フードで顔すらも把握できない人物。僕の恩人であり、開始前にヒントをくれた人。身長は僕よりも少し高い程度で、声と手などの見えている部分から女性であることが予想できるが、他の情報は一切わからない。

 

「構わない。それに少年にはこれ以上の借りがあるから気にしなくてもいい」

 

 この人相手に恩はあっても貸しを作った覚えはないが、おそらく聞いても教えてはくれないだろう。何せ、僕はこの人の名前すら知らないのだから。

 

「ありがとうございます。そういえば何か用事があったのですか?」

 

「この施設で知人と待ち合わせをしている。できれば少年も会ってほしいと考えているけど、構わない?」

 

 このあとは暇なので断る理由はない。それにこの人の頼みなのだ、できる限り応えたい。

 

「構いませんよ。今からですか?」

 

「どうやら今、来たみたい」

 

 白い人の視線をたどってみると、その先から金髪碧眼の女性がこちらへ向かって歩いてくるのが確認できた。どうやらあの人が待ち合わせしている人のようだ。

 

「お待たせ」

 

「問題ない」

 

「ところでそちらの少年は誰かな?」

 

 白い人と挨拶を済ませた女性がこちらを見て、そう問いかけている。

 

「私の知り合い」

 

 さて、この人は誰だろうか。先ほどの表情や声から、おそらくこの人は僕を知っている。そして、その事実を隠している。

 

「あれ、お久しぶりですね」

 

「……少年、君とは初対面だと思いますが……もしかして知人に似ていましたか?」

 

 普通の人相手なら問題ない程度の反応でも僕は読み取れてしまう。この人と僕は親しくはないが、会ったことがある。しかし僕はそれを思い出せない。アオイさんの件と同じく、最近の違和感と関係がありそうだ。

 それでも思い出せない以上、僕にとっては初めての出会いであり、この人は他人である。

 

「申し訳ありません、人違いだったようです」

 

 何も思い出せないことも含めて、頭を下げて謝る。

 

「いえ、気にしないでください。そうだ少年、ちょうどいいので一緒に来ませんか? これから1人の少女を尋ねるのですが、あの子もあなたと同じで今回のイベントに参加しているのですよ」

 

「アリサ、何を考えているの?」

 

 どうやらこの女性はアリサさんという名前らしいが、今はそれよりも返答だ。この施設内となると、姉さんの友達である可能性もある。示す少女が姉さんかミドリさんかアオイさんならば問題ないのだが、リンさんであった場合がよくない。ログアウト直前に現実でも出会うと決めはしたが、先ほど姉さんがあの事実を言わなかった以上、それはリンさんにとって僕に伝わらない方がいい事実。それならば今は会わず、もう少し親しくなり問題がないと判断できたならば、その時に会いたい。

 

「同じイベントの参加者同士、話が盛り上がると考えているよ。それであの子が喜ぶところが見られるのなら私は嬉しいさ」

 

 アリサさんは嬉しそうに微笑みながらそう言った。

 

「それはぜひとも一緒に行きたいと思いますが、その前にその少女の名前を教えてくださいませんか?」

 

「秘密です。あちらに教えていないのですから、あなたにも秘密にしておきます」

 

 唇に人差し指をあて、内緒のポーズを取りながらそう答えたアリサさん。

 確かに相手に教えていないのならば、こちらに教えてくれなくても不思議ではない。しかし、その表情は子供が悪戯を企んでいるように見えてしまう。

 この様子を見て、考えを少し変えた。仮に少女がリンさんであったとしても、アリサさんは凛さんと親しいことが予想される。そうであれば姉さんとも親しいはずなのだ。そうであればアリサさんはリンさんのことを大切に思っているはず。そんな彼女がリンさんにとって明らかにマイナスになる行動を取るとは思えないので、それを確認する意味でも一緒に行くべきだろう。それに少女がリンさん以外であれば相手を喜ばせるための行動を断る理由はない。

 

「分かりました、ご一緒いたします」

 

「ありがとうございます、少年。きっとあの子も喜んでくれるでしょう」

 

 優しく微笑み嬉しそうな、それでいて僅かに期待しているような声でアリサさんはそう言った。

 

 

 

「少年、いいの?」

 

 アリサさんのあとに続き、白い人と並んで廊下を歩いていたところでそんな言葉をかけられた。

 

「少女を喜ばせようとしているアリサさんの言葉、偽りはないでしょうから」

 

「ふふ。少年、やはり君の考え方は好き」

 

「ありがとうございます」

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