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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
229/298

新たな隣人2


「…………」


 的夷伝さんは華黒を見ておろおろとたじたじの間くらいの感情を見せていたけど、ヒョコッと厳寒の玄関を覗く僕を見てパッと瞳に光を映した。


 喜色のソレだ。


 無論……見逃す華黒ではない。


「…………」


 僕と的夷伝さんを交互に見やって、


「排除してもいいですか?」


 僕に問うてきた。


 遠慮も躊躇も屈託もない。


 おそらく気負いさえないのだろう。


 僕はカップに入っているコーヒーを飲む。


 昆布をガジガジ。


 そして結論付けた。


「駄目」


「理由を聞いてもいいですか?」


「まだ理由を聞いていないから」


「むぅ……」


 懸念はわかるけどさ……。


 そもそもにして僕に近づくなら誰であろうと(この際老若男女関係なくという意味だ)抵抗を覚えるのが華黒である。


 ルシールだけが例外で、それもある条件下において許されている類のモノである。


 白花ちゃんや昴先輩や黛には相も変わらず敵意を封じ込めるのに苦労すると当人が語っていた。


 華黒は過去が過去だからしょうがにゃーっちゃにゃーんのだけど。


 さて、その上で、


「…………」


 的夷伝さんの訪問だ。


 勘ぐるなという方が無理だ。


 失語症。


 自傷癖。


 そんな的夷伝さんが何を以てここに来たか。


 可能性自体は多数あるけど、この場合の引き算は簡単だ。


 なにより瞳が答えを示している。


 が、それはあくまで可能性。


 事実はいつだって認識されて初めて確定する。


 シュレディンガーの猫を引き合いに出さなくとも、そんなものは至極的な道理というものだろう。


 人は結局知りえることしか知りえないとすれば人間原理も捨てたモノじゃない。


 極論かな?


 閑話休題。


「的夷伝さん」


 僕は名を呼ぶ。


「…………!」


 怯えるようにビクッと震えらっしゃった。


 何かに怯えているようだ。


 その根幹はわからないとしても気持ちそのものは僕にも華黒にも理解可能だ。


 もとより道化が人間のふりをしている僕と華黒にとって『怯え』は自身を構成する精神単位に相当する。


 再び閑話休題。


「何か用?」


 とりあえずはまぁ状況を確定させなば始まるまい。


「…………」


 黙して語らぬ的夷伝さん。


 というか失語症だから答え様も無いのだろうけど。


「…………」


「…………」


「…………」


 しばし三者三様に沈黙。


 僕は状況を憂慮して。


 おそらく華黒は攻撃性を封じるため。


 的夷伝さんは……なんだかな。


 多分もっとも言語思考を駆使しているのは的夷伝さんだろう。


 何を以て僕と華黒の城を訪問したかはわかりたくないけど、概ね察してしまっている。


 宿業ってこういう時に使うのかしらん?


 三度閑話休題。


「……ええと」


 カップに入っているコーヒーを飲み干すと、


「華黒」


 と妹を呼ぶ。


「何でしょう?」


「コーヒー淹れて」


「はいな」


 声に気がない。


 僕への奉仕より的夷伝さんの事が気になるのだろう。


 可愛い奴め。


「かーぐーろっ」


「はいな?」


 振り返った華黒に、


「チュ」


 軽くキスをした。


 ただしほっぺに。


 真水に食紅を多量に突っ込んだかのように華黒の顔が真っ赤になる。


「これで安心した?」


「敵いませんね……」


 苦笑した華黒だったけど瞳の色から憂いが消える。


 同時にそれは的夷伝さんへの牽制にもなる。


 僕はコーヒーを用意し始めた華黒の傍を横切って玄関に応対する。


「何か用があって来たんでしょ?」


「…………」


 コクリと頷く的夷伝さん。


「失語症だっけ?」


「…………」


 コクリと頷く的夷伝さん。


「何かしら意思表示が出来るものでも持ってきたの?」


「…………」


 コクリと頷く的夷伝さん。


 なら話は早いね。


「それで? 何の用?」


「…………」


 的夷伝さんは懐から剃刀を取り出した。


「あ」


 嫌な予感。


 が、止める間もなく的夷伝さんの持つ剃刀は所有者の手首を切り裂いた。


 自傷癖。


 勘弁してよ……もう……。


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