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超妹理論  作者: 揚羽常時
外伝
96/298

『夜にて統べる星』4


 学校が終わった。


 俺は迎えのロールスロイスに一人乗って酒奉寺屋敷へと帰る。


 ちなみに姉貴はいない。


 姉貴はハーレムと呼ばれる美少女軍団を想い人に持ち、日替わりで別々の美少女を愛でる習慣を持っている。


 羨ましいと言えば羨ましいが、閉口すると言えば閉口する。


 勉学も運動も美貌も最高値を記録する酒奉寺昴だ。


「お姉様」


 と憧れる生徒がいても不思議ではない。


 俺には理解しがたい価値観だが。


(統夜は統夜で魅力的だよ?)


 六連はそう言う。


 ありがとよ。


 俺はそう返す。


 そして酒奉寺屋敷に帰還する俺。


 侍女が出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ統夜様……お茶は如何様に?」


 侍女らしい第一声だった。


「コーヒーを」


 言葉を紡ぐ。


「俺の部屋に持ってきて」


「ではそのように」


 そう言って侍女は消えた。


 俺は制服のネクタイを緩めて自身の部屋に入る。


 それから持っていた学生鞄をベッドに放って椅子にぐったりと座る。


(お疲れ統夜!)


 気楽でいいな……お前はよ。


 なじってみる。


(あはは)


 と六連は俺の皮肉も通じずに笑うのだった。


 まぁいいんだがな。




    *




 姉貴のいない夕餉を終えて、俺は風呂に入っていた。


 温泉宿かと言わんばかりの広さを持つ浴場だ。


 ちなみに侍女が俺の背中を流したりはしない。


 俺が断固拒否しているからだ。


(統夜! 統夜!)


 六連は興奮している。


 元々六連は悪魔だ。


 それも本来は「夜にて統べる星」という名を持つ悪魔である。


 当然、日が暮れてからが本領発揮である。


 俺以外には見えないとはいえ、俺には見えるのである。


 それがどういう意味を持つのか。


 当然の理である。


(統夜大好き!)


 裸になった六連が抱きついてくる。


 それが俺には心地よい。


 そんなに契約者に感情移入していいのか?


 そんな俺の皮肉に、


(統夜ならいいよ?)


 しおらしく六連は言う。


 その金色の瞳には慕情が透けて見えた。


 そうあって俺と六連は重なり合うのだった。


(はあ……幸せ……)


 六連は呟き俺にしな垂れかかってくる。


 そりゃ重畳。


 俺は皮肉る。


(ん、もう! 前から思ってたけど統夜は淡白すぎ!)


 性分でな。


 あっさりと俺。


(契約した時にはもうちょっと純粋だったと思うけど……)


 過去の話を持ちだされても……。


 それが素直な感想だった。




    *




 子供の頃、俺こと酒奉寺統夜は神童と呼ばれていた。


 一を教えられれば十を悟る……そんな子どもだった。


 絵本を母に読んでもらえれば、それの本質を理解し、意味の解らないことは母の教えにて解読した。


 そんなことが何度も続けば両親も俺の感性に気付かざるをえなかった。


 一を聞いて十を知る。


 そんなことを呼吸するように実践する俺だ。


 絵本の言葉がわからなければ辞書を引いて理解し、辞書の言葉がわからなければ別の辞書を引いて理解する。


 故に俺の子どもの頃は辞書と共にあった。


 わからない日本語は辞書で調べる。


 辞書でわからないことは別の辞書で調べる。


 外来語でわからないことは英和辞書で調べる。


 英語がわからなければ英語辞書で調べる。


 そんなことを繰り返している内に幼稚園児ながら小学生の学問を修得していた。


 そして小学二年生で高校教育に手を伸ばすような神童っぷりを発揮した。


「天才だ」


 誰もがそう言った。


 俺としては、


「何が?」


 という感想だったが。


 ともあれ自分が一般人とずれた能力を持っていることは理解した。


 そしてそれは……自虐的ながら鬱陶しいことであった。


 理解するを理解して、納得することを納得する。


 それが当然じゃないと理解したのは小学二年生の時だ。


 そして自問自答に陥った俺は酒奉寺屋敷の古書庫に足を運んだ。


 それが運命だった。


 自分は他人より優秀……そんなことを思い知らされた俺は自分だけの場所が欲しかった。


 故に古書庫に入り込んだのだ。


 そして一冊の本を開いた。


 それが全ての始まりだった。


 その本は魔書と呼ばれる悪魔を封印した本だった。


 そして後に「六連」と呼ばれる夜にて統べる星と邂逅する俺。


「私は夜にて統べる星。あなたの魂と引き換えに一つだけあなたの願いを叶えましょう」


 夜にて統べる星はそう言った。


 願いを一つ叶える。


 それは俺にとってとても甘美なモノだった。


 故に俺は言った、


「俺の有利になる才能を昴お姉ちゃんに全て委託して」


 と。


 そして俺は凡人へと……姉貴は神童へと成り替わるのだった。


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