天敵論2
「うん。似合うじゃないか」
これは昴先輩の言。
「皮肉ですね? 皮肉なんですね?」
これは僕の言。
何がどうなったかというと、スーツを着せられました。
ただし女性用。
見た感じOLだ。
ピタリと脚部に纏わりつくタイトスカートは冬の風の前には虚しく、下着が見えそうで恐い。
何の下着をつけているかって?
僕の名誉のために黙秘権を行使します。
この間に強烈な嘔吐感が入るんだけど、現在発作は収まっている。
そして僕と昴先輩はレストランで昼食をとっていた。
ファミレスじゃないモノホンのレストランだ。
ちなみに先輩はスリーピースのスーツ姿。
かっこ男性用かっことじ。
因果の逆転というか男女の逆転というか。
何で僕が女装して、昴先輩が男装しているのだろう?
言っても詮方無きことではあるんだけどさ。
「しきりに恥じらう真白くんの仕草も可愛いね」
誰のせいだ。
「真白くんはどうする?」
何が?
「私は無難にコースを頼むつもりだが」
「先輩に任せます」
他に言い様がない。
昴先輩はウェイターを呼び止めると、
「コースランチを二つ」
と注文した。
どうせ昴先輩のおごりさ。
「しかしてよく僕が一人になると先輩は現れますね」
「まぁ色々あってね」
「統夜ですか?」
「だね」
「…………」
思案する。
「まさか僕の事情を逐一把握しているわけじゃないですよね?」
「私はそうさ」
「統夜は?」
「知らないよ」
昴先輩は肩をすくめる。
「統夜の奴……」
妙に何かを見透かしたようなところがあるからね。
「私は統夜の挑発に乗っただけさ」
乗るんだ。
「真白くんと二人きりに成れる機会なんてそうないからね」
それはわかる。
基本的に僕と華黒はいつも一緒だ。
最近はそこにルシールと黛まで加わっている。
あとは纏子と白井さんか。
「見限ったらどうです?」
そんな提案。
「却下だね」
却下なんだ……。
「真白くん?」
「何でっしゃろ?」
「白坂に帰服したまえ」
「敵対することになりますよ?」
「だから私と真白くんで酒奉寺と白坂の確執を溶かそうじゃないか」
「興味ありません」
心底本音だ。
「華黒くんも白坂に帰服すればいいだろう?」
「華黒は僕を他者に委ねることはしませんよ」
それは絶対だ。
万物の理論にも勝る。
くつと笑ってしまう。
「華黒は僕を養う気まんまんですから」
「愛されてるね」
「否定はしません」
皮肉気に苦笑する。
「しかしなんだな」
昴先輩は言葉を紡ぐ。
「真白くんはそれでいいのかい?」
「まぁ別に悩むことでもないかと」
華黒に養われるのも一興かと。
本心じゃないけどね。
「なら私を結婚するといい」
「理論の飛躍」
「私なら真白くんと華黒くんを養えるだけの能力は持ってるさ」
「代わりに玩具にされそうですけど……」
「愛らしいものを愛でるのは私の業だ」
さいでっかー。
それから会話を交えながら時間を潰していると、ウェイターがコース料理の初めであるウミガメのスープを出してきた。
レストラン特有の空気に馴染めない僕。
「気にすることはないさ」
そんな僕を慮ったのだろう。
昴先輩が苦笑した。
「自身の食べやすいやり方で食べればいい」
透明なスープをスプーンですくって口に運ぶ昴先輩。
そこには上品さが伴っていた。
世界が違うなぁ。
そんなことを思う。
それから僕と昴先輩はコース料理を楽しんだ。
生ハムサラダ。
パスタ。
グリル。
デザート。
どれもが一級品だった。
星を抱えるレストランなんだから当然っちゃ当然なんだけど。
「さて」
これは昼食を終えた昴先輩。
「華黒くんもいないことだし二人っきりの蜜月を楽しもうじゃないか」
華黒に殺されたらしいね……昴先輩は。