背徳の下拵え2
さて後日。
日曜日がやってきた。
待ち合わせは駅前。
名曲『日曜日よりの使者』を口ずさみながら僕は待ち合わせ場所に向かった。
華黒が最後までいい顔をしなかったのは心痛めてるけど、こういうところも妥協してもらわねば、
「兄さんを好きでいるだけでいい」
では人として生きていけない。
だからといって浮気デートをしていい理由にはならないんだけど、どうしても鏡花に言いたいことがあるため自然な形でデートの約束を取り付ける必要があった。
諦めましたよ。
どう諦めた?
諦めきれぬと諦めた。
僕を好きでいてくれる懐深い人たちの総意だ。
ちなみにガチでやばいのは白花ちゃんと昴先輩。
二人ともマジで僕と結婚する気でいるからね。
華黒の怖さは十分知っている筈だろうに。
さらに昴先輩は華黒の事も狙っているからなお始末が悪い。
というと悪口かな?
まぁ、
「人それぞれ」
で片付く事象ではあるんだけど。
まだ二月。
日差しは暖かいけど気温はまだまだ。
僕はコートを纏って寒さをしのいでいた。
「あ、お姉さーん」
と黛が僕に気づいてヒョコヒョコ手を振ってくる。
もこもこジャケットにジャージの上下。
スポーティな格好だ。
対して、
「………………あう……」
とルシーりってるのはルシール。
こちらは重い色のジャケットにタータンチェックのスカート。
ニーソと合わせて絶対領域を作っている。
「おはよ」
ルシールたちに合流すると、
「おはようございますお姉さん」
「………………おはようごじゃいましゅ……」
溌剌とかみかみの挨拶をする二人。
それから金髪を震わせ碧眼を濁らせて恥ずかしがるルシール。
「かっわいいですルシールは!」
飛びついて抱き着いた。
僕じゃなくて黛が。
「やっぱりいいなぁ。可愛いなぁ。黛さんもそのあどけなさが欲しいっす!」
「………………私は……黛ちゃんみたいな……社交性が……欲しかった……」
「隣の薔薇は赤いものですよ」
「さいですさいです」
僕も頷く。
僕もたまに人として壊れていない自分と云う者を空想してしまうときがある。
毎度毎度失敗に終わるんだけど。
ともあれ、
「ん」
ポンポンとルシールの頭を叩いて、
「可愛いよ?」
挑発なんてしてみたり。
「………………あうぅ……」
ますます委縮してしまうルシールだった。
「黛さんは?」
「わざとやってるでしょ」
ジャージの上下にもこもこジャケット。
スポーティでボーイッシュな黛によく似合っていた。
「可愛いというより格好いいね」
「お姉さんも格好いいですよ?」
「そうかなぁ……」
安易にコートを着てるだけなんだけど。
「そのコートはお姉様が?」
「うん。お揃いで買ったの」
「ハードボイルドって感じです」
黒いコートだから色々と僕自身が浮く気がするんだけど、黛は心底本音を言っているようだったから、
「ありがとね」
僕もはにかむ。
ポンポンと黛の頭を叩く。
「あは」
と笑う黛。
「………………お兄ちゃん……?」
「あいあい」
「………………今日は……電車に……乗るの……?」
「ん」
コックリ。
「都会の方にちょっと気になるケーキ屋を見つけてね」
「ケーキですか」
黛の目が爛と光る。
「………………あう……ケーキ……」
「ダメだった?」
乙女心には届かなかっただろうか?
「………………ダメじゃ……ないよ……?」
あわあわと慌てるルシール。
どうやら僕を困らせたと思ってしまったらしい。
「………………嬉しい……から……」
「本当に?」
「………………本当に……」
「黛は? 何か異論があるなら今の内に」
「特に無いですね。ケーキ楽しみです」
「もちろん今日は奢らせてもらうから」
「やた。ますます楽しみです」
ほがらかに黛は嬉しがった。
「………………あう……」
ルシールも少しだけはにかんだようだった。




