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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
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外伝:その言葉は2


「食事が終わりましたならば、お嬢様を磨きませんと」


 そんなわけで亨は私と風呂に入った。


 洗髪。


 洗体。


 何時もの様に鮮やかに。


 手慣れた様子で清めてくれ……そのことに有難いと思いつつも、同時に何故ここまでしてくれるのだろうという疑惑というほどでもない疑いを持つ。


「…………」


 カポーン。


 鹿威しの幻聴。


 湯船は温かく、冬には有り難み五倍増し。


「…………」


 フニフニと自分の胸を揉む。


「お嬢様はこれからですよ」


 クスッと微笑まれた。


 上から目線のはずだけど、不思議と反発心は覚えない。


 白井亨はそんな使用人だ。


「…………」


 ギュッと抱きしめる。


 甘えることにした。


 考えることは、真白の利用。


 あるいは使い潰し。


 それが何を意味するのか?


 分かっていても止められない。


 その悪罪は、ある種の異常に他ならない。


 私は自分が壊れていると自分に対して言い訳しなければ生きていけないタイプの人間なのである。


「怖いんですか?」


 震える私を亨は抱きしめる。


 怖い。


 人が怖い。


 視線が怖い。


 世界が怖い。


 死が怖い。


 だけど何より……自分の弱さが怖い。


 包帯を巻いている手首を見やる。


 突発的に切り裂いた箇所。


 プロパガンダ。


 真白との共通点。


 私はそう思う。


 華黒に言わせると違うらしいけど。


 リスカ。


 言葉に失望した私の主張。


 その意味を、真白だけは分かってくれる気がした。


 亨も把握はしているだろう。


 けれど、確かに真白が好きだ。


 とても男とは思えない美貌。


 当人に美しさの自覚は無いらしい。


 その面貌の完成度は、在る意味で華黒以上だ。


 彫刻を思わせる完璧性に、彫刻にはない愛嬌が乗っている。


 笑顔一つでも破滅的。


 あらゆる全てを恋に落とす。


 超絶美少女顔だが、それにしても神性の極北を極めている。


 何があったのか。


 何を為したのか。


 何を思ったのか。


 ポツリと落とすような笑顔が胸を締め付ける。


 だからなのだろう。


 心を仮託するに、


「これ以上を見つけられない」


 そう思ってしまうのは。


「お嬢様?」


「…………」


 視線を亨へ。


「いえ、何かお悩みでも?」


 黙考していただけだ。


 あるいは恋の悩みといえるのか?


 自分でも自信は無い。


「…………」


 とりあえず一つ頷く。


 亨には、少し話すことが肝要だ。


 けれど風呂まではスマホを持ってきていない。


 アレが無ければコミュニケーションを取れない私。


「そうですか」


 ギュッと亨は抱きしめてきた。


 暖かい。


 身も心も。


 今頃、真白も華黒とこうしているのか?


 ズキン。


 胸が痛んだ。


 果たしてコレを恋と呼んでいいものか。


 歪で。


 捻れ。


 狂っている。


 にしてもお風呂の温かさよ。


「…………」


「逆上せましたか?」


「…………」


 コクリと頷く。


「では上がりましょう」


 丁寧にバスタオルで水気を拭ってくれる。


「…………」


 パジャマに着替えて、夜の部屋。


「紅茶でも淹れましょうか」


 穏やかに亨は言った。


「デカフェの紅茶がありますので」


「…………」


 スマホカシカシ。


「ありがとにゃ」


「お嬢様のためですもの」


 破顔してくれるのは嬉しいんだけど。


「にゃんだかにゃ」


 スマホにそう打ち込んで、投下せず打ち消す私だった。


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