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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
251/298

白花の憂い3


 鬼で蛇だった。


 ボブカットの美少女……というには若すぎる。


 あえて言うなら美幼女だろう。


 ボブカットの美幼女が校長室の客用ソファに座っていた。


「田子の浦にうち出でて見れば白妙の」


「富士の高嶺に雪は降りつつ」


 こんな返しが出来るのは白花ちゃんに相違ない。


 白坂の御曹司。


 校長室には僕を除いて二人の人物がいた。


 一人が白花ちゃんで一人が校長。


 先述したとおり白花ちゃんは客用ソファに座ったまま僕を出迎えた。


「やっほ、です。お兄様」


「やっほ」


 僕も簡潔に返す。


 それから校長を見る。


 ひたすら恐縮しきっていた。


 さもあろう。


 ここは酒奉寺の土地とはいえ白坂のネームバリューが効かないわけじゃない。


 たかだか一介の高等学校の長でしかない身としては酒奉寺も白坂も、


「鵺の鳴く夜は恐ろしい」


 という感情の種であることは必然だ。


「校長先生? 少し白坂真白お兄様とお話があります。退室してはもらえませんか? それほど時間はとらせません。食事をするくらい良いでしょう?」


 何気に百墨をディスられた。


「それはもう。はい。つづらざかましろ……ですか? まさか生徒真白が白坂様のご本家とは……。ええ、それはもう。では白坂様におかれてはごゆるりと」


 額の汗をハンカチでぬぐいながら校長はそそくさと校長室を出ていった。


「可哀想な事するね」


「向こうが勝手に怯えているだけです。別に気にすることでもないと思いますが?」


「大物だね」


 苦笑して僕は白花ちゃんのソファの対面に座った。


 テーブルを挟んで反対側のソファだ。


「で? 何の用? 学校は?」


「学校は昼休みと五時限目を潰しました。何の用かはお兄様にお会いしたい……では理由になりませんか?」


「権力をちらつかせてまで押し通すこと?」


「とりあえず昼食にしませんか? 松坂牛のステーキ弁当を用意させてもらいました」


「そういうところは好きよ」


「えへへ」


 朗らかに白花ちゃんは笑う。


 元より小学生という概念とはアイデンティティの遊離した白花ちゃんだ。


 帝王学の一端なのだろう。


 堂々としていて悪ぶることもせず、かつ気負いもしない。


 こうだけ言うと、


「どこが小学生だ」


 って思いたいけど慣れていると言えば慣れてはいる。


「いただきます」


 パンと一拍。


 そしてペロリとステーキ弁当を食べる僕と白花ちゃんだった。


 美味しゅうございました。


 校舎の自販機で買ったのだろう温かい缶コーヒーを食後に飲みながら僕は目で問うた。


 対して白花ちゃんは、


「ごめんなさい」


 と頭を下げた。缶コーヒーをカツンと机に置いて慇懃に一礼。


「何に対して謝ってるのかがわかんないんだけど……」


「分家の者が無礼を働いた件に関して……です」


 分家?


「ああ、纏子と白井さんの事? 別に無礼なんて働いてないよ?」


「報告が上がりました。お兄様。的夷伝纏子のリスカを止めるために剃刀を握りつぶして止めたそうですね?」


 纏子ちゃんではなく的夷伝纏子ときたか。


「白坂も案外暇なんだね。いちいちそんな些事を気にするの?」


「気にしてないのはお兄様だけです」


「…………」


「クロちゃんから抗議がありましたよ。あの疾患者をどうにかしろと」


「華黒の奴……」


 僕は頭を抱えた。


「耳障りなことを聞かせたね。気にしないでもらえると幸い」


「そういうわけにも参りません」


「………………なして?」


「お兄様は白坂の直系です。そこにリスカで迫るという的夷伝纏子の攻撃は実に的確で狡猾です。事実お兄様は的夷伝纏子のために心を痛め身を痛めています」


「それが僕の病気なんでね」


「治せと言って治るモノではありませんからそれについては置いておきましょう。しかして不始末にはケリをつけなばなりません。少なくとも白坂の嫡男である真白お兄様を精神的に追い詰めている的夷伝纏子のそれは許されざるものです。早々に排除せなばなりません」


「ふーん」


 缶コーヒーを一口。


「僕にはよくわかんないけど纏子が僕にとって有害だから引き離そうってこと?」


「然りです」


「別に大層な実害は受けてないんだけどなぁ……」


「そう思っているのはお兄様だけです」


 断定されてしまった。


 ふむ……。


 華黒の暴走や黛の拷問に比べれば可愛いものなんだけど、それは言わぬが花だ。


 なんと云うべきか……。


 ぶっ壊れた女の子に好かれる性質でも持っているんだろうか?


「的夷伝纏子はリスカによってお兄様に同情を求めています。私は可哀想でしょって。私を守ってって。そしてその通りにお兄様は的夷伝纏子に意識の一部を割いている」


「否定はしないよ」


 でも傷つく人が視界に入れば放っておけないのも事実で……。


「お兄様が今何を考えていらっしゃるか当ててみせましょうか?」


「別にいい。ところでそれは決定事項?」


「はい。的夷伝纏子は明らかにやりすぎています。白坂本家の血統である真白様を分家筋である的夷伝纏子が追い詰める。これは明らかに分不相応な行為です」


 そんなに肩肘張って疲れない?


「数日中に処置を施します。それでお兄様と的夷伝纏子の関係はチャラです」


「僕は別に構わないんだけどなぁ」


 缶コーヒーを一口。


「弱い女の子に頼られるのは悪い気がしないし」


「だからといってお兄様が傷ついていい理由にはなりませんよ?」


「どうでもいいでしょ?」


「重症ですね」


「まぁね~」


 そもそうでもなければ花岡先生を困らせることもないだろう。


「お兄様は可哀想な人間がいれば誰彼助けるのですか?」


「どうだろうね?」


 不明が僕の回答だ。


「そもそもそんなに可哀想な人に歩いてぶつかりはしないしね」


「でもぶつかれば助けるのでしょう?」


「その辺は……まぁそうだけど……」


「いいですか? お兄様はお兄様を一番になさるべきです。仮に大切なモノがあるとしてもそれにばかり囚われていては二番三番を守って一番を失う可能性があるんですよ?」


「僕にとっての一番……って何?」


「お兄様の命です」


「じゃあ華黒が二番目かな?」


「悔しいですけれどそういうことになるのでしょうね」


 悔しいんだ……。


「クロちゃん込みで白坂に帰順する気持ちはつきましたか?」


「そういうことに僕も華黒も無頓着だしなぁ……。百墨の両親に問うたが早いと思うよ?」


「ではそうしましょう」


 あっさりと白花ちゃんは頷いた。


 これで小学生なのだから畏れ入る。


 缶コーヒーを一口。


 会話は閉めに入った。


「言いたかったことはそれだけです。的夷伝纏子の排除を数日の内に行ないますのでそれだけを理解してくだされば幸いです」


「うん。それはまぁ」


 あんまり発症するのもどうかと思うしね。


「任せるよ」


「承りました」


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