010-曇りのち晴れのチュートリアル09
『マスター。起きてくださ……起きてますね』
布団の中でゴロゴロしていたところ、とつぜん女性の声が頭の中に響いた。これはおそらく、チュートリアル的なことを聞くことができると言っていた件に関係あるのだろう。
「起きているよ。あなたがチュートリアル的なことを教えてくれるのかな?」
『その通りです。今日からログアウトまでの4日間、あなたのサポートを行います。短い期間ですがよろしくお願いします』
「こちらこそ、よろしくね」
ログアウトまでの4日間ということは、それ以降はサポートしてくれないのだろう。それならば先を予想して聞きたいことは聞いておくべきなのかもしれないが、たとえば未知の敵や未知の場所などに関してなどは教えてくれないのだろうね。そうなると、現状でも発生しうる内容しか聞けないとは考えておいた方がいいか。もちろん一度は聞いてみるけどね。
「さっそく質問しても構わないかな?」
『はい』
2人が起きた様子はまだない。そうなると従魔魔法に関して聞くのは2人が起きて家の外で大きな音を出しても問題ない状況になってから、実戦も含めての方がいいだろう。それならば今はまず、ペナルティー関係から聞いておこう。
「発生しうるペナルティーの発生条件とペナルティー内容に関して教えてもらえるかな?」
『申し訳ありません。基本的に詳細を聞かれた場合だけお答えできるようになっていますので、ペナルティーですとそのペナルティーの種類を示していただかなければお答えすることができません』
これはパーティで話し合った方が多くの内容を知ることができるように、だろうか。もしかすると5日目まではパーティ内の親睦を深めるように仕向けられているのかもしれない。まあ、それはそれで嬉しいのだけどね。
「それでは空腹ペナルティーと死亡ペナルティーについて教えてほしいかな」
『了解しました。空腹ペナルティーについてですが、基本的に24時間ほど何も食べなければ全ステータスが一時的に減少します。さらに48時間ほど何も食べなければ継続的なダメージが発生します。次に死亡ペナルティーですが、死亡した場合は強制的に一定の蘇生場所に転移させられ、HPが全回復した状態で復活します。その際に全ステータスが一時的に減少します。減少値に関しては秘匿されています』
死んでしまっても復活はできることを聞いて少し安心した。これで今日の夜からは安心して眠ることができる。そして空腹に関してだが、24時間とはなかなか優しい設定に思える。しかし、食料を食べていても水分を取らなかった場合はどうなるのだろうか。
「食料を食べていても水分を取らなかった場合はどうなるのかな? もしかして脱水ペナルティーか、水分不足ペナルティーとかあったりするのかな?」
『水分不足ペナルティーが発生します。基本的に24時間水分を取りませんと状態異常が発生します。状態異常の内容については秘匿されています』
どうやらペナルティーの概要しか教えてくれないようだ。これだと他の内容も概要しか教えてもらえないことが予想される。
「一気にいろいろ聞いてしまってゴメンね。もう少しいいかな?」
『大丈夫です。元より最初にたくさん聞かれることは想定されていましたので』
「ありがとう」
そのあとも質問を行い、様々なことが判明した。
まず睡眠ペナルティー。これは眠気が襲ってくるだけらしいが、1人旅の場合は安全な場所を見つけないと眠れない可能性があるので、厳しいペナルティーとなるかもしれない。
次にマジックポーチに入る物と入らない物について。基本的にアイテムと判別されるものだけを入れることができるらしい。そして予想していた通り、アイテムであっても他の人に所有権がある物は入れられない。ついでに所有権に関しても聞いてみたが、そのあたりはすべて秘匿だそうだ。
次に果物や野菜などのアイテムについて聞いてみたが、アイテムの情報はすべて秘匿とされ教えてもらえなかった。これに関しては教えてもらえると自分たちで調べる楽しみがなくなってしまうので、教えてもらえない方が嬉しかったりする。しかし、チュートリアル限定であれば、それは機会を掴むことができたと考えられるので教えて貰えても嬉しいとは思う。
次に周辺に出現していた兎、狼についてだが、どうやら魔物らしい。魔物は基本的にプレイヤーを襲ってくる敵なので倒すべき相手だそうだ。基本的にということは襲ってこない友好的な魔物もいるのかもしれないが、それは実力差から襲ってこない可能性も考えられるので判断が難しいところだ。
次に魔法銃について。どうやらMPを消費して攻撃を行っているらしく、MPがなくなれば撃てなくなるとのことだ。そして弾が曲がってしまう原因に関してはステータスが足りないとしか教えてもらえなかったが、それを教えてもらえただけでもありがたい。
次にスキルについて。予想していた通りスキルを取得していると関連した行動にシステムアシストが入ることがあるらしいが、その詳細は秘匿。そしてスキルにはメインスキルとサブスキルの2種類があり、従魔魔法や刀などはメインスキルにあたるようだ。メインスキルは技能と呼ばれる技のような何かが使用できるがステータスに影響を及ぼさず、サブスキルはステータスや特殊能力に影響を与えるが技能はないらしい。
最後にステータスについて。どうやら<<メニュー>>と単独で発声すればメニューウィンドウが開き、その機能の一部でステータスが見えるようだ。さっそく試してみよう。
「<<メニュー>>」
そう唱えると目の前にスキル選択や武器選択の時と似た半透明のウィンドウが出現した。
選択できる項目はステータス、スキル、パーティ、フレンド、メッセージ、システム。とりあえず一番気になるステータスを選択する。
◇ステータス
名称:ユウ 種族:ヒューマン Lv1
筋力:15 生命力:15 器用さ:15 素早さ:15 魔力:15 精神力:15
状態:
??:
??:
何か足りない気がするが、それよりも??が2つあるのが気になる。
『ちょうどステータスを開かれたようなので、ステータスに関して重要なことをお伝えしたいと思いますが、構いませんか?』
「うん、お願いするよ」
『それでは説明を開始します。まずレベルアップに関してです。レベルアップは条件を満たした上で、安全地帯などの特別な場所からメニューのステータスを開かない限りは行われません。そして安全地帯に関しては、この拠点が安全地帯であるとしかお伝えできません』
どうやらこの拠点は安全地帯だったようだ。魔物が襲ってこない、と考えていてもいいのだろうか……。いや、少なくとも特別な場合を除き魔物が襲ってこない程度に考えておくべきか。
そしてレベルアップ。条件は魔物を倒して必要なだけの経験値を取得しておくこと、だけではない気がする。
『次にレベルアップ時に得られるステータスポイントに関してです。ステータスポイントは消費することで、条件を満たしているステータスの基礎値を上げることができますが、取得時にすべて消費する必要があります。ステータスポイントを消費せず安全地帯から自分の意志で出た場合はレベルアップの意思がないとみなされ、レベルアップ自体が無効となります。そしてログアウトと重なってしまった場合ですが、次回ログイン時すぐに消費する機会がもうけられますので安心してください。以上でステータスに関する重要事項は終了となります』
上げられるステータスにも条件があるのならば、レベルアップの条件にステータス1つ以上を上げられることも含まれている可能性が高い。そうでなければステータスポイントを消費できず、必ずレベルアップが無効となってしまう。しかし、ステータスポイントを消費できない場合のためにレベルアップ無効が存在している可能性もあるのか。これは実際にレベルアップを経験しつつ情報を集めて判断していくことにしよう。
さて、重要な説明は終わったようなので気になる点を聞いておこう。
「ステータスにハテナの項目が2つあるんだけど、これについては教えてもらえるのかな?」
『申し訳ありません、特定条件を満たせば表示されるとしかお伝えできません』
「気にしないで、それだけでも十分にありがたいよ」
あの箇所に入るべき何かを取得したら、と予想してみるが何にしてもゲームを進めていけば判明するだろう。
さて、ステータスはこれくらいにしておいて他を確認していこう。まずはスキルから。
メインスキル:従魔魔法LvXX
サブスキル :
残SP :0
従魔魔法しかないのは分かる。確認はするが、残SPはステータスの残りポイントに似ているのも分かる。しかし、従魔魔法のレベルがXXなのが分からない。
「残SPと従魔魔法のレベルについて教えてもらえるかな?」
『了解しました。残SPは残りスキルポイントの略称となります。そしてスキルポイントに関してですがレベル上昇などで取得することができ、消費することでスキルを取得することができます。次に従魔魔法のレベルについてですが……XXですね』
「XXだね」
どうやらスキルポイントは取得してすぐに消費する必要はないようだ。スキルポイントの取得頻度しだいだが、残りには余裕をもっておきたいかな。
『申し訳ありません。スキルレベルXXに関しては秘匿情報とされています。普通はスキルレベル1から開始なのですが、なぜでしょうね』
なぜと聞かれても、僕は分からないから聞いたので答えられるはずがない。普通はスキルレベル1から開始というのはスキル全体の話しであり、それには従魔魔法も含まれているのだろう。そうなるとレベルXXは特殊な状況になるわけだけど、適性があるからと考えてもいいのだろうか。まあ、これはリンカさんやアオさんに聞いてみることにしよう。2人がレベルXXであれば適性があるスキルはレベルXXになると考えておくことにしよう。
次にパーティ、フレンド、メッセージ、システムについて説明をしてもらった。
まずパーティ。名称通り他のプレイヤーと最大6人のパーティを組む機能であり、このあと説明を受ける予定の従魔魔法で従魔を召喚した場合、従魔はパーティメンバーの1人としてカウントされるようだ。さらに複数のパーティでパーティを組むレギオンも存在しているらしいが、そちらの最大パーティ数は秘匿とされた。現在のパーティを確認してみたところ、自動でリンカさんとアオさんの2人とパーティを組んでいたが、試練終了までは変更できないらしい。そしてパーティを組む利点だが、特定のスキルや技能などでパーティを対象としたものがあったりするようだ。気になる経験値の分配に関しても聞いてみたが、こちらは秘匿らしい。
次にフレンド。特定のプレイヤーをフレンドとして登録することで、そのプレイヤーが遠距離にいても会話できたり、メールのようなメッセージを送ったりすることができるようだが、試練が終了するまでは使用不能らしい。
次にメッセージ。フレンドや他のプレイヤーにメッセージを送ったり、受け取ったメッセージの確認や保管ができる機能だが、特定の場所以外ではメッセージの送受信を行えない。そして、こちらも試練が終了するまでは使用不能らしい。
最後にシステム。この項目には現在、視覚拡張と運営メッセージ受信、そしてログアウトの3つしか存在していない。何かが追加される可能性もあるらしいが、それ以上は秘匿とされた。
「ありがとう。おおよそ知りたいことは聞くことができたよ。そうだ、君の名前を聞いてもいいかな? 4日間とは言えサポートしてもらうのだから知っておきたいな」
短い期間とはいえ、サポートしてもらうのだから名前は聞いておきたかった。きっと設定されていないのだろうが、それでも聞いておきたい。
『名前、ですか……。申し訳ありません、設定されておりません』
……なぜ、僕は答えを聞く前に設定されていないと確信していたのだろうか。確かに個別サポート用AIであれば名前が設定されていなくてもおかしくはないが、それだけの理由で確信することはない。
やはり、このところおかしい。違和感だらけだ。何かが、大切な情報が欠けているような気がする。
「そうすると、とりあえずはサポちゃんと呼ばせてもらいたいのだけど、問題ないかな?」
『問題ありません』
「ありがとう」
サポちゃんはとりあえずの呼び名。名前を設定できるのか、そう聞いてみればいいものをなぜか聞く気になれなかった。まるでそれは今じゃないと、そう感じてしまった。確かに4日間だけなので名前を設定させてもらえる可能性は低いが、それでも可能性はあるのだから聞いてみればいいというのに。
「ユウさん、起きているかい?」
もう少し考えようとしたところで、ノック音のあとにリンカさんの声がドアの向こうから聞こえてきた。
「起きてるよ」
「チュートリアルについて広間で話し合いたいと思うんだが、どうだろうか?」
「うん、僕もその方がいいと思うよ。今行くね」
20150420:
誤字を修正しました。