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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
262/298

誰も触れない二人だけの国1


 目を覚ました。


「……っ!」


 最初に感じたのは痛みだった。


 全身が痛い。


 爪先から頭まで。


 起きたばっかりで発症も出来ないからこればっかりは享受するしかない。


 しかして、


「痛い?」


 その感覚は困惑を呼んだ。


 記憶があやふやだ。


「…………」


 どうやら僕はベッドに寝かされているらしい。


 体が痛いから起き上がることは出来ないけど首を動かして周囲を見る。


 どうやら病室の様である。


 清潔な白色の支配する部屋だった。


 それも個室。


 ジャラリと金属のこすれる音がする。


 首に違和感。


 何かしらが首に巻かれていて金属が繋がっているのが感じ取れた。


 予想は簡単だ。


「首輪……」


 に他ならない。


 病室で首輪に繋がれて眠っている。


 その因果が思い出せない。


 さて、どうしたものだろう?


 しかして疑問は簡単に氷解した。


 個室にある扉が開き一人の女の子が入ってきたからだ。


 女の子は花束を持って、暗鬱たる表情で僕を見る。


 そして僕と視線が交錯した。


「にい……さん……?」


「華黒……」


 ブラックシルクの様に艶やかな髪。


 ブラックパールの様に輝かしい瞳。


 華黒は相も変わらずの美人さんだ。


 その瞳に涙が溢れた。


 パサリと華黒の手から花束が落ちた。


 華黒は震える両手が口元を隠す。


 それが激情を押し殺す仕草だと僕は知っている。


「兄さん!」


 華黒はベッドに寝たきりの僕に駆け寄ると、


「兄さん! 兄さん!」


 僕の手を取って頬ずりした。


 その行為は可愛らしいけど、


「華黒、痛い」


 正直な僕。


「兄さん……!」


 華黒は涙をボロボロとこぼしながらただ僕を慈しんだ。


 三十分後。


 漸く泣き止んで慟哭から解放された華黒が問うた。


「兄さん。お加減はどうですか?」


「全身が痛い」


「でしょうね」


 あっさりとしたものだ。


「全身骨折していますから。しばらくは動けませんよ」


 でっか。


「で?」


「とは?」


「何で僕はこんなことになってるの?」


「覚えてないんですか?」


「記憶が混乱してる」


 率直。


 まぁ他に言い様が無いだけなんだけど。


「…………」


 沈黙。


 これは華黒の分。


 漆黒の瞳に映るのは無明の怒り。


 妹さん。


 ご立腹の様子。


「僕、何かした?」


「ええ」


「ふぅん」


 まどろっこしいことは嫌いだ。


 自白を促すために素っ気なく同意するに留める。


「兄さんは纏子と一緒に飛び降り自殺したんですよ」


 その言葉に、


「っ!」


 思考の靄が開けた。


 外れた歯車がかっちりと噛み合う。


 そうだ。


 そうだった。


 生きることに絶望し、しかして死ぬ勇気の無かった纏子を後押しするために、一緒に瀬野第二高等学校の三階から飛び降りたはずだ。


 全身の痛みはそういうことか。


「なら何で僕は生きてるの?」


 ある種当然の疑問。


「偶然見回りをしていた警備員が物音を察して駆けつけ救急車を呼んでくれたんです。助かったのは奇跡ですね」


 そっか……。


「纏子は?」


「死にました」


「本当に?」


「葬式も既に終わりました。骨になって墓の下です」


 それはまた。


「僕はどれくらい寝ていたの?」


「正味二か月と云ったところでしょうか」


「三学期は?」


「もうすぐ春休みです」


「さいでっか」


「では私は兄さんが起きたことを他の人にも伝えますので」


 スマホを手にとって華黒が言う。


「お願いね」


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