ソーシャルゲーム外来
2015年3月。東京の病院にある特殊な外来が出来た。
「ソーシャルゲーム外来」
依存症外来の一種として出来たこの外来には
今日も多くの患者が訪れる。
その現場を取材した。
待合室でまず目に付くのは患者の若さだ。
一番多いのは親と一緒に来た10代の少年少女たち。
次いで20代と30代が並ぶ。
彼らも親や恋人と同伴の者がほとんどで1人で来た人は
今回の取材の中では見なかった。
ここに来る患者たちは文字通り寝ているときと食事以外の時間全てを
ゲームに注ぎ込むほど病的なまでにのめりこんでいるが
本人にソーシャルゲーム依存症という自覚症状は無く、
無理矢理連れてこられたというケースがほとんどだ。
治療としてはまず自分はソーシャルゲーム依存症であることを
自覚させることから始まる。
「自分は異常なまでにゲームにのめりこんでいる」事を理解させ
「課金したお金で何が買えたのか」をしっかりと分かってもらう。
それが済んだら家庭内で依存から脱却することを目指す。
パソコンやスマホは渡すがゲームのアカウントやアプリはすべて削除、
さらに触れるのは帰宅してから午後9時までと定めたり
タイマーアプリを使って触れる時間を制限し、
守れない場合は翌日は使用禁止などの罰則を科すと
誓約書に書かせるという目に見える形で約束させる。
そして少しずつ触れる時間を短くしていき、依存から抜け出すという流れだ。
もっともここに来るのはみんな重症化した人たちばかりだから
そう簡単にはいかない。
ソーシャルゲーム以外には一切興味を示さないし
金銭感覚も麻痺しているから自覚させるのは困難を極める。
取材の中である患者は「たった3万円ぐらいで騒ぐな」等と
万単位のお金を大した金額ではないかのように言い切っていた。
明らかに金銭感覚が欠如しており根の深さがうかがえる。
どう頑張っても守れなかったり、そもそも守る気が無い、
あるいはゲーム関係で家庭内で暴力事件を起こしたといった問題を抱えた患者の場合は
最後の手段としてアルコール依存症の治療に使われる「隔離」が行われる。
文字通り隔離病棟に入院してもらい、禁断症状が収まるまで過ごすというものだ。
ただしアルコール依存症の患者と違い年齢が若く、
親と同居してる場合は栄養バランスのとれた食事も
きちんととっているため体力の衰えも無く、抵抗は極めて激しい。
ゲームが出来ないことへのストレスで暴れまわって
周りの物を手当たり次第に壊したため
やむなく拘束室を使った事も1例だけだがあったという。
専門医が言うにはソーシャルゲームの構造そのものに
依存症を引き起こす温床があるという。
ソーシャルゲームのほとんどは1%にも満たないごく少数のプレーヤーに
多額の課金をしてもらうことで成り立っている。
メーカー側としてはそんな「中毒者」を1人でも多く産み出して
課金してもらった方が、つまりゲーム依存症患者を増やした方が
利益につながるから止められないのだろう。
アルコール依存症の人間に酒を売るのは
とても簡単に利益が出せるのと同じように。
特に10代の子供は
クラスメートと一緒にゲームを遊んでなければ、
そしてアバターにお金をかけていなければそれをネタに仲間外れにされ
いじめにつながる事もあるため遊ぶ機会が多く、そして依存しやすいため根は深い。
かつて
「スタミナが回復したのにゲームができないとイライラして周りのものを破壊したくなる」
という子供がいたらしいがここまで来るともはや麻薬中毒患者と同じである。
また、ゲームメーカー側は協会を作って自主規制をしており、
年齢による課金額の制限やクレジットカードによる支払い額の制限をしているが
実態は抜け穴のある「ザル法」だと言う。
クレジットカードが無くても
コンビニやゲームショップに行けばプリペイドのポイントカードが
買えるのでそれを買えばいい。これらを買うのに年齢制限や購入金額制限はない。
また年齢登録もあくまで自己申告で、学生証や免許証などの
身分証の開示は求めていない。だから嘘をつけばそれまでだ。
学業そっちのけで課金のためのバイトに打ち込み成績が下がるのはまだいい方で
クラスメートをいじめて金品を脅し取る、女子なら下着の販売や援助交際に走る、
他人のアカウントを乗っ取ってアイテムを奪う、
さらには報酬につられて脱法ドラッグ(危険ドラッグ)の売り子や
振り込め詐欺(母さん助けて詐欺)の出し子をやるといった
犯罪行為に加担する子も少なくない。
また社会人として自立していたがゲームにのめりこんだせいで
文字通り貯金と収入のほぼ全てをゲームに注ぎ込み
まともな食事をとらずに栄養失調で倒れたという話も今では珍しくない。
専門医は言う。
「もはやゲーム会社側による対応は限界で、
かつてのコンプリートガチャのような国による強制的な介入が無い限り
抜本的な改善は無いだろう」
数は少ないながらもそれなりに知名度のあるソーシャルゲームをやった身として
その実体験から感じたことを小説にしてみました。
偏見とネットで聞きかじった情報も入っているのでいびつなイメージに
なっている可能性が大ですが・・・。
タイトルにもなっている「ソーシャルゲーム外来」は今のところ存在しませんが
「ネット依存症外来」というのは実在していることから
これから数年でソーシャルゲームの負の面が表面化するだろうと思います。
もしかしたらフィクションが現実のものになってしまうかもしれません。
それが怖いですね。