後輩の帰還3
で、デートを終えて帰宅。
今日の晩御飯はキーマカレー。
料理人は華黒……ではなく黛とルシール。
僕と華黒とルシールと黛で、ルシールと黛の部屋のダイニングにて夕食をとっている最中というわけだ。
材料はデートの最後に百貨繚乱で買った。
その後、ルシールと黛に招待されてキーマカレーを食している僕らであった。
「作ったのはほとんどルシールっすけどね」
黛がルシールを持ち上げる。
「………………私は……黛ちゃんの……指示に従っただけ」
謙虚と臆病が一対一のルシール。
ルシーってるとも言う。
「黛さんはちょこちょこっと助言しただけじゃないですか」
「………………助言できるだけ……立派」
「美味しいですよルシール」
これは華黒。
黒真珠の瞳には優しさが映っている。
「同感」
僕も同調する。
「………………ふえ」
ルシーるルシール。
「包丁の使い方もこなれてきましたし、ダシのとり方にも勘が働くようになりましたし、多分黛さん抜きでもそれなりの料理は出来ると思うっすよ?」
「………………そんなことない」
「あるっす。黛さんのおべっかじゃないっす」
「実際美味しいし」
カレーを咀嚼嚥下して僕。
隣で華黒がコンソメスープ(出来合い)を飲んでいた。
「何か黛さんたちがいない間に変わったこととかなかったっすか」
「…………」
ピタリとコンソメスープを飲んでいた華黒が停止する。
口がへの字に歪む。
「あったんですか……」
察しがいいね。
そうでなくともわかることではあるんだけど。
「…………」
僕は黙々とキーマカレーを食べる。
「知り合いが隣に引っ越してきました」
嫌そうに表情を歪めながら華黒が言った。
さもあろう。
何せ結果が結果だ。
多分華黒にしてみれば流血沙汰にしても排斥したい概念に違いない。
それをしないのは偏に僕がストッパーとなっているからだ。
便利ね。
主に僕が。
「あんまり楽しそうな話じゃなさそうですね」
黛はだいたい察したらしい。
「………………?」
ルシールは平常運転。
「名は?」
「的夷伝纏子と白井亨」
まといでんまといご。
しらいとおる。
「的夷伝? 珍しい苗字っすね」
「白坂の分家らしいです。白井さんの方は纏子の使用人ですね」
「お姉さんとお姉様の隣に引っ越してきたってことは……」
「ええ、今年からクラスメイトです」
「白の一族はやりたい放題っすね」
そうかなぁ?
言葉にはしないんだけど。
「お姉様としては気が気じゃないと?」
「それについては黛も範疇ですが?」
「いや耳に痛い」
くつくつと黛は笑う。
カレーを黙々と食べる僕。
何を言えと?
「お姉さんモテモテですね」
それは死語だと思うな。
いいんだけどさ。
「お姉さんとしてはどうなんですか?」
「別に」
本心だ。
「迷惑さえかけなければ何処で何しようと僕には関係ないし」
「思いっきり関係してるから憂慮してるんです」
そんな華黒の反論。
「しょうがないじゃないか。僕には自分が見えないんだから」
「だからこそ距離を取るべきです」
「言いたいことはわかるけど……」
「兄さん?」
「何?」
「兄さんは私だけを見ていればいいんです」
だろうね。
「もうちょっと融通きかない?」
そんな僕の願い。
「………………ふえ」
クシャッと顔を悲哀に歪ませるルシール。
「にゃはは。お姉さんは罪な人です」
黛は楽観的に言う。
これ以上話題を促したくなくて僕はカレーを黙々と食べる。
「兄さんは誰彼に優しすぎます」
それが僕だからね。
「たまには自分を優先してください」
無茶言わないでよ。
出来るならとっくに実行している。
何より華黒にだけは言われたくない。
「………………真白お兄ちゃんは……まんざらでも?」
「まんざらというかうんざりだけど」
「………………そう」
るし~る。
どうせクラスメイトになるんだから逃げることも出来ないわけで。
「問題は……」
華黒を愛しているが故にどうやって華黒をあやすかに尽きる。
「黛さんも愛してください」
「………………私も」
「兄さん?」
瞳に剣呑を乗せる華黒。
僕のせいじゃないでしょ?