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超妹理論  作者: 揚羽常時
本編
39/298

『空白の日々』1


 チュンチュンと鳥が鳴く朝。


 僕は目覚ましを止めて、ベッドから這い出る。


 パジャマ姿でダイニングまで出ると、華黒が朝食を用意していた。


「兄さん、おはようございます」


「華黒、おはよ……」


 言って僕は椅子に座る。


 テーブルの上にはトーストとスクランブルエッグとトマトとレタスが。


 典型的な朝食だ。


 それを食べていると華黒がじぃっとこっちを見ていた。


「な、なにさ?」


「いいえぇ。朝食、美味しいですか?」


「うん。美味しいよ」


「そうですか。よかったです」


 そう言って華黒はほがらかに笑った。


「あのさ、華黒……」


「はい、なんでしょうか?」


「いや、なんでもないや……」


「そうですか? 変な兄さん」


 変なのはそっちだろう、と言いたかったけど止めた。


 ナギちゃんの別荘に行った後の日から今日まで、華黒が僕のベッドに無断で侵入することはなくなった。どころかあらゆる誘惑をしてこなくなった。


 僕はあの日に言った。


「線を引こう」


 華黒はその言い分を守っている。


 今の華黒は“良き妹”だ。


「ごちそうさま」


 朝食を食べ終えて合掌する僕。


 華黒が手際よく食器を片付けているのを横目に、僕は自分の部屋へと戻った。


 学校制服に着替えるためだ。


 もう二学期。


 夏休みは一週間前に終わっていた。



 

    *



 

「絶対おかしい」


 統夜がそう言ってきたのは昼食をとっている時だった。


「何が、おかしいって?」


 聞く僕に、


「もう一週間も俺が真白と昼食を一緒に食べてることが、だよ」


 統夜はまじめくさって答えた。


 ちなみに今は昼休み。


 学食で僕は若布うどんを、統夜はカツカレーを頼んだ。


「それは何かい? 僕には統夜と一緒に昼食をとる資格がないと言いたいのかい?」


「んなわけあるか。そうじゃなくてだな……。いつも華黒ちゃんと食べてたお前が、なんで二学期になったとたん華黒ちゃんじゃなくて俺と昼食をとるようになったかだ」


「兄離れしたんじゃない?」


「それはない」


 断言するんだ……。


「二学期になってから華黒ちゃんに告白する奴らへの邪魔もしてないらしいな?」


「元から邪魔してるつもりはないよ」


 僕はそらっとぼけた。


「反兄派は今がチャンスとこぞって動きを見せているそうだぞ」


「へぇ」


 それはそれは。


「本当にどうしたんだよ。華黒ちゃんと喧嘩でもしたのか?」


「いいや」


 喧嘩なんて中途半端なこと、できるものならしてみたいくらいだ。


「華黒ちゃんは教室でクラスメイト達と弁当中か……。そういや弁当つくれるのにお前ら兄妹の弁当なんて見たことないな」


「華黒お手製の弁当を毎日食べてたら華黒のファンから殺されるよ」


 言って若布うどんをすする僕。


「それもそうか」


 納得して頷く統夜。


 頷かないでほしかった。



 

    *



 

 ところで、瀬野第二高等学校は二学期の初めから文化祭の準備におわれている。


 夏休みあけの二週間後、つまり今日から数えて約一週間後には文化祭があるというスケジュールだ。


 そんなわけで、部活に入っていない僕はクラスの出し物の手伝いをさせられていた。


 うちのクラスは喫茶店をやるらしく、僕はクラスオリジナルのウェイトレスの衣装をちくちくと縫っていた。


 「それってコスプレ喫茶では?」という暗黙の疑問は今のところ黙殺されている。


 ちくちくと縫っていたところに、「布がきれた~」ととあるクラスメイトが間延びした声で材料不足を嘆いた。


 「ホント無いじゃん」「やばいじゃん」「誰か買ってきて~」などの愚痴が複数垂れ流された後、一部のクラスメイトがじゃんけん大会を始めだした。


 じゃんけんで買出しの担当を決めるようだ。


 何回かの合図の後、見事碓氷さんという人が買出しに決まったらしい。


 僕は我関せずとウェイトレスの衣装に針を通し続けていたのだけど、碓氷さんがこっちにきて言った、


「百墨くん……、一緒に来て……」


 と。


 ……はい?



 

 ウェイトレス衣装の材料を買うために僕と碓氷さんはショッピングモール百貨繚乱へと足を運んだ。


 学業中に学生服でここにくるのは新鮮な感じ。


 まぁどうでもいいことだけど。


 なんとなく碓氷さんが僕を指名した理由がわからず黙ったままここまできたけど、さすがにそれにも限界が来て、僕は思わず口を開いた。


「あの~、あれから平気?」


「あれから……?」


 キョトンとする碓氷さん。


「ごめん。言い方が悪かったね。イジメの件……あれから何もない?」


「うん。おかげさまで……」


「僕は何もしてないよ。お礼は昴先輩に。でもそっか。それはよかった」


「百墨くんは……」


「ん?」


「百墨くんの左手は……」


「ああ、あれ? ぜんぜん大丈夫だよ。傷も消えたし」


 そう言って左手を見せてあげる。


 碓氷さんはほっとした表情になる。


「よかった……」


「そう? でもまぁ無事が一番だよね」


 てきとうに話をあわせる。


「百墨くんって……」


「うんー?」


「文化祭実行委員にならなかったね……」


「めんどうくさいことが嫌いなたちでね」


「でも妹の華黒さんは実行委員……」


「ああ、それは僕も驚いてる。本当はそんな人間じゃないんだけどね、華黒の奴は……」


「そう、なの……?」


「そうなの」


 頷く僕。


「百墨くんって……」


「はいはい」


「シスコン……?」


 ずっこけた。


 よろよろと立ち上がって聞いてみる。


「そう見える?」


「うん……」


「さいですか」


「だから華黒さんと一緒に文化祭実行委員になるんだと……」


「勘違いです」


「そっか……」


 碓氷さんが本当に納得したのかは怪しかったけど、僕はそれ以上何も聞かず生地屋さんへと歩を進めた。


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