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超妹理論  作者: 揚羽常時
外伝
92/298

『白と黒の誕生日』4


 朝食を食べ終えた後、華黒の淹れてくれるコーヒーを飲みながら僕はシェイクスピアを読みながら過ごした。


 華黒はというとキッチンの整理中だ。


 荷物そのものは昨日の内に華黒によって配置が完了していたけど、キッチンの荷物の整理までは手がまわらなかったらしい。


 その辺の雑事は華黒に任せて僕はロミジュリを読む。


 中略。


 そして昼食はざるラーメンだった。


 魚介味の出汁に麺をつけて僕と華黒はラーメンを胃に落とし込んだ。


 昼食が終わると僕と華黒は僕の部屋で勉強会を始めた。


「ええと……摩擦係数がこうだから……熱量は……」


 物理はさっぱりわからない。


 そもそも加速度って何さ?


 『はじき』じゃ駄目なの?


 そんなことをぶつくさ言いながら瀬野二の授業の予習をする僕と華黒だった。


 華黒は完璧超人だからすらすらと問題を解いて僕に丁寧に教えてくれる。


 それでも微妙にわかりきっていない僕。


 そんなこんなを……とは言っても勉強だけど……しながら時間を食いつぶしていると時計は午後三時を指した。


 すると


「それではケーキ屋さんに行きましょう?」


 と華黒は言った。


「それはいいけど」


「はやっているケーキ屋さんですから味は保証しますよ」


「それはいいけど」


「何か不満が?」


「いや、不満じゃないけど昨日の……華黒の誕生日にくればよかったんじゃない?」


「だって私の誕生日はエイプリルフールですもの」


 拗ねたようにそう言う華黒だった。


「……あは」


 僕は笑ってしまう。


「何も笑わなくても……」


「ごめんごめん……。全ての言葉が嘘になってしまうと……そんなことを思っていたの華黒は……」


「だって……」


 と不満を言いかけた華黒を、


「華黒……」


 と遮って、


「華黒のことが大好きだよ僕は……」


 僕はそう言うのだった。


「はぅあっ!」


 ズキューンと胸を射抜かれる華黒。


「やっぱり私と兄さんは相思相愛でした。この想いを誰かに伝えねば。そうです。パパとママに報告を……!」


「待った待った。あくまで妹としては……だから」


「聞いてくださいパパ。兄さんが私を好きだと……」


「やめんかい」


 僕は華黒の頭上にチョップをかました。


 そして華黒の手から携帯電話を奪い取り電源を切る。


「何するんですの……私と兄さんのロマンス記念日に……」


 なにさ……ロマンス記念日って?


 とまれ、


「あくまで妹として好きだって言ったの。早とちりしない」


「相思相愛ですね」


 うーん。


 通じないなぁ。


「とまれ……」


 と華黒が言う。


「勉強はひとまず終えて、ケーキ屋さんに行きましょう。ちょうど三時ですし、おやつの時間にはちょうどいいです」


「ソウデスネー」


 機械的に答える僕だった。


 そして僕と華黒は春用の私服に着替えてアパートから飛び出した。


 ケーキ屋さん……あるるかんと言うらしい……に行く途中、枯れた桜の木を見た。


「そういえば卒業式に桜が咲いていたね。今はもう散ってしまったけど」


「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ……ですか」


「うん。まぁ。長く咲いてほしいと言うのは僕のわがままなんだけど……」


「来年も咲きますよ」


「そうだね……そうだよね……」


「はい。何度でも……何度でも桜は咲きますよ。春になれば……きっと……」


 そんなことを言いながら僕と華黒はケーキ屋さん……あるるかんに着いた。


 テラス席があるようで、中々に凝った店らしい。


 並べられたケースの中のケーキを見ながら華黒が言う。


「それでは兄さんは私の誕生日ケーキを選んでくださいな。私は兄さんのケーキを選びますから」


「ああ、それはいい趣向だね」


 そして色々とケーキを検分して僕はザッハトルテを、華黒はショートケーキを選んだ。


 それから二人とも紅茶を頼んでテラス席に座った。


 テラス席にて。


 僕と華黒はショートケーキとザッハトルテを食べながら会話する。


「華黒は何で僕にショートケーキを選んだの?」


「白いからですね」


「ふふ……」


「何か私は笑われるようなことを言ったでしょうか?」


「ううん。僕も同じだから」


「私が黒だからザッハトルテを選んだと?」


「うん。華黒のイメージカラーは黒だと思ってね」


「単純ですね私達は」


「まったくまったく」


 頷く僕らだった。


 と、僕の携帯電話が震える。


 ポケットから取り出して発信者を見ると、それはルシールだった。


「もしもし」


 と僕は電話に出る。


「………………もしもし、真白お兄ちゃん」


 出たのは当然ながらルシールだった。


「どうしたのさルシール?」


「………………うんとね。あのね……」


「うん」


「………………誕生日おめでとうごじゃいます」


「噛んだよね、今……」


「………………ふえ」


 真っ赤になったルシールが容易に想像できる声だった。


「うん。ありがと。嬉しいよルシール」


「………………うん。真白お兄ちゃんに……そう言ってもらえて……私も……嬉しい」


 それから二、三だけ会話を交わして通話を終える僕とルシール。


「ルシールからでしたか?」


「うん。誕生日おめでとうって」


「私にも昨日かかってきましたからね」


「そうなんだ」


「いじらしいですよね。それがルシールの可愛さでもあるんですけど」


「まったくまったく」


 頷く僕だった。


 華黒はそこで会話を打ち切って、ザッハトルテをフォークで崩すと、


「兄さん、あーん」


 と僕の口元まで持ってきた。


「なんのマネさ?」


「せっかく違うケーキを頼んだんですからお互いに食べさせあいをするのは当然な流れかと思いまして」


「まぁいいけどさ……」


 あぐりとザッハトルテを食べる僕。


 咀嚼。


 嚥下。


「華黒もあーん」


 と僕はショートケーキをフォークで刺して華黒の口元まで運ぶ。


「あーん」


 と口を開けて華黒は僕のショートケーキを受け入れる。


 咀嚼。


 嚥下。


「なんだか照れますね……」


 顔を火照らせながら華黒がそう言う。


 僕はニッコリ笑って、


「華黒……誕生日おめでとう」


 そう言った。


「兄さんも……誕生日おめでとうございます」


 華黒もそう言った。


 そして僕と華黒は、


「「えへへぇ」」


 と笑い合うのだった。


 春休み故に誰にも祝われない僕と華黒の誕生日はこうして二人だけで完結するのが常だったのであった。


書き溜めていた分を全て投稿し終えたので一旦完結とさせていただきます。

他に書きたいエピソードはあるのですけどまだプロットにも成っていない段階なので、いつ更新されるかは当方にもわかりません。

これで超妹理論が終わるわけではありませんが、続編については長い目で見てください。

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