背徳の下拵え6
で白花ちゃんと昴先輩とで高級レストランに入って昼食となった。
二人には二人とも僕とのデートのプランがあったらしく、開幕パンチの昼食の場所で揉めに揉めた。
ジャッジは僕。
というか高級レストランで食事という点では五十歩百歩だったから結果的にどちらでもよかった。
白花ちゃんが予約していた方を選んだのは昴先輩へのちょっとした抗議行動ゆえだ。
何せ今僕が着ているのはアフタヌーンドレスなのだから。
元が男装していても女子に見られがちな僕だからそんなものを着せられたらもはやどういう評価なのか。
言いたくないし認めたくないけど殺意を抱くときは意外と平静な気持ちになるもので、それが結果的に良い方向に作用していた。
ところで昴先輩……仮にも僕と結婚を望んでおきながら女装させて愛でるとは何事か。
式では二人揃ってウェディングドレスを着るおつもりなのでしょうか?
そんなことを聞くと、
「そのつもりだが?」
何を当たり前のことを。
平然と首肯されてしまった。
「お兄様は渡しません。白坂の血統なのですから白坂に帰順させるべきです」
「では白坂に帰順した後に私と結婚すればいいだろう。お互いの確執もこれで解決だ」
「こちらの利益圏に侵食しておいてよくもいけしゃあしゃあと」
「それについてはお互いさまだろう。酒奉寺がホワイトナイトとなった案件だけでも片手では数えきれんよ」
やいのやいのと言葉は尽きない。
その端で僕は女装によるストレスを抱え込んでいそいそと食事をしていた。
作法については白花ちゃんと昴先輩の見よう見まねだ。
「お兄様は私と結婚しますよね?」
「真白くんは私と結婚するだろう?」
「どっちも気が進まないなぁ……」
ぼんやりとぼやいた。
特に絢爛豪華に憧れる性質ではない。
「こんな事態にはなっているけれど華黒さえ傍にいれば僕はいいかな?」
それが偽らざる僕の本音だ。
本人に言うと暴走するのでこの二人にしか漏らせない類の言葉ではある。
「クロちゃんも白坂に迎えていいですよ?」
「大丈夫だ。華黒くんもろともに幸せにしてみせるよ」
ほらね。
通用しないし痛痒しない。
そういう意味では気楽な二人だった。
「ところで水月くんとはよく出来てるかい?」
「ええ、まぁ、そこそこに」
いまだ衆人環視の視線は痛いけど乙女救済交渉団もなりを潜めている。
基本的に悪意を内に秘めて睨みつけられる程度の害しかない。
鼻歌モノだ。
「千夜寺も牽制する必要がありますか……」
そりゃ悲しいね。
真摯にそう思う。
「鏡花くんもアレさえなければ魅力的な女の子なんだが……」
自己同一性ストレス障害。
自分が自分として生きていることが心的外傷と云う少女。
僕は素直に、
「可哀想だ」
なんて思うんだけどアレな世界で生きている昴先輩には受け入れがたい精神の有り様だろう。
「生きることが素晴らしい」
と、
「生まれたことが間違いだ」
は決して相いれない。
昴先輩をして天敵となす千夜寺鏡花の愛くるしさだ。
僕にとっては華黒やルシールと同じ目線で語れるし恋慕の情を覚えてもらえて恐縮なんだけど。
「まぁ真白くんは自己認識が壊れているからね」
とは昴先輩の言。
一分の反論の余地もないけど、それだけで済ませられるのも何だかなぁ。
「ちなみにお兄様?」
「何でしょう?」
「日曜日デートをするならホワイトデーに最も近い来週のソレが適当だと思うのですが、その辺りは如何に?」
鋭いね。
「来週の日曜は華黒と鏡花水月とデートの予定だから。一応チョコ貰った人とデートはするんだけど優先順位と懐の深さで塩梅を決めさせてもらったよ」
「ルシールくんと黛くんと先週デートしたのもその一環かい?」
「先輩にそれ報告しましたっけ?」
「愚弟に聞いた」
マジで何者だ彼奴!
千里眼にもほどがある。
「とまぁそういうわけでホワイトデーに最も近い日曜日に華黒とすれ違ったら『兄さんを刺して自分も死ぬ』って言い出しかねませんから先述したけどこういう塩梅に」
「愛されてるね」
「ええ、勿体ないほどに」
苦笑。
「千夜寺も一緒なのは?」
「まぁ僕と華黒がいれば鏡花も水月も嬉しいだろうって……」
伝えておかなきゃいけない言葉もあるし。
それをここで言ったりはしないんだけど。
沈黙は金だ。
「一応三学期でお別れだろう? できれば鏡花くんと真白くんを引き合わせたくはないのが私の本音だ」
それは多分華黒もだろう。
華黒の焦燥は痛いほど伝わってくる。
それでも僕としては味方になってあげたい。
泣いている女の子を見てしまうと、「助けて」って言われると、「怖いよ」って言われると、その肩にコートをかけてしまうのが僕の業だ。
それについては二人とも承知の上だろうし、そうしなければ僕と華黒はこの世に生きていない。
全ては結果論だけど、だからこそ覆らない事実でもある。
僕にもリハビリが必要だけど、それでも鏡花に限り手を差し伸べてあげたい。
少し昔……華黒にそうしてあげたように。




