お正月カプリッチオ2
正月。
三箇日。
その最終日。
ピンポーンと玄関ベルが鳴った。
僕がうめこぶ茶を飲みながら昆布をガジガジ噛んでいる最中だ。
「華黒~」
「はいな」
玄関対応は華黒に任せる。
僕は昆布を齧りながら正月特番を見る。
「はいはーい」
と玄関対応した華黒が、
「きゃー!」
と悲鳴を上げた。
「……ああ」
嘆息。
それだけで把握する僕。
ほぼ完璧超人の華黒が苦手とする客。
その心当りは一人しかいない。
「や、真白くん」
ツンツンはねた茶髪の癖っ毛。
切れ目には自信と自負が満ち溢れている。
なお華黒にも見劣りしない美女。
酒奉寺昴がそこにいた。
酒奉寺家の長女。
暫定的後継者。
でありながら、
「美少女が好き!」
と公言して憚らない偉大な人物。
そんな昴先輩は頬に紅葉をつけていた。
どうせ華黒に出会い頭にセクハラしたのだろう。
この辺りは平常運転。
「真白くん」
「何でがしょ?」
「君を我が家に招待したい」
また意味不明なことを言い出したね。
昆布をガジガジ。
「意味の分からないことを言わないでください!」
華黒が激昂する。
さもあろう。
先輩の誘いで危うくなかったことの方が少ない。
華黒が警戒するのも自明の理だろう。
「で?」
「とは?」
「何ゆえ?」
「私がそうしたいからだ」
でっか。
まぁ今更先輩の動機を問うのは徒労にすぎないとわかってはいるんだけど。
「真白くん」
「何でしょ?」
「華黒くん」
「……何ですか?」
「君たちをパーティに招待したい」
「断ります」
いっそさっぱりと華黒は突っぱねた。
「では真白くんだけでも」
「余計却下です!」
うがー!
華黒が吠える。
ま、致し方なし。
「何かあるんですか?」
僕が問うと、
「酒奉寺および分家の家系で新年パーティを開くのだ。どうせだから真白くんと華黒くんを招こうかと」
にゃるほどね。
「まぁ別にいいかなぁ」
「絶対ダメです!」
僕と華黒で意見が分かれた。
まぁそれも今更なんだけど。
華黒が僕を視線で射貫く。
「本気ですか?」
「そうなるよね」
分かりきった問答だ。
「どうせ実家にいても昆布齧るか古本屋回るか……そんなことをするしかないからイベントは大歓迎」
「むぅ……」
何かやることがあるか?
と問われれば否だろう。
華黒にとっても。
「で?」
「とは?」
「新年パーティって何するんですか?」
「立食パーティだよ」
にゃるほど。
「パーティ会場を借りきって寺の一族で交流を深める新年のイベントだ」
あれ?
「それだと僕や華黒は邪魔じゃないですか?」
「何を言う。二人とも私と結婚する仲だろう?」
それこそ、
「何を言う」
なのだけど。
「兄さん!」
「何でしょう?」
「断ってください!」
「僕も危惧はしてるけどさ」
「では……!」
「でもまぁちょっと立食パーティは興味あるかな? 華黒にも参加してもらえると心強いんだけどなぁ」
「であれば私もご一緒します!」
チョロいなぁ。
華黒においては別に問題視することでもないんだけどさ。