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超妹理論  作者: 揚羽常時
外伝
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『あけましておめでとうございます』2


「それじゃ母さんたちは双方の実家に帰るけど、その間家の留守番よろしくね。真白ちゃん。華黒ちゃん」


 父の運転する車に乗り込みながら、見送る僕らにそう言う母。


「はい。こちらのことは心配しないで行ってきてくださいママ……それからパパ……」


 ニッコリと笑ってヒラヒラと手を振る華黒。


「じゃあ行ってくるわね」


 そう言って乗り込んだ後バタンと車のドアを閉める母。


 そしてエンジン音をふかせて両親を乗せた車は発進した。


 その内、車が見えなくなってから僕らは手を振るのを止めた。


「しかし……これじゃ僕ら手持無沙汰だね……」


「しょうがないですよ。パパやママの実家の人達は私達の事なんて疎ましがっているんですから」


「ま、そうだけどさ」


 百墨家の母は子供を産めない体になり僕と華黒を引き取った。


 そして父と母の実家の親戚はそのことに難色を示している。


 ぶっちゃけて言えば僕らに好感を持っているのはルシールくらいだ。


 まぁそんなこと言っても詮無いことだけれど。


「さて、じゃあこれからどうする?」


「無論一つしかないでしょう」


「…………」


「なにゆえ無言になるです?」


「嫌な予感がして」


「いいええ。とってもいいことですよ?」


「言ってみて……」


「姫始めに決まってるじゃないですか」


「さて、じゃあ僕は古本屋にでも行ってこようかな。年始のサービスがあるかもしれないし……」


「兄さん、姫始め……」


「するわけないでしょそんなこと」


「でも兄さん、私の世界を広げてくれるって……あれは嘘だったんですの?」


「自分で責任のとれる段階に達したらね。少なくとも僕らはまだ高校生だ。そういうのは無しの方向で」


「むぅ……」


 むぅ……じゃないよ、本当に……。


「じゃあ穏便に百人一首でもしますか?」


「そういえば華黒はそんなことできたね。いいよ。受けてたとう」


「ハンデは?」


「十秒で」


「妥当ですね。ではそれで」


 そう言って僕らは父と母のいない実家の屋内へと戻った。


 それから華黒の部屋のおもちゃ箱から百人一首を取り出してリビングの床にばらけさせる。


 そして僕らは百人一首を始めた。


 華黒が和歌を詠む役だ。


「天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ……」


 僕はばらけてあるカードを眺めながらその和歌の書かれた札を探す。


 十秒経ったところで華黒が札をとった。


「ああ……!」


 そんな情けない声をあげてしまう僕。


 華黒は既にどの札がどの位置にあるか把握しているようだった。


「花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり」


 次の歌を読む華黒。


 そしてやっぱり華黒が十秒後にその札を取る。


 最終的にはイーブンだったけど、それは華黒が十秒のハンデをくれてなおかつ札の数が少なくなるにつれて僕の活躍が増えたからだった。


 とっぴんぱらりのぷぅ。




    *




 百人一首も終わりすっかり夕暮れになった頃。


 僕は昴先輩宛に年賀状の返信を書いていた。


 というか年賀状作成ソフトを使って作っていた。


「ええと迎春……と。あけましておめでとうございます。それから今年の干支は……と」


 今年の干支のイラストをつける僕。


 そして印刷。


 出来上がった年賀状を手にして、届け先を確認して、それから僕は外出の用意をした。


「どこか行くんですか? 兄さん……」


「うん。ちょっと。年賀状をポストにね……」


「でしたら私もいきます。ちょうど年賀状の返信をしようと思っていたところですので」


 そう言う華黒は三通の年賀状を持っていた。


「あれ? 華黒……五十通くらいもらってなかった?」


「百墨華黒隠密親衛隊には返信しませんし、クラスメイトの友達には既に年賀状を出しています。この三通は予期せぬ女子からの……とは言っても知り合いですけど……年賀状への返信です」


「なるほどね」


 華黒は男子にも女子にも顔が通じているのを改めて認識する僕だった。


 そして僕らは外に出た。


「どうせだからポストまで仲睦まじく行きませんか?」


「いいけど、どうするの?」


「とりあえずマフラーを共有しましょう」


「ま、いいけどさ」


 そう言って納得する僕。


 華黒は自身に巻いているマフラーを僕の首にも巻いて、


「えへへぇ」


 と幸せ絶頂のニタニタ笑いをする。


「華黒。顔が崩れてるよ」


「いいじゃないですか。至福なんですから」


 そう言い合いながら近くのポストまで歩く僕と華黒。


 そして僕らは実家の近所を歩いていると、主に男から注目を受けた。


 すれ違う男子二人がヒソヒソ話をしていた。


「見ろあれ。美少女二人。声かけっか……」


「マフラーの恋人巻きしてるぞ。そっち系じゃないのか?」


 すごく不本意なヒソヒソ話であった。


 どうやら百合と間違われたらしい。


 僕は男だと叫びたかったけどグッと堪えた。


 それから僕らは恋人つなぎで手をつないだままポストまで歩み、年賀状を投函した。


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