新たな隣人2
そんなわけでデートと相成った。
僕はコートにジーパン。
華黒はセーターにスカート。
スカートの丈は短くニーソックスとのコラボで絶対領域を創りだしている。
さらにカバンを肩から下げて、セーターの胸元を強調している。
「うへへぇ」
だらしない笑顔で(といっても僕だからこそわかることで衆人環視には愛らしい笑顔に見えているだろう)僕の腕に抱き着いている。
通りすがる他人はポーッと僕たちを見ていた。
多分仲のいい姉妹に映っているのだろう。
あるいは百合百合。
「にーさん?」
「なーに?」
「えへへぇ。何でもありません」
ただその時が至福だと。
華黒の瞳はそう語っていた。
……こういうところは可愛らしいんだけど。
なんだかなぁ。
いっそ僕に自制心が無ければ。
「…………」
それはそれでまずいか。
うん。
まずい。
そんなわけでデートスポット……百貨繚乱へと歩く僕ら。
「にーさん?」
「なーに?」
「えへへぇ。大好きです」
苦笑してしまう。
「華黒は可愛いね」
「ふえ……はゎ……ふえ……!」
目に見えて狼狽える華黒だった。
そういうところは本当に愛らしい。
言わないんだけどさ。
ツンデレかな?
「私、可愛いですか?」
「まぁそれなりに」
大嘘つき。
絶世にして不世出にして空前絶後の可愛らしさだ。
「色んな男子に告白されてるでしょ? それだけ華黒は魅力的」
「兄さん以外の人に好かれても」
だろうね。
ま、それについては僕も同意見。
僕には華黒が必要だ。
物理的に。
僕と華黒は互いに視界が欠陥している。
華黒が僕を見て。
僕が世界を見て。
そうしてなんとか一般人を装ってやっていけているのだ。
そんなこんなでイチャイチャしながらショッピングモール百貨繚乱に辿りつく。
「で? どうする?」
「ランジェリーショップに行きたいです」
「一人で行ってらっしゃい」
「ああん。兄さん……」
「縋りつかないで」
「兄さんの意見を聞きたいんです!」
「聞いてどうするの?」
「穿きます」
「そ」
「に~さ~ん~」
華黒は僕に体重を預けてくる。
「ええい。僕はプラスチックな絞殺死体の!」
あんぎゃあんぎゃと言葉を交わす。
「兄さんは女の子に興味ないんですか?」
「ある!」
「本当に?」
「ルシールペロペロしたい」
「私は!?」
「プラスチックな絞殺死体」
「何でですかぁ」
「まだ責任が持てないから」
「クラスメイトにはやりまくりな生徒もいますよ?」
だから?
「仮にだけど僕との間に子供が出来たらどうするつもり?」
「産みます!」
「学校……退学になると思うけど?」
「むぅ……」
「一緒に大学に行くんじゃないの?」
「むぅ……」
「というわけで却下」
「じゃあ大学を卒業するまで……!」
「ん。まぁ。しないね」
「我慢できません!」
「僕はプラスチックな子が好みなんだけどなぁ」
大嘘つき。
「では私はこの劣情をどうすれば?」
「なんとか我慢して」
他に言い様がない。
というか兄妹でこういう会話は如何なモノだろう?
なんとなくブラコンについて考えてみるも、僕は妹と云う存在を体験できない。
脳の出力は、
「該当するデータは存在しません」
としか返さなかった。
「華黒は僕が好きなんでしょう?」
「え? はい……」
コックリと首肯。
「だったら良い子にしてようね?」
「誘惑し続けます。魂にかけて……!」
これさえなければなぁ。