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超妹理論  作者: 揚羽常時
本編
51/303

『楠木南木改め白坂白花』 1


 ある秋の日の日曜日。


「ふわ……うみゅう……」


 僕は寝ぼけたまま起床した。


 ベッドから降りて立ち上がる。


 めやにのついた眼をこすりながら自室を出てダイニングに至る。


 ダイニングには妹の華黒がいて、朝食の準備をしていた。


「兄さん、おはようございます」


「ん……はよう……」


「もしかして寝ぼけてらっしゃいます?」


「ん……かも……」


 頭がぼーっとする。


「顔を洗ってきたらどうです?」


「ん……そうする……」


 そう言って玄関口の隣にある風呂場の洗面台まで歩く。


 と、




 ピンポーン




 と呼び鈴が鳴った。


 お客様だ。


 ダイニングから華黒の声が聞こえてくる。


「すみません兄さん。手が離せないので兄さんが出てください」


「ん……あいあい……」


 ぼーっとした頭で玄関を開けようとして失敗する。


 チェーンキーがかかっていたせいだ。


 チェーンキーをはずして、改めて玄関を開けると、


「お久、シロちゃん♪」


 そこには短く揃えられた髪に愛嬌のある瞳、白いフリルのワンピースを着た少女が立っていた。


 ていうか楠木南木ちゃんだった。


「ん……お久……」


「眠そうだね?」


「ん……起きたばっかり……」


「そう。ちょうどいいわ。獅子堂」


 ナギちゃんがパチンと指を鳴らす。


 するとオールバックの髪型に黒いスーツを着たヒョロリと背の高い男性が姿を現した。


 ナギちゃんの家の使用人、獅子堂さんだ。


「ん……獅子堂さん……お久しぶりです」


「お久しぶりです真白様。失礼します」


「ん……?」


 謝れた意味が分からずにいた僕を、獅子堂さんは軽々と担ぎ上げた。


 ナギちゃんが言う。


「連行」


「はい、お嬢様」


 僕は朝から誘拐されてしまった。




    *




『大丈夫ですか兄さん!?』


「まぁ煮たり焼かれたりする心配はないと思うけど」


『楠木さんがそんな凶行にでるとは!』


「凶行って程じゃないと思うけど」


『今日の私とのデートはどうされるんですか!?』


「後日に期待ということで」


『そんな……!』


「いや、だってもう戻れない距離だから」


『……楠木さんに代わってください』


「ダメ。喧嘩いくない。とりあえず今日はナギちゃんの言うことを聞かないといけないみたいだし諦めて」


『しかし……!』


「ばいばーい」


 プツッ。


「クロちゃん何だって?」


「案の定怒ってたよ」


 ナギちゃんに携帯電話を返しながら、リムジンの中でそんな会話。


 あの後、つまり獅子堂さんに担ぎ上げられた後、パジャマのままリムジンに押し込められて、わけもわからないままリムジン発進。走るリムジンの中で、とりあえず華黒と連絡をとらなきゃいけないなぁと思い、ナギちゃんの携帯電話を借りて華黒の携帯に通信。拉致られたことを報告して今に至る。


「それでナギちゃん」


「ブッブー」


「ぶ……?」


「私の本当の名前、まだ教えてなかったね」


「本当の名前……」


「楠木南木は偽名。ちょっと本名を名乗るのが都合悪かったから使ってただけ」


「そうなの?」


「そうなの」


「本当の名前は?」


「姓は白坂つづらざか、名は白花はくか。白坂白花とお見知りおきを」


「つづらざか……っていうと、もしかして“あの”白坂家?」


 白坂家といえば隣街の名家だ。


 この街の名家である酒奉寺家と対をなす。


「そうだよ?」


「もしかして酒奉寺昴先輩のこと知ってた?」


「んー、知ってたといえば知ってたし、知らなかったといえば知らなかったかなぁ」


「曖昧模糊だね」


「まぁいいじゃん。それで? 何かを聞きたかったんじゃないの?」


「そうだった。それでナギ……じゃない、白花ちゃん。なんで僕を拉致ったの」


「うん。今日はシロちゃんと遊びたかったから」


「だったら拉致しなくてもそうと一言いってくれれば……」


「だって話し合ってたらクロちゃんまでついてきちゃうじゃん」


「華黒がいるとダメなの?」


「うん。不都合」


「きっぱり言うねぇ」


「まぁこっちにも色々と事情があって」


「でも遊びに行くにしても僕パジャマなんだけど」


「大丈夫。買ってあげるから」


「おこがましいかもしれないけどそう言うと思ってた」


 やれやれだ。




    *




 連れていかれたのは、隣街にある服飾ブランドショップだった。


「好きなの買っていいからね」


 と言う白花ちゃんに連れられて店内に入る。


 中は清潔感のあふれる白を基調としたフロアで、店内のあちこちに服が飾ってあった。


 とりあえずパジャマ姿じゃまずかろうということでてきとうにロングティーシャツとジーパンをとって、試着室へと行き、着替える。


 なにやら英語のロゴの入ったティーシャツに簡素なジーパン。


 こんなものだろう。


「シロちゃん、シロちゃん、はいこれ」


「ん、ジャケット?」


「似合うと思うよ」


「そう」


 そう言って半袖のジャケットを羽織る。


「うん、似合ってる似合ってる」


「そう?」


 あんまり実感わかないけど。


「じゃあ会計すませてくるね」


「あ、僕も……」


「きちゃダメ」


「なんで」


「多分、金額聞いたら卒倒するから」


「……ああ……そう」


 そう言われては返す言葉もない。


「他に買っておきたい服とかある?」


「ん、いいや。とりあえず格好がつけばいいから」


「そ」


 と言ってレジへと向かうナギちゃん……改め白花ちゃん。


 しかし白坂家とはなぁ……。


 お嬢様なわけだ。


「とてもお似合いですよ真白様」


「うわぁ!」


 驚いて横を見ると、いつのまにやら獅子堂さんがいた。


 気配ってものがないのかこの人は。


「ねえ獅子堂さん」


「なんでしょうか」


「白花ちゃん、僕なんかのためにお金を使っていいのかな」


「お嬢様が喜んでいるので構わないかと」


「喜んでるの?」


「真白様に自分の選んだジャケットを着てもらえている。それだけでも嬉しいことかと」


「ふーん……」


 実のところ白花ちゃんが僕を好きだと言ってくれていることに関しては、僕は半信半疑でしかない。


 惚れた腫れたを認識する年齢ではない……はずだからだ。


 しかしそうすると白花ちゃんが僕にかまう理由もまたなくなってしまう。


 よく考えると白花ちゃんとの縁なんて出会った時から特殊すぎた。


 白花ちゃんは何を持って僕にかまうのだろうか。


 謎だ。


 なんてことを考えてるうちに白花ちゃんは会計を済ませて、僕のところ寄ってきた。


「…………」


「どうしたのシロちゃん?」


「ん、いや……なんでもないや」


 まぁ深く考えても詮無いことである。


 とりあえず流されるままに流されてみよう。


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