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超妹理論  作者: 揚羽常時
本編
53/298

『前提が崩れる』1


 リムジンが走り、ついた先は大きな……巨大な武家屋敷だった。


 いや、武家屋敷ではないだろうけど、武家屋敷としか言いようのない場所だった。


 あるいはアレだ。


 頭にやの付く自由業のおうち。


「どこここ?」


「私のおうち。白坂家の本家」


「大きいね」


「まぁ……否定はしないよ。別に私が建てたわけじゃないから自慢する気にもならないけど」


 リムジンは広い庭を通り、だだっ広い玄関口に横付けする形で止まった。


「もしかしてつきあってもらいたい場所って白花ちゃんのおうちのこと?」


「……そ」


 淡泊に返す白花ちゃん。


「おりよう、シロちゃん」


「あ、うん」


 白花ちゃんに連れられて僕はリムジンを降りる。


 靴を脱いで武家屋敷の中に入ると、


「「「「「おかえりなさいませ、白花様」」」」」


 多くの使用人さんが出迎えてくれた。


「ふわぁ」


「シロちゃん、口があいてるよ」


「メイドがいるよ。メイドが」


「別荘でも見たでしょ?」


「そうだけど……呆れているってのとは違うけど開いた口がふさがらないって心境です」


「そう」


 やっぱり淡泊な白花ちゃんは、


「ついてきて。客間はこっちだから」


 そう言ってスタスタと歩き出す。


 そそくさとついていく僕。


 多くの人に頭を下げられる環境に慣れていないため半ば逃げるような形だ。


 ついた客間は、四十畳くらいはありそうな広い部屋だった。


 どでかい木彫りのトラが置いてあったり、ふかふかのソファがあったり、高尚そうな掛軸があったりと、なんというか豪奢すぎて緊張してしまう。


「座って」


 そう言ってソファを指差す白花ちゃん。


 言われるままに僕は座る。


「シロちゃん、何か飲みたい?」


「あ、いえ、お構いなく……」


「じゃあ玉露でいいね」


 そう言って使用人の一人をつかまえて、茶を持ってくるように言う白花ちゃん。


 言い終えた後、白花ちゃんはテーブルを挟んで僕とは対面のソファに座る。


「緊張しなくていいよ」


「と、言われても……」


 こんなセレブリティな空間に放り込まれて普段通りにとは中々いかない。


「まぁ無理な話だよね。ごめんね」


「いや、謝られても……」


「うん、そうだね」


 そう言って白花ちゃんはこの会話を打ち切る。


 不毛だと悟ったようだ。


 こういうところは素直に賢いと思える。


「何か食べたい茶菓子ある? 色々そろってるよ?」


「いや、お構いなく」


「じゃあぬれおかきで」


「何故ぬれおかき?」


「私が好きだから」


 そう言って、使用人を呼びつけると、白花ちゃんはぬれおかきを持ってくるように指示した。


 数分後、お茶と茶菓子ぬれおかきが運ばれてくる。


 出されて手を付けないのも失礼な気がして、ありがたく茶を飲む僕。


「お茶、おいしいね」


「いいところの葉っぱを使っているそうよ。私も詳しくはないけど……」


「そうなんだ。ちょっと意外」


「意外? いい茶葉を使っていることが? それとも私が詳しくないことが?」


「白花ちゃんが詳しくないことが」


「もしかして茶道華道ができますよ的な発想?」


「まぁそうだね」


「できないわけじゃないけどあんまり好きじゃないから」


「そうなんだ」


「周りの子供は誰も茶道や華道なんてしてないもの……どころか誰もそんなものを必要としていない……。なんだか身につければ身につけるだけ私という存在が周りから浮くような気がして……」


「お金持ちも大変なんだね」


「それとは直接的には関係ないけど……」


「寂しい?」


「うん……まぁ、少しだけ」


 さもあろう。


 こんな家では友達も呼べないだろうし、中々苦労しているのだろう。


「この話、内緒ね」


 白花ちゃんが口元に人差し指をおいてそう言う。


「あ、うん」


 てきとうに生返事をして、茶を一口。


 誰に話すわけでもないから内緒もないだろうけど。


 次の話題を探そうと頭をひねっていると、


「白花!」


 誰かが白花ちゃんの名前を呼んだ。


 女性の声だ。


 僕と白花ちゃんがそろって声の主のいる方向、廊下に続く扉へと振り向くと、そこには一人の女性がいた。長い黒髪を髪留めでまとめて、和服を着た……おそらく三十代だろう妙齢から少し上の雰囲気をもった女性だ。


 誰だ、と思ったがさすがに口にできず、その女性を見ていると、目が合った。




 瞬間、




「……お……ねえ……さま……?」


 そんなことを呟いた女性が、こちらにふらふらと歩み寄ってきた。


 柳のように頼りなさげにふらふらと歩み寄ってくる女性は、その双眸から涙を落とした。


「っ!?」


 いきなり泣かれてしまって驚く僕をよそに、


「……お姉様……!」


 目の前まで歩み寄ってきた女性は僕を抱きしめた。


「ええ……ちょ……!」


「お姉様!」


 ぎゅっと抱きしめられる。


 いやいや。


 お姉様って誰が?


 何故抱きしめる?


 よく状況がわからなかったけど、無理矢理に振りほどくこともできずに、僕は女性に抱かれ続けた。


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