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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
246/298

白井亨1


 三学期最初の日曜日。


 僕は一人、都会の駅地下を歩いていた。


 特に理由はない。


 あえて見繕うなら早起きしたからだろう。


 こういうことは稀にある。


 そしてそういった事態において一人になりたい気分になるのもしょうがないことではあった。


 習慣だ。


 華黒には書置きを残しているからそちらに問題はない。


 こういう時に限って現れるはずの昴先輩も今日は出てこない。


 というわけで僕は一人都会を歩いていた。


「…………」


 自覚はしてるんだけど認めたくないというか……。


 僕は女顔だ。


 それも知人に言わせれば、


「ちょっと言葉の表現では足りない」


 ほどの。


 それについては過去体験もあるし否定は出来ないんだけど、


「何だかなぁ」


 というのが本音。


 ともあれ都会の駅の地下街をブラブラと歩いている。


「何か華黒にお土産を買っていってあげようかな」


 なんて思いながら駅地下を歩いていると、


「ねぇねぇねぇ」


 気安く声をかけられた。


 チラとそちらを見やる。


「…………」


 男性が居た。


 歳の頃二十代前半といったところか。


 髪を金色に染めてスーツを着ている。


 ブランドの腕時計と金製の腕輪とが手首に巻かれていた。


 ホスト……なのだろうか?


「君、いいね」


「何が?」


 とは問わなかった。


 言いたいことはだいたいわかる。


 そしてソレを僕は認めたくなかった。


 歩き去ろうとする僕に、


「待って待って待って」


 ホストはついてくる。


「君すごくいいよ。うーん。学生でしょ? 学校じゃ敵無しじゃない?」


「急いでますんで」


 さらに歩みを早くするが、ホストはついてきた。


「ままま、そんな警戒しないで」


 この場合、


「無茶言うな」


 というのはポストに、


「赤いですね」


 というくらい無駄なことだ。


「怪しい者じゃないって」


「自分でそれを言いますか」


「ああ、何、疑ってる? だいじょーぶ。出版社の人間だから。ナンパじゃないよ? はい。名刺」


 そう言ってホストは名刺を差し出してきた。


 確かに大手の出版社の名前が名刺に乗っている。


「本物ですか?」


「あー、よく言われるんだよね。怪しげな勧誘? みたいな。でもこれは俺の趣味。仕事に制服ないからさぁ」


 ほう。


「で、何の用です?」


 最終的にお断りするにしても警戒すべき相手じゃないのは何となくわかった。


「ちょっと待って。君改めて見たら余計可愛くない? モテるでしょ?」


「まぁそれなりには」


 事実だ。


 嫌ってる人間の方が多いのはこの際言わなくていいだろう。


「その可愛さを活かした仕事したくない?」


「…………」


 さすがに再度警戒せざるを得ない。


 が、ホストは笑い飛ばした。


「だからそんなんじゃないって。なんなら名刺の電話番号で会社に聞いてみて。俺の名前は……」


「いえ、間に合ってます」


「待って待って待って。本当に怪しい仕事じゃないんだって。読モ読モ。読者モデルって言ったらわかる?」


「僕じゃなくてもいいでしょう」


「あれ? 僕っ娘? かーわいい。可愛い服着て写真撮られるだけだから。給料も出るよ。したくない?」


「ありません」


「そんなこと言わないでさ。その可愛さを武器にしないのは勿体ないって。君ならすぐ人気出るよ。ファッションの世界で天下とれるって」


 さいでっか。


 華黒を連れてこなくて正解だった。


 まぁ連れてきたからと言って華黒がホイホイついていくことはなかろうけど。


「十年に一人の逸材だよ。今までもアイドル勧誘とかされなかった?」


 あるけどさ。


 苦い記憶だ。


「あ、もしかしてメディアに顔出すの渋ってる? 大丈夫だって。君って十分可愛いから広まったって勲章にしかならないよ」


 喧嘩を売られているのだろうか?


 そんなことを思う。


「ね? いいでしょ? 一回だけでも読モしない? 嫌だったら止めればいいし。悪い様にはしないから」


 いい加減しつこい。


 そう思ってカッとなった僕としつこいホストを諌める声が聞こえた。


「そこまでにしておいてください。嫌がっている人に強制させるような仕事ではないでしょう? これ以上纏わりつくというのなら警察を呼びますよ?」


 そんな声。


 血濡れたような赤い髪にルビーのような赤い瞳の持ち主……白井さんが牽制してくれた。


 そして白井さんは僕の手を取ると、


「行きましょう真白様」


 そう言い僕を引っ張ってホストから引き離した。


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