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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
264/298

誰も触れない二人だけの国3


 ルシールと黛と昴先輩と白花ちゃんが帰った後、


「…………」


 病室には僕と華黒が残された。


 日は既に暮れて夜。


「嵐が去りましたね」


「まだ可能性は残っているけどね」


 皮肉る僕に、


「兄さんは冗談が上手いんですね」


 ニコリと華黒。


 冗談じゃないんだけどね……。


「兄さん?」


「なぁに?」


「何で纏子と飛んだんですか?」


「先にも言ったよ」


「纏子が可哀想……だからですか?」


「そ」


「そんなことで兄さんは命を捨てるんですか?」


「それが僕の歪みだよ」


「ええ、知ってはいたはずです」


 華黒は僕が居なければ生きている意味を見失う。


 僕は華黒が居なければ他者のために死にかねない。


 そして今回の一件はそれを如実に表したものとなった。


 僕の歪み。


 自分を見ることが出来ないということ。


 自身を勘定に入れず世界を見るということ。


 即ち、


「無償の優しさだね」


 僕は僕を皮肉る。


「前にも言いましたよね?」


「何て?」


「兄さんは私だけを見ればいい……と」


「前にも言ったよね?」


「何と?」


「華黒には世界を見てほしい……と」


 くつくつと華黒は笑う。


「無責任ですね。兄さんは」


「まぁね」


「自分は自分の歪みを正すつもりはないのに私には私の歪みを正せと仰る」


「僕に関わっても華黒は不幸になるだけだ」


「それを決めるのは兄さんではありません」


 そうだけどさ。


「悲劇だってかまわない。あなたと生きたい」


「それは……」


 僕と華黒の業だ。


「兄さん?」


「何?」


「私と契約しましたよね?」


「…………」


 した。


 今でも覚えている。


「だから今ここに誓う。もう絶対華黒を離さない。突き放すんじゃなくて、一緒に世界に向き合おう。できないかもしれないけど一緒にそれを目指して生きていこう。華黒一人に望むんじゃなくて僕が華黒の手を取って世界を見せてあげる。絶対に支える。離したりなんかするもんか。例えそれで二人だけの世界が外に広がらなかったら……そのときは華黒の隣で死んであげる」


 確かに僕はそう言った。


 それが契約。


 僕と華黒の神聖不可侵の条約。


 そして、


「契約は破られました」


 その通りだ。


 華黒の隣で死ぬという契約を僕は反故にした。


 纏子の隣で死んだ。


 正確には死んではいないんだけど。


「もしかしてこの首輪は……」


「ええ」


 さわやかに華黒は笑う。


「もう兄さんを手元から離しません」


「学校はどうするの?」


「兄さんともども退学しました。安心してください。兄さんはこの病室で私と共に一生を過ごすだけでいいんです」


「そんなことを僕が許すとでも?」


「兄さんの意見は重視されません」


「…………」


 憮然。


「費用については心配なさらないでください。白坂と酒奉寺が支援しますので。必要な物は幾らでも準備させます。兄さんはただこの部屋で慢性的に一生を過ごせばいいんですよ」


「外に出さないってこと?」


「外に出せばまた兄さんは誰かのために死ぬことを選ぶ可能性がありますもの」


 それはそうだけど。


「だからってこれじゃ籠の鳥だ」


「いいんです。兄さんは何も心配しなくて。私が飼殺してあげますから」


「百墨真白しか見えない華黒らしいね」


「自分の見えない兄さんほど壊れているつもりはありませんけどね」


 違いない。


 苦笑してしまう。


 華黒が見張っていないと僕は他者のために死ぬ。


 故に華黒が飼殺す。


 それは当然で。


 それは必然で。


 だから華黒の本心なのだろう。


 首輪を付けられたのが良い証拠だ。


「ごめんなさいこんごはちゅういしますだからぼくをそとにだして」


「駄目です」


 鎧袖一触。


 華黒は僕を自由にするつもりは全く無いようだった。


 だからこの物語はこれで御終いだ。


 僕は華黒に縛られて生きていく。


カルネアデスロマンス編、完結です!


ヤンデレっぽいバッドエンドを書きたくて、このお話を考案しました。


ちょっと外伝挟んでから、正史に戻ると思います。

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