『クリスマスキッス』10
クリスマスパーティはつつがなく終了して、僕と華黒は我が家へと帰っていた。
実家ではなくアパートの方である。
念のため。
明日はクリスマス当日。
しがらみから解放されて華黒とデートをする予定だ。
なんというか両想いでなおかつ気持ちは通じあっているのに周りに振り回されているせいで外ではあまり二人きりにはなれない僕たちだった。
それもこれも誰が悪いって僕が悪いんだけど。
元より気持ち通ずる前から白花ちゃんや昴先輩にちょっかいをかけられて、今年度からはルシールと黛まで追加された。
華黒もいい加減僕に愛想が尽きても良い所だろうけど、それが出来るのならこんな状況ではないわけで。
久方ぶりに二人きりのデートを楽しむ予定だった。
今日は一緒のベッドで眠る。
常識論に則って寝る以上のことはしないけど。
「兄さん?」
「なぁに?」
「今日はたくさんの人とキスしましたね?」
「うん……まぁ……」
言葉が濁るのもしょうがない。
「兄さんは私の物だと理解してますか?」
「恋人であるということは理解しているよ?」
「であれば証明を求めます」
「えい」
僕は掛け声一つ華黒の両頬をプニッとつねった。
ブルドッグ。
「何をするんです?」
「嫉妬は可愛らしいけど裏を返せば不信のタネでもあるよ?」
「ならば信じさせてください」
やれやれ。
じゃあとびっきりのを。
僕は華黒の唇に唇を重ねる。
ついばむように華黒の唇を何度も奪う。
それから唇の隙間に舌を潜り込ませて口内を凌辱する。
唾液の交換。
吐息の交換。
「ん……はぁ……!」
酔ったように声を上げる華黒。
可愛い可愛い。
「……! ……!」
グチャグチャに華黒の唾液を舐めとって、その舌で華黒の口の端を濡らす。
その延長線上にあるのは耳。
華黒のブラックシルクもかくやという黒髪を丁寧に払って、僕の舌は華黒の耳をツイーと舐める。
「に……ぃ……さん……!」
感じ入ってる華黒には悪いけど取り止める気は毛頭ない。
クチュクチュと耳を舐め、その裏側を舐め、そして今度は人体基準で下方へ向かう。
首筋だ。
僕と華黒の唾液が華黒の首を濡らす。
「もうちょっと」
僕は華黒のパジャマの上のボタンを解放して首筋をねっとりと舐めつくす。
最後に強く華黒の首をついばんで終わり。
キスマークをつけたのはつまり、
「華黒は僕の物」
という証だ。
「これで信じた?」
「あう……」
言葉もない、と。
うっとりとしていた華黒の眼が、
「…………」
時間が経つにつれ剣呑な光を映し始めた。
「兄さん!」
「嫌」
けんもほろろ。
「何も言ってませんよぅ……」
「言わなくてもわかるし……」
「兄さんは私が欲しくないんですか?」
「別に人並みに欲はあるけど……」
「躊躇う必要もない事柄じゃないですか」
「あんな過去を背負っておきながら良く言えるね」
「だって兄さんはあんな男とは違いますもの」
なんだか言葉の語尾にハートマークとか付いてそう。
「僕は少し怖いな」
「そなんですか?」
「うん。まぁ……」
トラウマレベルだ。
本能と心情がいつも同じ解を出力するとは限らない。
性欲はあるけど交合は怖い。
それが正直な僕の気持ち。
もっともタガが外れないための努力もしてるし、いつかコトをいたすにあたってのイメージトレーニングもしてるんだけど。
「兄さん?」
「なぁに?」
「私は何時でも何処でもウェルカムですからね?」
「…………」
何時でも何処でもですか……。
それは何とも……。
らしいっちゃらしいんだけどさ。
「それにしても情熱的なキスでした」
「僕からのクリスマスプレゼント」
語尾にハートマーク。
「この高ぶりをどうやって沈めましょう」
「場合によってはたたき出すからね?」
「そんな!」
「驚くところじゃないと思うんだけど……」
どこまでいっても華黒は華黒らしい。




