その手を差し伸べて──
少女視点です。
私はいろんなものを壊した。自身の野望のため。
けれど、満たされない。何故でしょう?
ああ、そういうことですね。まだまだ足りない。
ここにはもうない。なら、別世界へ。
どこの世界も、皆弱い。すぐに壊れてしまうのね。
つまらない。最後の一人を壊した。そう思ったら…
あらあらあら。比べ物にならないくらいに強い気が。
「殺気」「怒り」「悲しみ」…わぁ凄い。全部の感情が綺麗に混沌としているわ。
貴方は、私を楽しませてくれる?
さっきまであんなに熱く燃えるようなものだったのに、呆気ない。
…あら? どこかの地図? ああなるほど。彼はこの世界の「英雄」だったわね。
きっとこれから他の「英雄」に会いに行くところだったのね。
残念。だって、もう貴方はいないの。
けど安心して、すぐに仲間もそっちに送るから。
…やっぱりつまらない。ねぇどうして?
お気に入りの黒と紫のドレスも、赤く染まっちゃいました。
でも綺麗。赤は嫌いじゃないから。
赤は「情熱」をあらわすの。そうでしょ?
…あらあら。どうやらまだ一人、残っていたみたい。
いいわ。最後の一人くらい、じっくりと遊んであげます。
困っている人をほっとけない。それが「英雄」達の特性。
なら、それを利用するだけ。
仲間になったふりをすれば、きっと彼は釣られるでしょう。
ほら。こんなものに簡単に騙される。
私に壊されると知らずに「大丈夫か」って手を差し伸べる。その笑顔で。
でも何故? どこかで満たされるのは。
ううん。気のせい。そんなはずないわ。
そんなことは…
貴方は何故そう笑っていられるの…
他の「英雄」のようにすぐに破壊することができないの…
当たり前にやってきたことがどうして彼に抵抗を感じるの…
どうして…?
…あーらら。遂に襤褸が出て正体がばれちゃいました。
駄目ね。
いずれはこうなることを理解していたのに…
この胸の締め付けは何? 何故そんな顔ができるの? 私には全く理解できないの…
勇ましく一人で乗り込んできた貴方。やはりね。
貴方の性格からして、仲間に黙って来たのでしょう?
戦う前に私は貴方に約束をした。「勝てたら、今まで壊したものを元に戻す」という。
「──さぁ、私と貴方。二人だけのダンスを…
最後の戦いを、共に刻みましょう──」
そう言って、互いに手加減無しの真剣勝負。運命を…互いの全てをかけて。
結果…私は貴方に敗れた。
約束通り、全て元通りにした。
けれど…何故でしょう。気持ちがこれほどに満たされるのは。
やっと分かったのですね…
満たされなかったのは…足りなかったのは…
──仲間。
それを教えてくれたのは貴方。
やっと気がついて、涙が溢れてくる。
そんな私に、笑顔で貴方はこう答えた。
「一人は、誰だってつまらないものさ」
初めてであった、あの時のように、その手を差し伸べて──