お正月カプリッチオ2
「じゃあ華黒ちゃん、お兄ちゃんのことヨロシクね?」
母さん……わかって言ってるんでしょうね?
「任せてください」
華黒の分かりやすい返事。
「それじゃ後はお二人で~」
不安しか感じられないんですけどそれもどうよ?
ブロロロロとエンジン音が遠ざかっていく。
父さんと母さん実家に挨拶回りだ。
ちなみに僕と華黒はお留守番。
というのも百墨の親戚に良く思われていないためだ。
もっとも、そうでなくても今年に限って言えば予定があるからついてはいけないんだけど。
で、父さんと母さんを送り出した後、僕と華黒の二人きりで百墨家のお留守番。
「兄さん?」
「駄目」
「まだ何も言ってませんよぅ……」
「どうせ姫始めでしょ?」
「むぅ」
どこまでわかりやすいんだ……うちの妹は。
「たまの二人きりなんですから満喫しましょうよぅ」
「いつも一緒に寝てるでしょ?」
「寝ていません」
「……そっちの意味じゃないよ」
頭の頭痛が痛い。
「じゃあ僕は近場の古本屋に行ってくるから家事一切よろしく」
「兄さん……愛してますぅ……」
「僕も華黒を愛してるよ」
ひらひらと手を振って僕は徒歩にて古本屋へと向かうのだった。
中略。
古本屋はセール中だった。
全国にチェーン店を持つ有名どころだ。
本だけでなく衣類やら玩具やらDVDやらゲームやらを値引きしていた。
今の時代、本だけで生計を立てるのは難しいということなのだろう。
とりあえず僕は漫画コーナーにて立ち読みをする。
跳躍やら日曜日やら雑誌やらに掲載されている漫画の人気作をペラペラとめくる。
漫画そのものは好きなのだけど、
「購入する」
ということを僕はしない。
それはコンビニで立ち読みしているから週刊連載を追いかけていける故のものでもあろうけど、それ以上に漫画の単行本が場所をとる事があげられる。
対して文庫は小さく場所をとらず一冊ごとの読了時間も長いため暇つぶしなら漫画より文庫だ。
「さて……」
適当に漫画の立読みを切り上げて僕は文庫コーナーに足を向けた。
何を読もう?
最近読んでいたのが外国の推理モノだったから今度は頭を使わないで読めるものでもいいかも……。
そんなことを思う。
必然足はジュブナイルのコーナーへ。
ライトノベル。
ラノベ。
そう呼ばれているジャンルだ。
瞳の大きな可愛い女の子の表紙が出迎えてくれる。
ジュブナイルは嫌いじゃない。
伝統も大切だけど商業主義だって大切だ。
そういう意味ではジュブナイルは認められてもいいと思う。
ツンデレ幼馴染。
クーデレ優等生。
ヤンデレ妹。
あれ?
最後のは経験があるような?
というか僕の状況がある意味でジュブナイルだ。
色んな女の子に好意を持たれているって時点でね。
ま、その分衆人環視による嫉妬や嫌悪の視線を浴びているのでヒフティヒフティだろう。
ともあれ僕はジュブナイルを検分する。
最近の流行は把握してるけど正直そちらには食指が動かない。
読んでもいいんだけど波に乗れないというか……。
転生やハーレムは男の子のロマンだけど僕にしてみれば食傷気味だ。
それが嫌で外国の推理モノなんかを読んでいたんだけどね。
ともあれ頭を使わず読めるものを探す。
あらすじを読みながら取捨選択。
ふと目にとまったのは可愛らしい女の子が日本刀を持っている表紙のジュブナイルだ。
殺人をテーマにしている作品らしい。
衝動買い。
気づけばレジに持っていっていた。
「中々面白そうだ」
と思ったのが一つ。
「殺人をテーマにした」
というのに惹かれたのが一つ。
セール中故に二割引きで買ったジュブナイルを持って家に帰る。
「お帰りなさいです。兄さん」
「ただいま華黒」
「また本を買ってきたんですか」
「暇だからね」
「暇なんてとんでもありません!」
「なして?」
「兄さんは私の相手をすべきです」
「してるでしょ?」
「言葉では足りません」
「肉体言語ってこと?」
「意味は違えどそうです!」
「…………」
沈黙。
他に対処があるなら聞いてみたいものだ。
「華黒」
「何でしょう?」
「お茶淹れて」
「兄さんのためなら!」
こういうところは可愛らしいんだけどなぁ。
「ちなみに何をご所望で?」
「ほうじ茶」
「了解です」
そしてパタパタと華黒はキッチンに消えていった。
僕は買い物袋からジュブナイルを取り出して華黒の茶を待ちながらリビングで読み始めるのだった。