鮮血デビュー2
「さて、では参りましょう兄さん」
「腕組み禁止ね」
「何でですかぁ!」
「信賞必罰を明確にしないと華黒は何処までもつけあがるから」
「私は兄さんの手を添えただけですよ? 揉んだのは兄さん自身じゃないですか」
「ほ~、へ~、そんなこと言うんだ?」
「……ごめんなさい」
よろしい。
「ま、そんなわけだからルシールも今日は勘弁してね。たまには一人で歩きたい」
「………………あう」
るし~る。
「お姉さんお姉さん、たまには黛さんと腕を組んでは如何?」
「嬉しい申し出だけど何だかなぁ……」
そんなことを言いながら、華黒とお揃いのマフラーを首に巻いて、二年生三学期初日の登校にして年初めの登校をすることになる。
ガチャリ。
これは僕が部屋のカギを施錠した音であると共に隣の部屋の扉が開いた音でもある。
「…………」
「おやまぁ奇遇でございます」
隣人の登場だ。
ちなみにルシールと黛のことではない。
茶髪をおさげにして瀬野二の制服を着た美少女。
血濡れのように赤い髪に同じ制服の美少女。
纏子と白井さんだ。
「おはようございます真白様」
「どうも白井さん」
「…………」
失語症の纏子はペコリと一礼するだけだった。
「どうせですから一緒に登校しませんか?」
「構いはしませんけど……」
困っちゃって頬を掻く僕。
また敵が増えそうだ。
「光栄にございます真白様」
様付けは止めてほしいなぁ。
立場上しょうがなくはあろうけど今の僕は白坂ではなく百墨だ。
言っても聞きゃしないから言わないけどさ。
さて、
「お姉さんお姉さん」
「うん」
わかってる。
「ルシールと黛、こっちは的夷伝纏子さんと白井亨さん」
「………………的夷伝先輩と……白井先輩」
「っすね」
気後れするルシールと気後れしない黛。
「で纏子と白井さん、こっちは百墨ルシールと黛楓」
「…………」
「存じております」
さすが。
既にこっちの情報は筒抜けらしい。
「ちなみに纏子は失語症だからその辺りは対応してもらえると嬉しい」
「それは構いませんが……」
黛はジト目になった。
「何で美少女二人が隣人で同校の制服を着てるんですか?」
それは答えを言ったも同然じゃない?
「まぁ色々ありまして」
「お姉さんの色々は総じて厄介事ですよね」
「否定はしないよ」
耳が痛い。
「ちなみに華黒?」
さっきから一言も発していない華黒に視線をやる。
「……何ですか?」
オーラが華黒から溢れていた。
「華黒に黙っていられるととても不安なんだけど」
「信賞必罰です」
そう来たか。
「華黒様のお気持ちもわかりますが、こちらの心情も斟酌していただければ幸いです。これからクラスメイトになるわけですし」
「………………ふえ」
るし~る。
「クラスメイト……っすか……」
警戒する黛。
ちなみに僕と華黒は既にその情報を持っている。
今更驚くには値しない。
だからといって納得できるかはまた別問題なんだけどね。
「お姉さんと同級生……と」
「わたくしにとっては今更ですが」
苦笑する白井さん。
「?」
首を傾げる僕。
「…………」
纏子がスマホを操作した。
ラインだ。
僕の持つスマホが振動する。
「みゃ~。白井はアメリカの大学院を出てるんだにゃ」
そんな文面。
当然纏子だ。
「ほほう」
興味深げに黛。
「………………すごい……ね」
感心するルシール。
「フシャー!」
どうしったって相容れない華黒。
華黒の頭をよしよしと撫でて機嫌を取り、
「じゃあクラスメイト同士仲良く登校しましょうか」
そんな提案。
かしまし娘にしてみれば有り得ない選択肢だろうけど、
「纏子がいるしね」
というのが僕の結論。
そんなわけで僕こと真白、華黒、ルシール、黛、纏子、白井さんの六人で瀬野二に登校するのだった。
衆人環視の、
「何事か」
という視線も慣れたモノだ。
またよからぬ噂が立つのは……しょうがないか。