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超妹理論  作者: 揚羽常時
カルネアデスロマンス編
225/298

お正月カプリッチオ4


 ピンポーンと玄関ベルが鳴った。


 僕はと言えば茶をすすって昆布を齧る。


 コタツでぬくぬく。


 立ち上がる素振りすら鬱陶しい。


 玄関対応は華黒の仕事だ。


 ……と実はそこまで割り切っているわけではなく、


「やれやれ」


 客に、予想がついていただけなんだけどね。


 で、そうである以上華黒を刺激するのも何だかな。


 僕にはこういったことに関していくつかの前科がある。


 故に玄関対応は華黒に任せた。


 多分そうでもしなければまた問答無用に拉致されるのは火を見るより明らかだ。


 案の定玄関対応をした華黒は訪問者とキンキンキャンキャンと言い争っていた。


「まぁそりゃそうなるよね」


 僕はどてらを羽織ると昆布を齧りながら玄関へ。


 もちろん争いを止めるために。


 僕が姿を現すと、


「あ、お兄様」


 来訪者が僕をお兄様と呼んだ。


 黒いボブカットが似合う小学生。


 七五三を連想しそうな着物を纏っていて梅の花の簪を髪にさしている。


 名を白坂つづらざか白花はくかという。


 名家、白坂つづらざか家のお嬢様だ。


 そして血縁関係では僕の本物の従妹となる。


「あけましておめでとうございますわお兄様」


「はいはいあけおめことよろ」


 ぞんざいに僕は返す。


「お約束は……忘れておりませんよね?」


「まぁそれで貸し借りが無しになるなら安い買い物だけどさ」


 全てが通じている……とでもいうかのような僕と白花ちゃんのやりとりに我慢できずに激昂する妹一人。


「どういう意味です!」


「実はかくかくしかじかで」


 僕はしがらみを語って聞かせた。


 一部を除いて。


 要するに白花ちゃんに頼んで黛の背景を洗ってもらって、その代償として正月に白坂の家に顔を見せると約束したことだ。


 無論、その原因となった黛による僕への拷問は伏せた。


 当然だ。


 流血は避けるべきものであるからね。


「そんな約束なんて反故にすればいいじゃないですか!」


 とは言ってもねぇ。


 約束は約束だし。


「きっと白坂白花の脳内は煩悩にまみれていますよ! 兄さんを独り占めしてグヘヘ今夜は寝かせねぇぜ的な思考を持っているに違いありません」


 あの……その言は盛大に墓穴を掘ってはいやせんかね?


「ていうかそんなこと思ってたの華黒?」


「無論です!」


 無論なんだ。


 まぁ思想の自由は憲法で認められてるけどさ。


 昆布をガジガジ。


「だいたい白花ちゃんは小学生だよ? 性欲の対象外だって」


「むぅ」


 呻く華黒。


 どこまで信用ないんだ僕は。


 と、ここで白花ちゃんが口を挟む。


「逆に考えてください」


 と。


「お兄様が大人になった時にはクロちゃんはおばさんです。そして私はピチピチです。お兄様にとって私の青田買いは決して悪い買い物じゃないはずです」


 死にたいのかな?


 この子は……。


 ギラギラと瞳に灼熱をともす華黒。


 そんな華黒の頭にポンと手を置く。


「大丈夫だよ」


「何が?」


 とは華黒は問わなかった。


 わかりきっているからだ。


 同じく地獄を体験した者として。


 等しい罪悪を執行した者として。


 僕の隣に立てるのは華黒だけだ。


 言葉にはしない。


 する必要が無かった。


 しおしおと殺気を収める華黒。


「ま、そういうわけですから」


 これは白花ちゃんの言の葉。


「お兄様をお借りします」


「私もついていきます」


「はぁ?」


 困惑ではなく挑発の言だ。


「私にとって用があるのはお兄様だけなのですけど?」


「私は兄さんの恋人です」


 照れるね。


「なるほど黛の件を借りにして兄さんを縛ろうというのは尤もですが、私がついてきてはいけない道理はありますか?」


「むぅ」


 今度は白花ちゃんが唸った。


 大変だね君たち……。


 ものすごい勢いで棚を上がる僕だった。


 昆布をガジガジ。


「ともあれ」


 僕は場を治めに入る。


「出掛ける準備をしなければいけないから白花ちゃんは待ってて。華黒はついてきたいというならそれもいいさ。以上解散」


 そして僕は実家の自身の部屋へと向かうのだった。


 どてらを脱いでシャツとジーンズとコートを纏う。


 コートは華黒と合わせで買ったモノだ。


 僕が黒色。


 華黒が灰色。


 というのも華黒は黒髪ロングなので黒いコートなぞ着せると視覚的に重くてしょうがないなんて事情がある。


 コートを羽織って僕と華黒は白花ちゃんに招かれ車上の人となった。


 外気に晒されると息が白くなる。


 ああ、冬だ。


 今更ながらにそんなことを思う。


 こういう感情を指して雅と云うのかな?


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