誰も触れない二人だけの国2
で、華黒を除くカルテットが終結した。
「………………真白お兄ちゃん……!」
「お姉さん……!」
ルシールと黛が抱き付いてきた。
「痛ぅ! ちょっと優しくして……」
「………………あう」
「ごめんなさい……」
全身骨折故に今の僕は全身が急所だ。
「息災で何よりだ」
昴先輩がニヤリと笑う。
何処が息災だ。
「お兄様に目覚めてもらえてホッとしました」
白花ちゃんは慈愛の瞳でそう言った。
「心配かけたね」
「全くです」
「全くだよ」
「………………全く」
「全くっす」
あれ?
僕、悪者?
「当然だろう」
これは昴先輩。
当然なんだ……。
「会って数日の人間と心中するなど愚昧の極みだ」
そうだろうけどさ。
「纏子ちゃんはお兄様になんと仰ったのです?」
これは白花ちゃん。
だから僕は語った。
纏子の苦悩を。
纏子の懊悩を。
纏子の屈折を。
纏子の絶望を。
「だから一緒に死んであげるのも優しさかなって」
生き汚い自分とか。
生き辛い世界とか。
纏子はそういうものに振り回されていた。
絶望していた。
観念していた。
終了していた。
でも死は空虚だ。
そんなことは誰だって知っている。
だから惰性で生きる。
それは間違っているだろうか?
いや違う。
間違ってなどいない。
少なくとも僕にも理解の出来ない話じゃないのだから。
人間として壊れた僕に自命は勘定に入らない。
であればこそ、だ。
纏子が苦悩の末に自殺を選ぶのは全く合理的。
だからこそ付き合ったのだ。
「死ぬ」
という結果に。
何が正しくて……。
何が誤っていて……。
そんなことは勘定に入らない。
そんなことはどうでもよくて。
正しいとか。
誤ってるとか。
そんなことに意味は無くて。
ただ泣いている一人の女の子を救えるのなら自殺に付き合うのは必然だと思ったのだ。
そこに道理は無くて。
そこに真理は無くて。
そこに審理は無くて。
纏子はどう思っていたのだろう?
僕を巻き込んでの自殺。
今も生き汚く生きている僕。
死んだ本人。
纏子は救われたのだろうか。
それだけが僕の胸を締め付ける。
優しさと云うものが目に見える形なら、きっとそれは優しさだ。
僕は自分が見えない。
だからこそ人に優しく出来る。
それに負い目を感じたことはない。
でも、
「本当にそれは優しさだったのか」
そんな心残りもあるわけで。
「兄さん?」
華黒はジト目だった。
「まさか後追い自殺しようなんて考えていませんよね?」
「まさか」
僕は否定する。
「死んだ者は死んだ者だよ」
「ならいいですけど……」
華黒はどこまでも不機嫌だ。
僕が一方的に悪いから反論は出来ないんだけどさ。
「………………真白お兄ちゃん?」
「なに?」
「………………今後……こんなこと……しないでね?」
さぁてねぇ。
「お姉さんはもっとしがらみを大切にすべきです!」
黛は大切にしすぎているけどね。
「ま、真白くんが生き残っただけでも今回は儲け物だ。今後は有り得ないしね」
待て。
それはどういう意味?
「お兄様の処遇は既に決まっております」
「…………」
白花ちゃん?
それはどういうこと?
「兄さんはもう何も心配しなくていいという意味ですよ」
華黒がニッコリ微笑んだ。