決別の前日3
スーパーに寄って食材を買うと、一旦僕たちは別れた。
僕と華黒はその部屋に。
ルシールと黛は自身の城に。
纏子と白井さんは自身の居場所に。
鍋にも色々と準備がある。
その間、僕は僕の部屋でまったりすることに決めた。
「か~ぐ~ろ~」
ダイニングでテーブルに突っ伏して華黒を呼ぶ。
「何でしょう兄さん?」
「コーヒー」
「はいな」
花綻んで華黒は笑う。
可愛いなぁ。
本人には言ってあげないんだけど。
華黒は、
「これある」
を察していたのだろう。
既に湯は沸いている。
ガリガリと豆を挽いてフィルターにお湯を通す。
出来上がった世界に唯一無二のコーヒーが差し出された。
ズズズと飲む。
「美味しいよ華黒」
ニッコリ笑ってあげると、
「光栄です兄さん!」
向日葵の様に華黒は笑うのだった。
苦笑してしまう。
短絡思考もここまでくれば勲章モノだ。
と、
「ん?」
僕のスマホが鳴った。
ラインだ。
「みゃ~。夕餉の準備できたにゃ」
相も変わらず……。
良いんだけどさ。
見れば華黒もスマホを弄っていた。
おそらく纏子からの呼び出しだろう。
ピンポーンとインターフォンが鳴る。
華黒が応対する。
「はいはいはーい」
ガチャリと扉が開けられる。
「お姉様。呼びに来たっす」
そんな黛の声。
僕はズズズとコーヒーを飲む。
「………………駄目……かな?」
これはルシールだろう。
「いいえちっとも」
おそらく華黒は首を横に振ってるはずだ。
ルシールにはなんだかんだで責めきれない華黒である。
良か事良か事。
そして僕がコーヒーを飲み干すと、僕らは纏子と白井さんの部屋に御呼ばれした。
既に鍋の準備は済んでいる。
ダイニングの席も六人分。
「拙いかもしれませんが楽しんでもらえれば幸い」
そう言って白井さんは慇懃に一礼した。
では、
「いただきます」
六人が食事の前に一拍した。
儒教の影響を受けている日本であるからしょうがなくはあるんだけど。
ニラとモツをすくって皿に移す。
クシャリとニラを噛む。
香り高い味が口内を凌辱する。
「美味しいですか?」
白井さんが聞いてくる。
「ん。出汁も食材もいい味出してるよ。これはちょっと真似できないね」
絶賛してみる。
華やかに白井さんは笑った。
「光栄です」
そんな感謝の言葉を無視して僕はモツを噛み潰す。
ジュワッと旨みが噛むほどに引き出される。
そんなこんなで六人で(内五人は美少女)もつ鍋を楽しんでいると、
「あの……」
と白井さんが僕に声をかけてきた。
「何?」
答える僕。
「わたくしたちはもうすぐ白坂の圧力で転校します」
「知ってる」
それは僕だけじゃなくかしまし娘にも言えることだ。
「ですから最後に思い出作りとしてデートをしてほしいのです」
「白井さんと?」
「いえ」
否定する白井さん。
「お嬢様と」
そして間接的な肯定。
「僕と纏子でデート?」
「はい。わたくしたちにとっての真白様はもうすぐ居なくなりますから」
「纏子はそれでいいの?」
問うと僕のスマホが鳴った。
ラインだ。
「みゃ~。お願い」
「最後の思い出作りに……デートしたいの? 僕と?」
「だにゃ」
「ふーん」
「兄さん?」
華黒が声と表情で激怒していた。
が、斟酌には値しない。
「じゃあ今度の日曜日でいい?」
「みゃ~。じゃあそれで」
そういうことになった。




