カルネアデスの板の罪2
で、瀬野二の制服(のコスプレ)を纏って僕と纏子は電車に乗ってとんぼ返り。
「これでデートは終わり?」
そう聞くと、
「みゃ~。これからが本番だにゃ」
ちなみに冬であるため早々に日は沈んだ。
地元の駅で降りるということは帰る他ないと思うんだけど……。
クネリと首を傾げる僕……のスマホ……のラインに纏子のメッセージが送られてくる。
「夕食をとって、それから付き合ってもらいたいところがあるにゃ」
「…………」
別にいいけどさ。
そして纏子は駅からタクシーを捕まえて僕と一緒に乗り込む。
そこで行先を知らない僕と失語症の纏子のせいで一悶着あったけどそれは割愛。
タクシーの着いた先は寿司屋だった。
名を、
「大和心」
という。
「…………」
寿司屋……。
それも回っていない。
「ええと……」
僕は眉間をつまんだ。
「大丈夫なの?」
「これくらいは許容範囲にゃ」
金持ちうぜぇ。
それが僕の率直な感想だった。
さすがに言葉にはしないけど。
「ここで夕食をとって……それからもう一つ付き合ってほしい場所があるにゃ」
「何処?」
「今は秘密にゃ」
でっか。
カウンター席に座る。
「好きに食べてほしいにゃ」
「まぁ他人の金なら遠慮は無用だしね」
気後れすることとソレとは別問題だ。
「らっしゃい。おや、お若い方の登場だ」
カウンター席に付くと同時に店員さんに絡まれた。
「…………」
纏子は何も言わない。
というか言えない。
「とりあえずカンパチとヒラメとウニ」
「へい!」
「それからこっちに同じものを」
僕は纏子を指差して言う。
「へい!」
寿司が握られて差し出される。
もきゅもきゅとそれを咀嚼嚥下。
「どうでっしゃろ?」
「美味しいですよ。グルメリポーターみたいな反応は出来ませんけどね」
寿司屋の店員の質問に肩をすくめて僕。
「みゃ~。下調べした甲斐があったにゃ。美味しいにゃ」
「日頃から纏子はこんな店に来るの?」
「まぁ別に行かなくてもいいけど行って損傷も無いにゃ」
……ブルジョアジー。
多少気分がささくれだちガリを噛んで緑茶を飲む。
それからしばし僕と纏子は寿司を楽しむ。
「…………」
どんな話題を振ろうか考えていると、
「みゃ~」
纏子の方から振ってきた。
「真白は何でそんなに強いのにゃ?」
「強い? 僕が?」
「みゃ~」
肯定の意思表示。
「強くなんかないよ」
「そこで強がる必要は無いにゃ」
「そんなつもりもないけどなぁ」
「確かに私は真白に一目惚れしたわけじゃなくて真白の背景を知って好きになったにゃ」
「僕の過去に惚れられる要素なんかある?」
「正直反吐が出る内容だったにゃ」
「まぁ目障りや耳障りな内容なのは否定しないけど」
少なくとも聞いて胸がすくような話でもない。
「なんでそれだけの仕打ちを受けて尚も人に接することが出来るにゃ?」
「自分が見えないから」
そして寿司をもむもむ。
「結局のところ憎しみとは自分を勘定に入れて損した場合にのみ発生する感情だよ。僕は自分をソロバン出来ないから人を憎むことが出来ない。無論例外はあるけどね」
例えば華黒に関することとか。
「みゃ~。やっぱり真白は強いにゃ」
「だから違うって……」
茶を飲む。
「私にその強さがあったらにゃ~……」
「止めた方が良いよ」
「そうにゃの?」
「常識に遊離するのは決して良い事じゃない」
「それについては今更だにゃ」
「だろうね」
リスカをして瀬野二の生徒をドン引きさせた纏子が言えば説得力がある。
「真白もリスカしたにゃ」
「まぁね」
「でもそれは他者のためにゃ」
「自分のためだよ」
「うん。そんな真白だから……」
そこまで文章を打って、
「…………」
纏子は沈黙した。
寿司をもむもむ。
勘定はブラックカードだった。