纏子とのデート3
それから都会に着くと僕らは喫茶店に入った。
皮肉にも、
「あー……」
前に白井さんと入った喫茶店だったけど、
「狙ったわけじゃあるまいな?」
それは言わぬが花だろう。
ウェイターに案内されて狭い店内の一つの席に着く。
纏子がスマホをカシカシ。
ラインだ。
「カプチーノ」
そう綴られていた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
タキシードのウェイターに尋ねられて、
「アメリカンとカプチーノを」
僕は意を汲んで二人分注文する。
しばらくするとコーヒーが手元に置かれた。
僕の前にはアメリカン。
纏子の前にはカプチーノ。
しばし嗜む。
僕は帝国軍か同盟軍かなら同盟軍なんだけどブランデーは飲めないし紅茶もそれほど詳しくはない。
ミラクルヤンは僕の偉大な師匠なんだけどこれっぱかしはなんともかんとも。
忸怩たる思い、
「というほどでもないけど……なんだかなぁ」
なんて心境。
それをそのまま纏子に話す。
纏子は息を漏らした。
クスクスと笑っているのだ。
カプチーノのマグカップをカチンと受け皿に打ち鳴らすとスマホをカシカシ。
「プロージット」
ライン。
そんな一文。
「帝国派?」
問う僕に、
「かっこいい将校が多いにゃ」
なぁる。
たしかに女の子には帝国軍の方が受けがいいかもね。
「ラインハルト? ロイエンタール? 疾風ウォルフ?」
「ミュラーだにゃ」
「鉄壁か……」
まぁ僕も好きなんだけど。
師匠をして、
「代わりを任せて昼寝できる」
と言わしめた将校だ。
そんなこんなで銀英伝の話を咲かせる僕らだった。
コーヒーをお代わりしながらラインで会話する僕と纏子。
「みゃ~。真白は何で華黒に惚れてるにゃ?」
「知ってるでしょ?」
「みゃ~?」
「一目惚れじゃないって聞いたよ?」
「誰から?」
「白井さんから」
「みゃ~」
諦めたらしい。
「でもそれは状況に流されてるだけにゃ」
否定はしない。
その上で、
「だから何?」
と僕は問うた。
「みゃ~」
困ったような纏子のライン。
「要するに視界を確保できればいいにゃ?」
「まぁね」
「華黒に相応の人物が見つかれば万々歳にゃ?」
「いればね」
「なら探すにゃ」
「多分世界に一人しかいないんじゃないかな?」
「かにゃ?」
「かにゃ」
スマホをカシカシ。
コーヒーを一口。
「じゃあ」
と纏子。
「私の付け入る余地は無いかにゃ?」
「無いにゃ」
それは決定的な言葉。
少なくともこのデートは、
「恋人仲睦まじく」
のソレではない。
「報われぬ女の子の思い出作り」
に相違ない。
そんなことは纏子とて理解できないはずもないだろうけど……。
「…………」
どうかな?
「纏子は真白が好きにゃ」
「僕の過去と歪みを知って尚そう言えるの?」
「同情はするにゃ」
そりゃどうも。
「でも……」
「でも?」
「だからこそ……」
「だからこそ?」
疑問質疑の光を瞳に宿すと、
「にゃはは」
とラインの文章で纏子は笑った。
僕は苦笑してコーヒーを飲む。
「ちなみにこの後の予定とか考えてる?」
「まぁ一応は……だにゃ」
「じゃ、とりあえずそれを消化しよっか」
そう言って僕は伝票を握りしめた。