新たな隣人3
昼食はパックになった。
スパイクナルドバーガー。
ハンバーガーと云えば此処。
ファーストフードの大御所。
冬休みと云う事もあって学生がよく見かけられた。
華黒はハンバーガーをもむもむ。
「鬱陶しい視線ですね」
華黒は少し不機嫌だ。
猫を被っていない時の華黒らしい。
僕はポテトをもむもむ。
「有名税有名税」
「あう……」
何故そこで照れる?
そう聞くと、
「だって人目を惹くほど可愛いって兄さんが言ってくださったから……」
照れ照れ。
そういう解釈もあるね。
ポテトをもむもむ。
「むしろ私としては……」
「しては?」
「兄さんに向けられている邪な視線が鬱陶しいです」
「まぁ美少女だしなぁ」
ぼんやりと僕。
あまり自覚したくはないんだけど状況証拠がそろえば納得するしかない。
というかそうでもなければ華黒と出会えなかったのが何だかな。
ポテトをもむもむ。
「さて、これからどうする?」
「ランジェリーショップ」
「以外で」
「下着売り場」
「何の違いがあるの?」
「まさか兄さんは私にノーパンノーブラで過ごせと? いえ、兄さんがソレを望むというのなら私は達成してみせましょう」
「…………」
「そこで黙られると怖いんですけど……」
「言いたいことはわかるでしょ?」
「でも正直な話、下着は消耗品ですよ?」
そなの?
「定期的に交換しないといけないんです」
はあ。
「後は本屋です」
「おお、健全……」
「何故そこで驚きます?」
「自分の胸に聞いてみな」
「そんな……ここで脱げなんて……でも兄さんがそう言うのなら……」
「てい」
チョップ。
わりと本気で。
だいたい真空管時代のテレビを直す時と同じ感覚だったりする。
「私は映りの悪いテレビですか……」
よくわかってるじゃないか。
さすが僕の妹。
などと夫婦漫才をやっていると、
「ちょっとそこのお姉さん方?」
声を掛けられた。
チラとそっちを見やると、
「軽薄です」
「軟派です」
と主張している服装のお兄さん方。
計二名。
髪もカラフルに染めてイカしてるぅ。
「何の用でしょう?」
問うたのは僕。
華黒は意識のメモリを男たちに使う気がないらしかった。
代わりに僕が対応。
「俺らとデートしねぇ? いいことしてやるよ?」
「いや、完璧じゃん。これで決まりじゃね?」
「残念ですけどデート中なのでご遠慮願います」
「デート? 女の子同士で?」
「いけませんか?」
あえて誤解は解かなかった。
「もったいねえって。男との方が楽しめるぜ?」
華黒の無表情から段々と色が希薄になっていく様が見て取れた。
こと過去のトラウマに対するタブーに関しては僕より過激な反応をする。
「迂遠に邪魔だと言っているのですから退散しませんこと?」
「何だとてめっ……!」
カッとなって軟派男が何かしようとした次の瞬間、
「はい。そこまで」
第三者の声がそれを遮った。
スーツ姿の美少年。
黒髪セミロングで後ろ髪はシュシュで纏めている。
どこで見たかと沈思黙考。
「そういえば酒奉寺のパーティで」
と思い出す。
確か名を水月と言ったはずだ。
「何だてめぇ。他人がしゃしゃり出てくるな」
すごむ様な軟派男に怯むことなく、水月はパチンと指を鳴らした。
同時にどこから現れたのかメンインブラックもかくやの黒髪黒スーツ黒サングラスという黒尽くめの集団が軟派男たちを取り囲んだ。
華黒は特に意識を割かずにコーヒーを飲んでいる。
大物だなぁ。
「連行」
水月がそう言うと、
「わっしょいわっしょい」
メンインブラックたちは軟派男二人を担ぎ上げてその場から立ち去った。
「…………」
あまりにシュールな結末になんとも言えない気分の僕。




