後輩の帰還2
と、いうわけでまたしても百貨繚乱。
まさか四人横に並んで歩くわけにもいかず僕と華黒、ルシールと黛がそれぞれ並んで歩く。
問題は……、
「このカルテットだよねぇ……」
華黒は言うに及ばず。
ルシールは華黒に匹敵し。
続く形で僕と黛。
美少女四人(僕および皮肉を含む)が歩いていたら視線を集めるのも当然。
もっとも華黒や昴先輩で慣れてるから今更なんだけどさ。
「お姉さん?」
「なぁに?」
「うんざりしてます?」
「主に僕の業に対してね」
「優しいですねぇ」
「…………」
自嘲をそう呼ぶことがあるんだ……。
「黛さん的にはお姉さんを着せ替えさせたいんですけど……」
「…………」
この沈黙は華黒のモノ。
僕の腕に抱きついていたんだけど、その腕の力が強まった。
言いたいことはわかる。
それは僕の心的外傷だ。
「黛?」
「待った華黒」
「兄さん?」
「それと知らない黛にあたるのは無しだよ」
「むぅ」
唇を尖らせる華黒は可愛らしかったけど言葉にはしてやらない。
「美少女が三人いるんだから君らでファッションショーをやればいいじゃん」
「お姉さんは不参加で?」
「男物の服装なら別に構わないけどさ」
「じゃあまずは女子ブランドから見てまわりますか」
そう言って黛はルシールの手を握って僕らを先導した。
「………………あう」
とルシーるルシールだった。
女性向けブランド店に足を踏み込む僕ら。
店員さんから他のお客さんまで動揺していた。
無理もない。
絶世の美少女四人(僕および皮肉を含む)が現れたのだから。
「お、新作出てるっすねぇ。ルシール、これ着てみない? きっと似合うっすよ?」
「………………あう」
るし~る。
「兄さん兄さん」
「はいはい?」
「このセーターと鞄はどうでしょう?」
「華黒の感性で選べばいいと思うよ」
正直服に関しては門外漢だ。
「では試着してみます」
「はいは~い」
「ルシールもはいこれ。試着してみて」
これは黛。
「………………真白お兄ちゃん」
「まぁ試着はタダなんだから着てみれば?」
「………………うん」
中略。
ブランド服を試着した華黒とルシールがカーテンを開いた。
華黒はセーターと革の鞄。
ルシールは薄い灰色のコート。
どちらも良く似合っていた。
ていうか……、
「華黒。狙ってるでしょ?」
華黒の鞄の紐が肩から袈裟にかけられていて、華黒の程よく大きい胸を強調していた。
セーターと鞄による胸部強調は古典的戦法だ。
「どうです兄さん? 欲情しますか?」
「ルシールは似合ってるねぇ。可愛いよ」
「わかりやすく無視されました……」
「………………あう」
華黒は不機嫌。
ルシールは照れ照れ。
「買うの?」
「どうでしょう?」
「………………どうだろう?」
ま、そんなところか。
そんなこんなで僕を除く女子三人が服を検分して試着するのだった。
キャッキャと騒ぐ女子三人。
まぁ放っておこう。
妹と後輩の楽しむ様を傍観する。
と、
「お客様……」
店員さんが声をかけてきた。
「何でしょう?」
返す僕。
「お綺麗でいらっしゃいますね」
褒めてくれてるんだろうけど皮肉だね。
「うちのブランドのモデルなど興味はありませんか?」
「モデル……ですか?」
「はい。そうです」
「遠慮します。華黒……あっちの連中に提案してやってください」
「お客様なら何を着ても似合いますよ」
店員さんは食い下がった。
「ギャラは幾らでも相談させてください。きっとお客様なら……」
それ以上聞いていられない。
「僕、男の子ですから」
「…………」
店員さんの沈黙。
気持ちはわかるけど事実です。
「ので、却下で」
僕とて男の子としての矜持くらいはある。
昴先輩辺りに振り回されでもしない限りにおいて女装なぞ願い下げだ。
「失礼しました」
そして店員さんはすごすごと引き下がった。
結局その店では何を買うでもなく。
僕らは百貨繚乱でのデートを楽しむのだった。